第43話
年明けの学期は短くて、あっと言う間に終わった。
二年生に上がる前の春休みの間に話が進み、国だけじゃなくレオニス伯爵や父上からも許可が降りて。エルナトさんにも受諾してもらい、無事に婚約の話が確定した。
国の許可よりレオニス伯爵やエルナトさんの了承の方が大事だったので、本当に良かったな。
去年は色々な話が一気に動いたし、僕にとっても有利に事が進んだ。後はこのままリゲル様の従者を続けつつ、卒業までの一年を過ごすだけ。
……何事もないように気をつけながらやっていかないとなぁ。
「……しかし、本当にトントン拍子に話を進めたな。ともあれめでたい話だが……」
進級してすぐ、婚約の話を耳にしたサルガス皇太子はわざわざ僕の所までやって来ていた。
「有難うございます」
素直にお礼を述べれば、サルガス皇太子はちらりとアリア様と一緒にいるエルナトさんへ視線を送る。
「しかし、お前がそこまで入れ込んでると逆に興味が湧くな」
「ははっ。先に言っておきますけど最初アリア様にしたような事をエルナトさんにしたら他国の皇太子でも容赦しませんからね」
出来る限り笑って話したつもりだったが「お前怖いわ」とドン引きされた。失礼な。
とはいえ横にいたリゲル様も苦笑いしていたから……まぁ、仕方ないか。
「……まぁ、エルナトに手は出さないから心配するな。知り合いの婚約者に粉かけるつもりはないし、そもそもオレの好みからも外れてるからな」
……アリア様にはちょっかい出してたけど……。
それを訊ねたら「あの時ベテル王は知り合いじゃないし、好み以前にアリア嬢をこっちに引き込もうとしてたからな」と返ってきた。その口振りだとアリア様も好みではなさそうだなぁ。
……どんな方が好みなんだろ、サルガス皇太子。
単純な興味で重ねて質問すると、サルガス皇太子は若干考えてから顔を上げる。
「癒し系」
「えっ」
意外な答えについ声が出てしまって「あ?」と睨まれた。
「すみません。ちょっと意外で……てっきり気の強い女性が好みなのかと思ってました」
「すまん、俺もそう思っていた」
「…………」
申し訳なさそうに続けて言った僕とリゲル様に対し、サルガス皇太子は「ふん」と鼻を鳴らす。
「確かに国母として考えたらアリア嬢やスピカ嬢みたいなタイプが適任なんだろうがな。ただでさえ国政でストレス溜まるんだ。伴侶くらい一緒にいて落ち着ける相手の方が良いだろ」
暗にアリア様やスピカ様が……いや、エルナトさんもか。一緒にいて落ち着けないと言われているな……まぁ、落ち着けるとか言われてちょっかい出されるよりは良いか。
口を挟もうとして思い留まり、リゲル様へ視線を移す。
「…………」
何か言いたげな顔をしていたけれど、リゲル様も口は閉じたままだった。
照れ臭いからか人には言わないがスピカ様と二人だけでいる時が一番ホッと息がつけて落ち着けてるはずだからね。……基本的に何でも出来て誰もが頼りにしてるリゲル様が、ベテル王以外で素を出せるのがスピカ様だ。
「そういう方に会えると良いですねぇ」
「いやシャウラに戻ったらいるからな。婚約者で。ちゃんと」
あたたかく見守ろうかと思ったけどすでにいらっしゃったか。それは失礼をした……というか、サルガス皇太子すごいな。
国に婚約者を残してて、バスクさんもいなくなっちゃったから完全に単身でこっちに来てる状態な訳で……あまり想像は出来ないけど、不安とか寂しいとか感じたりしないのかなぁ。
それを聞いたら「こっちはこっちで面白い奴が多いから別に感じない」と笑われた。
ついでに「婚約者に会いたくなったりしないんです?」と聞いてみたら「会いたくなる時はあるが、お前みたいに経験のなさからくるこじらせた考えと行動にはならないから平気」と失礼な事を言われた。
リゲル様も「……確かに」と声をもらしただけで納得したような表情を浮かべている。
二人とも失礼な。
と思ったけどほんの少しだけ自覚はあるので反論するのは止めた。
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