第47話
一週間後、約束通り朝からやってきたエルナトさんと合流してメラクさんのお店へ向かう。
「いらっしゃい、お待ちしてましたよー」
ニコニコ笑顔で僕等を出迎えるメラクさんからそれぞれ材料を受け取り、今回は同じ机に向かい合って席につく。……前と違って僕が作るの二つだけで小さいから幅取らないしね。
「……材料少ないな?」
エルナトさんが僕の前に並ぶ材料を見ながら呟きをもらす。通常用意される半分の量しかないから、疑問に思うのはもっともだ。
「今回は宝石がメインの小さいやつなので、加工部分はあまり材料を使わないんです」
「……ふぅん。そういうのもあるんだな」
何を作るかは聞かず、それだけ言って自身の手元に視線を落とす。
……さて、小さい分だけ細かい作業になるから僕も頑張ろう。よし、と気合を入れてから作業に取り掛かった。
……熱中しすぎて正午を一時間程過ぎた頃に我に返り。
寝かせの時間を使って食事を摂った後、作業再開。
削りの作業は小さい分すぐに終わったため、僕はエルナトさんの作業を眺めて過ごしていた。
……作ってるの、ネクタイピンかな。シンプルなデザインで真っ直ぐだからそう時間は掛からないだろう。
「……ふぅ……」
少し経ってエルナトさんが息をつく。それからネクタイピンの手触りを確かめ、ヤスリを机に置いて顔を上げた。
「出来ました?」
「あぁ」
「じゃあメラクさんに預けてきますね」
返事を聞いた後で自分の分とネクタイピンを手に持ってメラクさんの方へ向かう。
「メラクさん、すみませんが洗浄お願いします」
「おっ、もう出来ましたか。早いですねぇ」
メラクさんは読んでいた新聞を畳み、それを預かって奥に引っ込む。
大きく伸びをしてから息を吐き、席の方を振り返ると、エルナトさんも同じように腕を伸ばしていた。
「お疲れ様です」
「二回目だし細かいデザインじゃないから楽に出来るかと思ってたけど……削りの作業はやっぱりちょっとキツイな」
椅子に腰掛けながら声をかければ、苦笑いを浮かべて返事をしてくる。
「削りはまた集中力使いますからね。僕も毎回疲れます」
「シリウスでもそうなんだな……でもまぁ、予定より早く終わりそうだから……出来上がったら少しカノープス領を散歩してから帰ろうかな」
小さく笑みをこぼした後、エルナトさんは外に目を向ける。
「どこかオススメの場所とかある?」
「……えーと」
外を見ながら呟かれた質問に僕は考え込み──……。
「…………カノープス邸?」
「何でだよ」
絞り出した答えに呆れの混ざったツッコミが入った。
「うちの領、めぼしい特産品もありませんし……強いていうなら小麦がありますけど、収穫時期過ぎちゃってて見所にならないというか……目立つ物ってうちの屋敷くらいかなと……」
「だからって……何かあるだろ? ここみたいによく利用してる施設とか、何かあった時に行く所とか」
「…………」
「……自分んトコの領地だよな? そんな考えないと出ないの……?」
黙ってしまった僕に対し、声だけじゃなくて表情にも呆れが浮かぶ。
そう言われてもレオニス領みたいに流行り物を取り入れてる訳じゃないしなぁ……見所……懐かしい田舎の雰囲気を味わえます、とかかな……。
「──坊っちゃん、昔はよくジェミニの駄菓子屋や広場近くの公園に行ってませんでした?」
頭をひねって考えてるところで、戻ってきたメラクさんが口を挟んできた。
「あー……まぁ、確かに昔はよく行ってましたけど……」
「レオニスのお嬢さんが行きたいの、そういう所だと思いますよ。……ね、お嬢さん」
洗浄したものをそれぞれの前に置き、メラクさんが笑いながら話を振ると、エルナトさんは少し戸惑ったような焦ったような、色々入り混じった表情で
「……えっと、まぁ……」
と目を泳がせる。
その反応に何となく、僕が馴染みにしてる場所を見たいのか、と察して。
「それなら散歩ついでに公園に行きましょうか。ここからも歩いて行ける距離なので」
「……判った」
そう提案すれば、エルナトさんはホッと安心したように息をついて返事をしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます