第22話 任務失敗の兆し(里緒)
*(里緒)
奴らの血がプラチナダストとして蒸発していくが、体全体が蒸発していく気配はないし、紫紺石が出現する様子もない。どうやら
あたしは急いで自分の両手をそれぞれの影から引き抜き、数メートル後退する。
同時にあたしの手元で展開していた異能「
自分の手に付着した影の血もプラチナダストとして蒸発していく。
「正直、今の不意打ちで
正面にいる影のうち一体は私の攻撃を当てていないため、傷を再生中の他の二体の影を超えて、私に向かってくる。
奴の手がプラチナダストを発生させながら変形していく。
基本的に影はナイフや刀といった人工の武具を使用し、スピードとパワー重視の攻撃を仕掛けてくる。
だが、一定のレベルレートを超えた影は独自に自分の体の一部を変形させる技術を持つようになる。
今、目の前にいる奴もそのうちの一体だろう。右腕を大きな剣のような形に変形させ、とんでもないような速度で襲い掛かってくる。
ビュンッ。
風を切ったような音が鳴る。
あたしは素早く体をねじらせ、その攻撃を避けるのに成功する。
………が、この剣で装備された影の手による攻撃をかわすことで精一杯だったあたしは追加で入れられた奴の蹴りに対応できなかった。
当然あたしはその蹴りを避けられずに脇腹に直撃し、その勢いで吹き飛ぶ。
「ぐはっ……!!」
飛ばされたあたしは道路上で腹部の激しい傷みに身を悶えさせながら、あることを考えていた。
もう気付いていた。
おかしいと思った……。
不意打ちで、しかも最大出力で打ち出した
なのに…………二体とも死ななかった。まずそこからしておかしい。
何かがおかしい。
しかも手の変形まで使えた。あれは確かA級の影しかできないはず……。
どういうこと……?
あたしと仮のギアを組まされた彼が、この依頼を辞めるよう強く説得してきた。
どうやって知ったのかは分からないけれど、目の前にいる影たちがD級じゃないことに気づいていたのかもしれない。
もしかしたら彼の異能は感知系タイプで、前もって影のレベルレートを判定できた?
脇腹付近の激痛に耐えながら立ち上がる。
その瞬間になぜだか彼の「君が助けてほしいと思ったときに、ちゃんとオレに言ってくれるか?」というセリフを思い出していた。
「……冗談じゃない。御三家・
しかもあたしに向かって、「考えが分かった」なんて言ってきた。
そんなすぐに人の気持ちを分かったような気にならないで。
そんな簡単に人を理解できるなら、どうしてあたしと一緒に戦える人が現れないの?
全員低レベルで、異能士学校だってすぐに卒業できた。
唯一あたしに勝てた「
なぜ。どうして?
あたしは何か間違えてる?
どうして誰もあたしを理解してくれないの?
目の前の暗闇から街灯の光に照らされた三体……傷が完全再生した二体と、
「ごめん影ども……。今すっごいムカついてるから、手加減できそうにない。どいつもこいつも自分のことばかり……。誰もあたしを理解しようとすらしない。
あたしは両手に波動振による
あたしの攻撃を察知したのか、目の前でつっ立ていた影たちがこちらに向かってくる。突っ込んできた一体目をかわす際に、かわしきれず右肩を奴の左腕に強く打ち付けてしまう。
「いった……」
それでもあたしは一体目をスルーし、向かってくる二体目に右手で乱回転する波動を打ち付ける。
その攻撃は奴の胸部付近に命中し、その衝撃反動を借りて、左手にあった波動も同様にスルーした一体目に振り返りながらぶつける。
あたしの攻撃を受けた二体の影は、反作用で両サイドに激しく吹き飛ばされる。片方は廃墟の建物の壁を突き破り、中に入っていく。
「今ので
考える暇もなく三体目が数秒前にしたであろう特大ジャンプから落下してくる。その体重を右手の剣に乗せているのだろう。
あの攻撃をかわしている時間は、もうない。
あたしは敵が向かってくる上を見ながら、それを防御するために空気の振動波を両手に展開する。
防御は出来る……はず。
波動を纏い、空気を揺らしている両手を上に突きだそうとしたときだった。
「うぐっ……!」
脇腹に再び激痛が走る。
脇腹の筋は腕の下部分と強く連結し繋がっている。腕を上にあげようとしたことにより脇腹の筋が引っ張られ、同時に刺激を与えてしまった様子。
あたしは強烈な痛みに耐えきれずその場で座り、うずくまる。
「防御しないと……まずい」
まずい、まずい、まずい……。
体が……言うことを、きかない……。痛い……。
体が、動かない……。
ほんの少しだけ期待した。さっきの、マフラーをした彼があたしを助けに来るのではないかと。
あいつは今までの他の奴とは違う気がした。
なんとなく、何か遠くを見通している様な目をしていた気がした。
あたしは真っ暗闇な廃墟の道路の真ん中でうずくまり、そんなことを考えていた。
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