第42話
学院が始まった年明け最初の日。
寮の部屋でエルナトさんとの事を報告したら、リゲル様に頭を抱えられた。
「……シリウスお前、何でそう……いや、仕方ないか……」
無理矢理自分を納得させるように呟いた後、深いため息をついてから顔を上げる。
「とりあえず話は判った。エルナトに関しては、確かにお前が考えていたように卒業に合わせて人を選定する話も出てきているが、充てがうのはカノープスで良いんじゃないかという意見が大半であまり重要視はされていない。……後から問題になるのも嫌だから伝えておくが、一部から『反旗を翻すために協力関係にある魔族に力を譲渡したんじゃないか』って意見もあった」
「…………へぇ、そうですか」
自分でも判るくらい低い声が出た。
「……俺だけだから別に今は良いが、他に人がいる時にその顔するなよ。血の契約も譲渡している事を言ったら黙ったから問題ない。ただの言いがかりだ」
「……判りました」
苦笑いを浮かべ、たしなめてきたリゲル様の言葉に僕は表情を戻す。
「それよりエルナトをカノープスに入れるとなると……また嫡男に魔王の力が引き継がれやしないか?」
至極もっともな疑問を尋ねられた。けど……。
「……それについてはその時になってみないと何とも。これまでは母親が妊娠するのに合わせて力が引き継がれていましたが、最初の子どもは必ず男で……女性が魔王の力を持った事がないんです。実際どうなるかの事例がなくて、判断出来ない状態ですね」
答えられる範囲の事を伝えれば、リゲル様は「ふむ……」と呟きながら顎に手を当てる。
「……というか、そもそもエルナトとの間に子どもって出来るのか……?」
「それもやってみないと何とも……」
流石にこれは答えられない。
エルナトさんにヴァンパイアの子づくりの方法を聞いてみたけど。
「新月の夜にお互いの血を混ぜ合わせて産む方が飲み干す。大体三ヶ月くらいで生まれる」
だったからね。
直接は言ってなかったけど、人間の女性にある月のモノもないようだし、根本的に体の作りが違うようだ。……相手が
でも流石に今試すのは出来ないからなぁ。在学中に出来ちゃったら困るし。
ちなみに人間の子づくりみたいな事をヴァンパイアがするのか聞いたら、人間を篭絡するためにしてる奴はいるかも、と言われた。そういう年齢になる前にヴァンパイアの里を出ているので、噂程度の知識しかないらしい。
……ま、それが聞ければ充分だったのでそれ以上聞かなかったけど。
「まぁ、良い」
そう言ってリゲル様が息を吐き、僕に向き直った。
「エルナトの件は俺からもお前を推しておく。……現時点でも上がる名前がカノープスだけだから、大丈夫と思うが念のためにな」
「申し訳ありませんが、宜しくお願いします」
そう言ってリゲル様に頭を下げる。
「……しかし、お前にしては珍しく他人に執心してるな。ここまで誰かを気にする事なかったんじゃないか?」
どこか感心したような口振りの言葉に、僕は顔を上げてから目の前の相手を見る。
「王族や家族以外はどうでもいいっていうのは基本的に変わってませんけど……エルナトさんは……何ていうか、一緒にいたいからでしょうね」
「恥ずかしげなく言い切るな、お前……。ま、良い傾向だと思うから別に構わないが……傾倒しすぎると前みたいに暴走しそうだから冷静さも持っておくようにな」
「はい」
僕の返事を聞いたリゲル様は「よし」と短く呟いて肩をポン、と叩いた。
「時間もいい具合だし、そろそろ教室に行くか」
「判りました」
呼びかけに答え、荷物を持ちドアを開ける。
……現状、出来る事はとりあえずこんなところか。
正直いって今、ある程度好きに行動が出来るのはリゲル様が防波堤になってこっちに色々来ないようにしてくれているからだ。……それに甘える形になっているのは申し訳ないけれど、今のうちにしっかり地盤を固めておかないとすぐに崩れてしまう。
いつまでも主人の庇護を受けるばかりではいられないのだ。
これまでの恩を返すためにもせめて、自分の事は自分で何とか出来るようにしなくてはいけないし……それに何より、誰かに頼りっ放しじゃエルナトさんにもカッコつかない。
頑張ろ、と思いながらドアを閉め。先を歩くリゲル様の後を追った。
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