エピローグ
……窓から入ってくる光を瞼越しに感じ、僕はまどろみの中で目を開ける。少し視線をずらせばこちらに身を寄せて寝入っているエルナトさんの姿があった。
……あー……そっか、そうだった。
ぼんやりした頭で寝る前の事を思い出し。
無防備にすやすや寝ているエルナトさんの頭をそっと撫でる。
「……ん……」
ぴくりと眉が動き、それからエルナトさんは目を開けて。ぼんやりとした様子で僕に視点を合わせた。
「おはよう、エルナトさん」
「……おはよう……」
目をこすりながら挨拶を返してきたエルナトさんは顔を動かして壁の時計を見る。
「まだ少し時間あるから大丈夫だよ」
「……いや、もう起きなきゃ……」
ぼやっとした目のままエルナトさんは体を起こす。……ゆっくりしてくれて良いのに、と思ったけど。こちらの事を考えての行動だろうから大人しく僕も体を起こした。
「……ちょっと懐かしい夢を見てたよ」
「夢?」
顔を洗い、服を着ながら呟いた僕の言葉にエルナトさんが首を傾げる。
「学生時代の夢」
「あー……」
エルナトさんはそれを聞き、納得したように声をもらした。
「久しぶりにシャウラに行くからじゃない?」
「たぶんね。サルガス皇太子と会うのも久しぶりだし……リゲル様も楽しみにしてて、昨日あの頃の話をしてたから」
鏡を見ながら身なりを整えて、ネクタイピンをつける。
「エルナトさん」
準備が出来たところで荷物のチェックをしていたエルナトさんに声をかける。手を止めてこちらを見上げた彼女を、膝をついてから抱きしめた。
「……やっぱり一緒に行かない?」
「行かない」
間髪入れずに却下された。
「当日に人員追加とかありえないし、そもそもロキオンを置いて行けないでしょ」
「……ロキオンも一緒に、とか」
「馬鹿な事ばかり言ってないで。ほら、のんびりしてるとリゲル様を待たせる事になるよ」
「二週間会えないの辛い……」
「……だから昨日、シリウスが満足するまで好きにさせたじゃない」
話す事をことごとく正論で返される。
……完全に考え方が仕事モードだ。こうなると甘えても切られるだけで悲しくなるだけだからこれ以上言うの止めよう。
諦めて腕を緩めたところで、エルナトさんが少し腰を浮かせて耳元に口を寄せた。
「帰ってきたら、また満足するまで付き合うから」
それから首に腕を回して抱きついてきたので、僕も彼女の腰に手を添える。
「……判った」
戻ったら三日間くらい独り占めしよ。そんな事を思いながら了承を口にすれば、エルナトさんは柔らかく微笑む。
……うん、覚悟してろエルナトさん。
「父様ー、母様ー」
部屋を出てすぐ、廊下の向こうからロキオンがぽてぽてと駆け寄って来た。
エルナトさんが腰を落としてロキオンを迎えて、抱き上げながら立ち上がる。
「父様、シャウラでのお仕事頑張って下さいね」
「僕はリゲル様に着いて行くだけだからあまりする事はないかな。それよりロキオン、母様を宜しくな」
「はい! 任せて下さい!」
頭を撫でながらそう言えばロキオンが元気よく返事をしてきたので自然と笑みがこぼれた。
「……じゃあ、エルナトさん。申し訳ないけど留守の間、家を宜しくね」
「はい、任されました。……シリウスも道中気をつけてね」
「うん」
玄関で言葉をかわし、軽くキスをする。
「父様、僕もー」
「ん、ロキオンも宜しくな」
「えへへ」
手を伸ばしてきたロキオンの額にもキスをしてから荷物を持った。
「……じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ロキオンを抱いてこちらに手を振るエルナトさんを見ながら、僕はゆっくりと扉を閉めた。
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