第9話

 その後、無事に茶会は終わった。

 問題はなかったと思う。始終アルバートとアリーシャが楽しそうに会話を続けていた。

 時折アルバートが俺に会話を振ってくるので、返事を返すが正直何を話したかはよく覚えていない。


 アリーシャを馬車まで送り届ける際、二人は次の約束を交わしていたようだ。

 来週、王妃の茶会に呼ばれているからその後で会うらしい。

 また庭園でも散策するのだろうか?それとも今日のように温室で会うのだろうか?

 次回はそこに俺は含まれてはいないだろう。


 一体、俺はどうしたいんだろう?



 茶会の後、アルバートとルドルフと三人で執務室へと向かう。


 アルはソファーに一人で座り、その向かいに俺とルドルフが並んで座る。

 アルバートは上機嫌だった。よほど楽しかったらしい。


「今日は楽しかった。二人ともありがとう。感謝するよ。

 アリーシャ嬢も楽しんでくれたと思うんだがどう思う?マルクス?」


「ん?ああ、彼女も楽しそうだったと思う。良かったんじゃないか?」


「やっぱり?お前がそういうなら本当だな?よかったよ。」


 アルバートは顔をほころばせながら俺に目を向ける。

 今はこいつの顔を見たくない。ひどく疲れた気がする。


「アル、今日来てもらったお礼状を書いたらどうだ?たまにはお前からってのもいいだろう?」


 ルドルフがアルバートに言えば


「そうだな。そうするよ。また返事ももらえるだろうし、さっそく書くよ。」


 そう言ってアルバートは机に向かい、引き出しから便箋セットを取り出し書き始める。



「アル、今日はそろそろ俺たち帰るわ。もう大丈夫だろう?そろそろ代わりの護衛も来るし。」


 少し早い気もするが、退勤の時間近くではあるがルドルフにしては珍しいなと思ったが、


「ああ、今日はありがとう。ゆっくり休んでくれ。」


 アルバートも退勤の許可をくれた。「じゃあ、」と席を立ちドアの前まで来たところで「マルクス」と声がかかる。


 振り向くと、執務机に頬杖をつきながら俺を直視する瞳と目が合った。

 射貫くような瞳に、逸らせない、動けない、逃げられない、ドクンと鼓動が鳴る。


「聞こえていたと思うが、来週の王妃の茶会にアリーシャ嬢が呼ばれているらしい。

 その後で会う約束をした。その時、お前は来なくても良い。

 二人きりで会いたいと俺が願い、彼女はそれを受けいれてくれた。


 俺が動いても良いんだろう?お前が最初に願ったことだ。」


 アルバートの言葉に俺は動けないまま、声を出すことも忘れていた。


「何か問題あるか?」


「いや......、問題はない。殿下の思うままに。」


 そう言うと重い足をなんとか動かし、ドアを開け執務室を出る。

 後からルドルフも部屋を出て、ガチャリとドアが閉まった。


 何も考えられない。あれは誰だ?アルバート?俺は何をしたんだ?


 二人でしばらく歩き、廊下の窓から外を眺める。

 もうすでに辺りは暗くなり、星が煌めいていた。


「マルクス、一杯付き合わないか?たまにはいいだろう?」


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