第39話
──年が明けて、二日目。
各貴族が爵位の序列順に王族へ年始の挨拶をするために王宮へ来ており、謁見の順番待ちをしながらサロンでそれぞれ雑談をしていた。
……男爵位の僕等は当然後ろから数えた方が早くて。ひと通り他の方々へ挨拶をした後は次々と呼ばれていく人達を見ながらのんびり茶菓子をつまみつつ時間を潰している。
嫡男でもあるし父上について来たけど……僕が『指示』を受けなかった事を理由に嫌味をネチネチ言ってくる輩がいるから結構ストレス。しかも僕じゃなく言いやすい父上にそれをするものだからその度に口を挟まないといけなくて。……受けてなかったのは僕なんだから直接こっちに言えばいいのに、それをしない連中の面倒臭さったらない。
……さっさと全員呼ばれて出ていけばいいのに。
そんな事を思いながらクッキーを口に放り込んだところで、僕等のテーブルに影が差す。
顔を上げれば、そこに立っていたのはレオニス伯爵とご子息のアルカイド様だった。……伯爵の胸には剣と百合モチーフのブローチが付けられており、照明を反射してきらきら光っている。
父上も僕も椅子から立ち上がって一礼をした。
「これはレオニス伯爵。ご無沙汰しております」
「いや、こちらこそ年末に娘が世話になった。有意義な体験が出来たと話していたよ」
「恐れいります」
父上と一緒に深々と頭を下げ、それから顔を上げると、レオニス伯爵とアルカイド様がじっと僕を見ていた。
「……本当は娘も連れて来たかったが、流石に大勢が集まる場所に来させるのもどうかと思ってね。代わりに君に聞いてきて欲しいと頼まれた事がある」
「はい、何でしょうか?」
……約束の件かな。
正直、あの件流されちゃうかなって思って、期待は半々だったんだけど。
「明後日から冬期休暇最終日までの間で空いている日を教えて欲しいそうだが、いつが大丈夫かな」
「明後日以降ならいつでも問題ありません」
「それなら、明後日の十時にレオニス領入口の門で待ち合わせをしたいそうだ」
「承知致しました。エルナトさんにもそうお伝えください」
了承の言葉を口にしてからふっと視線をずらす。……何故か、アルカイド様が心配そうな表情で僕を見ていた。
「……アルカイド様、どうかされましたか?」
「……あ、いや……」
アルカイド様は僅かに言い淀んだが、意を決したように僕を真っ直ぐに見る。
「……うちの妹が……というか、カイトスもかな……君に当たりがキツかったりするかい?」
「え?」
思いもよらなかった質問に目が丸くなる。
それを見ていたレオニス伯爵は「いやね」と少し苦笑いしながら言葉を引き継いだ。
「君の話をする時、その……たまに、言葉が荒くなるのでね。少し心配になったんだ」
……あー……何となく察した。
エルナトさん、基本的には口調丁寧だもんね……僕以外には。
「そんな事は全くありませんのでご心配なく。良くして頂いております」
「……そ、そうか……なら良いんだ。有難う」
僕の返事に心の底からホッとした様子で笑うアルカイド様。
……レオニス伯爵もだけど、アルカイド様も温厚な性格が雰囲気からすごい伝わってくる。
僕より二つ年上で、確かすでにレオニス領の一部の管理を任されている。そのため普段は屋敷にいないはずだけど……こういう人達と過ごしてたからエルナトさん、魔族っぽくないのかもな。
それから取り留めのない雑談を交わしていると、王宮の執事の人がスッとやってきて恭しく頭を下げた。
「レオニス伯爵、お話中に失礼致します。そろそろ謁見の順番になりますので、別室へご案内致します」
「……あぁ、判った。それではカノープス、これで失礼するよ」
「はい。今年も宜しくお願い致します」
父上と二人で一礼をしてレオニス伯爵達を見送り、再び椅子に座ってお茶を一口飲んだ。
「…………明日と明後日はレダの勉強に付き合うと言ってなかったか?」
「ちゃんと明日で終わらせますよ。元々、明後日は念のための予備日でしたし」
少し呆れを含みながら笑っている父上に笑みを返してまたお茶を飲む。
……妹には明日頑張ってもらおう、うん。
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