第23話 御三家の闇



  *



「K、聞こえるか。少し頼みがある……」


 オレは夜道を走りながらチューニレイダーでKに連絡を取っていた。


 できれば早めに出てほしい。夜なこともあり、彼女がすぐ応答してくれるかは分からないが。


 現在オレが走って向かっている方角は、里緒と三体の影が戦っている位置とは逆方向。

 可能ならば里緒の討伐に加勢したいところだが、多分オレが戦闘に加わってもあまり意味がないだろう。

 それを解決するために、今行動している。


『………えっと、統也……? 私の声聞こえてる?』

「ああ聞こえている。いきなりで悪いが、先刻言った通り頼みがある。出来れば急いでほしい」

『……わかった。けど、私は何をすればいいの?』


 何の説明もない状態で、突然こんな頼み事をしているのに、快く引き受けてくれたKには感謝しなければならない。


「今オレのいる付近で、異能者を探知にかけてほしい」

『んと……多分それは出来ないかな。今現在異能を使用している人とかなら、まだ検知出来るかもだけど』

「いや、むしろそっちの方がありがたい」

『そうなの? まぁ分かった。今調べるから少し待って……』


 チューニレイダーの向こう側から、カタカタとタイピングしている音が聞こえてくる。何かしらのコンピューターを操作することで捜索しているのだろう。


『関係ないんだけど、なんかあったの? 軽く事情が知りたいかな』


 至極当然なことだろう。何の事情も知らず、いきなり調べろと言われても混乱するだけだ。


「実はな……わけあって今、オレのギアと影が戦っている最中なんだが……」

『ギア決まってたんだ。うん、それで?』

「その戦闘を遠くから観察している最中、影の後ろに無数の線のような物を見た。あれは異能士の仕業だと考えるのが妥当だろう」


 この線は、オレの「浄眼じょうがん」のお陰で可視できたと言っていい。

 通常の可視能力では見えることのないものだろう。実際にオレがこの眼の起動を止めると、途端にその無数の線が視界から消えた。

 

『その線を動かしている異能士を探したいのね?』

「ああ。だが問題はその線が何なのかということだ。オレが3月に戦った影の背後には、あんな不気味なものはなかった」

『資料の中でも影の後ろにそんなものがあるなんて報告はない。高確率でその「線」に関わっている異能士がいるだろうね……』


 正確に数えたわけではないため実際のところは分からないが、あの無数の線はおよそ100本あり、そのどれもが地下へと続き、影と里緒のいる反対方向に繋がっていっていた。


「でもあの線……。あれは……」


 実はあの線に近しい内容の噂をいくつか知ってた。


『ん? どうかしたの?』

「ん、いや、何でもない……」


 確証もないし、もしオレの想定通りなら、そいつの意図が謎すぎる。

 

『まあ、その話は後でするとして……。今統也が歩いている道を右に曲がって突き当りを左。その先に倉庫があるはず。高確率でその付近に異能使用者がいる』

「了解」


 関係のないことだが説明していないのにも関わらず、瞬時に戦闘中の里緒をオレのギアだと見抜き彼女を除外して捜索してくれた。

 影と戦闘するために里緒も現在異能を使用しているだろうからな。レーダー検知には引っかかっていたはずだ。


 こういうところからも、Kがいかに優秀なコンダクターであるかが分かる。

 オレの幼少期からの師匠―――――伏見しゅんより特別推薦されるほどの補佐指揮官コンダクター

 旬さんから蓋世不抜がいせいふばつ高材疾足こうざいしっそくと称されていたのも過大評価ではないだろう。

 

 オレは頭の中に地図を描き、大体10分あれば到着するだろうと見積もる。


『その倉庫に着くまでにまだ時間があるだろうから聞くけど「浄眼」を使ってたならどうしてその「線」の繋がれている先が分からなかったの?』


 オレはすぐにその言葉の意味を理解する。

 仮にオレが透視すればその線を追うことで発生点にまで辿り着けるはずだからだ。


「地下へと続いているのを確認したまでは良かったが、その後すぐにオレの浄眼の効力が切れたからだ」


 「浄眼じょうがん」は一見便利に思えるかもしれないが、利点だけが存在するわけではない。未熟なこともあり、未だ制御しきれていない。


 特徴は発動中の瞳が青く変色すること。物理的な距離を無視し透視を可能にすることやマナのたぐいを視認できることなどが挙げられる。


『なるほど、道理でか……』

「ああ」


 そこまで話したところで、倉庫の前までくる。


『目標に着いたみたいだね。……行ってら。また後で』


 彼女はそれだけ言うと、チューニレイダーの連絡接続を切る。

 行ってきます、と冗談で言おうとしていたが、そんな暇もなく連絡を切られてしまった。


 塩対応だな……。


 そんなくだらないことを考えながら、オレは慎重に倉庫の敷地に入っていく。

 どうやらこの倉庫も他の建物と同様にもう使われておらず、廃墟と化しているようだ。

 街灯から離れるていくので倉庫周辺は完全に暗闇となった。

 オレは音が立たないようにそっと倉庫のドアを開ける――――。


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