第30話
そうして迎えた音楽祭当日。
朝から最終調整などでバタバタだったが何とか裏方全員で乗り切って音楽祭開始を迎えた。
照明班や音響班などの仕事はこれからだけれど、それ以外の担当はとりあえず一区切り。イレギュラー対応のために配置につきつつも、各代表者の歌や演奏をのんびりしながら聴いていた。
「とりあえず後は終わるのを待つだけだな」
「そうですね」
大きく伸びをしている先輩に相槌を打ちつつ、舞台に目を向ける。
進行も滞りなく進んでいてプログラムもそろそろ折返し。……アリア様の出番がもう少しか。学院の中でみてもアリア様の歌唱力はかなり高いので楽しみだ。
そう思いながら演奏を聴いていた時。
薄暗い中、視界の隅で動く人物がいてそちらに意識を向ける。
……エルナトさんが一人、出入り口に向かって歩いていた。もうすぐアリア様の出番なのにどこに行くんだろ。……また蝙蝠でも来たのかな。
そんな事を考えているうちにエルナトさんは扉を開けて外に出ていく。
……うーん……。
「カノープス? どうかしたか?」
舞台とは反対の方を見ている事に気付いた先輩が声をかけてきた。
「……すみません、少し配置を離れても良いですか? すぐに戻るとは思うんですが…」
「あぁ、トイレか? 特に問題なさそうだしゆっくりしてきて良いぞ」
……違うけど訂正するの面倒だな。それでいいや。
有難うございます、とお礼を伝えてから外に出る。薄暗い所から明るい所に出たので眩しくて目が自然と細くなった。何度か瞬きをして目を慣らした後、周りを見るがすでにエルナトさんの姿は見当たらなかった。
……とりあえず旧学生会館に行ってみようかな。
行き先を決めて歩いて行くが、ほとんどの学生が音楽祭に参加しているから人は全くいない。……何か不思議な感じ。
誰もいない構内を歩き、旧学生会館に辿り着いて裏手に回ったが──そこにも誰もいなかった。
「……あれ……」
どうやら違ったようだ。
ここで蝙蝠と会ってからホールに戻る場合、別の道はないから必ずすれ違うはずだもんね。……どこに行ったんだろ、エルナトさん。
きょろきょろと周りを見回した──その時。
少し離れた場所から何かの破裂音と僅かに遅れて何かがぶつかるような音がした。
…………どこから聞こえた?
普通は聞こえない物音に、僕はある程度方角を絞って耳を澄ます。
誰かが喋ってる気がするけどはっきりしない……建物の中かな。そこまで離れてはいないけどすぐ近く……旧学生会館でもない。
……この辺りだと……修練場かな?
考えても判断つかないし、とりあえず確認をしよう。そう思って次に近い修練場へと向かって歩き出す。
そうして修練場の扉を開こうと手をかけた時。すぐ向こうで破裂音と何かが強くぶつかる大きな音がした。
僕は勢いよく扉を開けて──その先、修練場の中。
向かって左側、杖を持ったアルゴルさんとレサトさんがいて。
その反対、向かって右側……エルナトさんが床にうつ伏せの状態で倒れていた。
爆発系の魔法を喰らったのか、服はあちこち焼け焦げて黒ずんでいる。
「カ、カノープス!?」
突然現れた僕にアルゴルさんが上擦った声を上げるが、あまり耳には残らない。
エルナトさんは倒れたままぴくりとも動かなかった。
……頭の奥が、一気に冷えるような感覚がした。
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