第33話
……一週間後。
「…………」
久しぶりに登校したら周りの人達に遠巻きに見られながらひそひそ話をされていた。
あの後、リゲル様だけじゃなく学院長やアリア様も交えて四人全員に聞き取りが入り。被害しか受けていないエルナトさんは当然お咎めなしだったが大事を取って数日休み。他の三人は一週間の謹慎処分を言い渡された。
……リゲル様からはこっぴどく叱られたし、家からも手紙で「頼むから大人しく穏便に過ごしてくれ」と懇願された。
他の学生に対してはエルナトさんの事を伏せて「僕と二人が決闘に近い喧嘩をしたため両成敗で処分を下した」事になっている。
……あ、そういえばリゲル様が何で修練場に現れたのか不思議だったんだけど。
聞けば「始まる前には戻ってきます」と言っていたエルナトさんが戻ってこなかったものだから、索敵魔法で彼女の居場所を調べたアリア様に確認をお願いされて見に来たらしい。納得。
……ともあれ、アルゴルさんとレサトさんには『エルナトさんの事は国家機密なので詳しくは言えないが、害がない事を確認した上でアリア様に了承をもらい侍女につけている』と話して、決して口外しないように確約させたそうだ。アリア様が直々にお願いしたそうだから、あの二人が誰かにエルナトさんについて話す事はないだろう。
……ただ、リゲル様やアリア様が怪我を治してくれてはいたけど、レサトさんは肋骨が折れる重症、アルゴルさんも腕と鎖骨にひびが入っていたらしく。
その上で僕は全くの無傷だったもんだから『カノープスはヤバイ奴』と噂が広まっていた。
「よう、有名人」
教室に入る直前、廊下で待っていたらしいサルガス皇太子に声をかけられる。
「……おはようございます」
にやにや笑い、楽しそうなサルガス皇太子に挨拶を返せば、ポン、と肩を叩かれた。
「そんなに血の気が多いとは思ってなかったが……随分と派手に立ち回ったらしいな」
「……まぁ、結果的にそうですけど。しばらくは大人しくしないとまたリゲル様に大目玉を食らいそうなので相手はしませんよ」
サルガス皇太子に言われる前に釘を刺す。……一気につまらなさそうな顔になって「ちっ」と舌打ちされた。
「……それはそうと音楽祭は大人気だったそうで。お疲れ様でした」
「あぁ」
称賛の言葉を伝えるが、サルガス皇太子はさして興味なさそうに返事をする。
又聞きだが、ラストの出番だったサルガス皇太子の楽器演奏は群を抜いて素晴らしく、観客から拍手喝采を受けたそうだ。
……どこの国も王子は文武両道じゃないと駄目なのかな。大変だなぁ。
「機会があったら聴かせて下さいよ」
「お前が立合いを受けてくれたらな」
「やっぱり今はいいです」
そんなやりとりをしている途中、少し離れた所から「げっ」という声がした。
そちらを見ればアリア様とエルナトさんがいて。
エルナトさんは何も言わず、足早に教室に入って行き。アリア様が苦笑いしながら「おはようございます」と言ってからその後を追うように中に入って行った。
「……あいつと何かあったのか?」
不思議そうな顔を向けてくるサルガス皇太子に対し、僕はため息をつきながら口を開く。
「……えぇ、まぁ。こないだ告白したもので」
「へぇ………………はっ⁉」
普通に返事をしようとしたサルガス皇太子がギョッと表情を変えて珍しく声を上げた。
「ちょ、ちょっと待て。何でいきなりそんな事に……⁉」
「色々考えたらそうかな、と思いまして……」
「だからって何でそんな話に……」
「おい、廊下で何を騒いでるんだ」
パッと横を見れば、質問を重ねてくるサルガス皇太子と僕に対して呆れの視線を向けてくるリゲル様が立っていた。
「……リゲル王子! どうなってんだ一体」
「何がだ?」
サルガス皇太子の言葉に首を傾げるリゲル様。……あ、そういやリゲル様に言ってなかったかも。
サルガス皇太子が先程の話をそのままリゲル様にして──
「………………は?」
リゲル様はポカンとした表情で僕を見る。
「聞いてないのか……」
額に手を当てて息をついた後、サルガス皇太子はリゲル様にガッと肩組みをした。
「……オレは一限目、武術だから融通効くと思う。そっちは?」
「あー……歴史学だから何とか……相談してみよう」
そう言って互いに頷き合い、パッと離れた。
「……あの、二人とも……」
「シリウスはここで待ってろ。すぐ戻る」
サルガス皇太子は振り返らず、リゲル様は指差ししながらそれだけ言ってその場を去って行く。
……それから五分くらいして、戻ってきた二人に引っ張られてサロンに連れて行かれた。
「──で、何でそんな事になってるんだ、話せ」
「……えーと……」
若干前のめりになっている二人にちょっと圧されつつ、考えをまとめながら口を開く。
「色々ぐちゃぐちゃしてたんですけど、そう考えたらすっきりしたんで好きなのかなって思いまして……」
「……まさかエルナトにいくとは思わなかったな。お前は異性以前に他人に興味ないと思っていた」
「……まぁ実際、基本はそうですからね」
半分感心したように話すサルガス皇太子に言葉を返しながらお茶を飲む。
「正直いうと今までそういうのなかったんでよく判ってないのもありますけど……エルナトさんに対しては色々思った事もあるんで」
「……思った事?」
「大切だなぁと思うのもそうですけど、押し倒したいなぁとか……」
「お前それは……」
「……シリウス、後半のそれ絶対言うなよ」
ひとつひとつ話した事に対してサルガス皇太子が顔を少し引きつらせ、リゲル様が額を押さえている。
「……すみません、言いました」
「言ったのか……」
リゲル様が頭を抱えて机に肘をついた。
「……こいつ、色々大丈夫か……?」
「……ここまでだとは思ってなかった……ちょっと心配になってきたな……」
「聞こえてますよ」
小声でぼそぼそと交わされるやりとりに言葉を挟む。
「……とりあえず、お前は人との距離感を学べ。あともう少し言い方を考えろ」
「そうだな、それがいいと思う」
リゲル様に同調するようにサルガス皇太子が深く頷いている。
……そう言われても……今までこういう状況になった事ないからよく判らないんだよね……でも、ちゃんと考えないといけないんだろうな。
そんな事を思いつつ、天窓越しに見える空を見上げて小さく息をついた。
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