第52話

「……ベテル王……どうして、ここに……」

 流石に突然の王様の登場には戸惑う。

 口をついて出た言葉にベテル王は一瞬だけこちらに視線を向けてきた。

「やぁ、シリウス君。いつもリゲルが世話になっているよ。色々話をしたいところだけど……それはこの場が落ち着いてからだね」

「え……」

「……シリウス君! エルナトさん!」

 呆然としている僕の耳に、上から降ってきた声が入る。

 顔を上げれば、巨大な姿のドラーガナに乗ったアリア様がこちらに向かって下降してくるところだった。

「アリア、先に二人の手当を」

「はい」

 ベテル王の言葉に即答したアリア様は着地した後、真っ直ぐ僕の所に駆け寄って来る。


「すみません、来るのが遅くなりました」

「アリア様……」

 あたたかい光に傷が癒えていくのを感じながら、僕は突然現れたアリア様を見ていた。

「アルカイド様の使者がエルナトさんの捜索依頼でこちらに来訪されまして。……調べたらエルナトさんの近くに力の強い魔族がいたので、ベテル様に一緒に来てもらったんです」

 そこでアリア様は言葉を切り、ふわりと柔らかく微笑む。

「後は私達に任せて休んで下さい。……これは私が望んで始めた物語だから……私がラスボスを倒さないと終わらないんですよ」

「…………」

 相変わらず言っている意味はよく判らない。……でも……助かった事だけは判った。僕の怪我を治したアリア様はすぐにエルナトさんの所に行き、腕の傷を癒やして……それからドラーガナに顔を向ける。

「ドラーガナ、二人をお願いね」

「任された」

 短いやりとりの後。

 ドラーガナはエルナトさんを咥えて少し飛び、僕の横に彼女を降ろした後、壁になるように僕とエルナトさんの前に出た。


「お待たせしました! サクッと殺っちゃいましょう!」

「その言い方はどうかな……」

 横に来て元気よく物騒な発言をするアリア様に苦笑いしつつ、ベテル王は剣を構える。

「それはそうと彼がラスボス殿で間違いないか?」

「はい。おそらく物語が始まる前に私が動き過ぎた影響でエルナトさんから変わってますが……時期的にも状況的にも彼を倒せば物語は区切りがつきます」

「そうか、判った」

 アリア様の言葉にベテル王は頷いて……スッと剣をギエナへと向けた。


「お初にお目にかかる、ラスボス殿。私はこの国の王ベテルだ。……ここで君を倒さないと国が脅かされるそうなのでね。覚悟してもらおう」

「……人間風情が……」

 ギエナを前にしてもベテル王はもちろんアリア様も気圧された様子はない。一瞬でギエナの体が掻き消え、次の瞬間にはベテル王の背後に現れた──が。

 薙いだ攻撃は見えない何かに弾かれ、ギエナは目を見開く。

 ……その僅かな隙が出来た刹那。

 ベテル王は振り向きざまに剣を横薙ぎに振るい、ギエナはその場から飛び退いてそれを避けた。

「……貴様……」

「こちらには聖女がいる。防御や加護は充分にあるから……私は攻撃だけに専念すれば良い」

「そのためにスキル鍛えましたからね! 任せて下さい!」

 得意気に話すアリア様の言葉に対し、優しげに微笑むベテル王だが……受ける圧はギエナと同じかそれ以上。

 歯噛みするギエナの姿に僕はようやく緊張の糸が切れた。保っていた意識も揺らぎ、その場に倒れ込む。


「……シリウス!」


 意識を手放す瞬間、エルナトさんの声と泣きそうな顔が視界に入ったが──それに反応する事は出来ず、僕の意識は暗闇へ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る