第17話
翌日。
待ち合わせ場所の玄関に向かうと、非常に不満そうな表情を浮かべたカイトスさんが立っていた。あー……機嫌悪そー……。
「……おはようございます」
「…………あぁ、おはよう」
じろりとこちらを睨みつけながらも挨拶はちゃんと返してくれる。真面目だなぁ。
「おはようございます……あら?」
間を置かず姿を見せたアリア様がカイトスさんの姿に首を傾げる。
次いでサルガス皇太子がやってきたのに合わせて、カイトスさんは不満そうな表情を引っ込めて恭しく頭を二人に下げた。
「おはようございます。リゲル王子の命で本日はこちらに同行させていただきます。宜しくお願いします」
「……同行……?」
そう言いながら眉をひそめるサルガス皇太子。……そう言えば伝えてなかった。
「リゲル様から今日はカイトスさんもこちらに同行させるよう命令を受けています。……念の為、との事です」
「……お前な。そういう事は事前に言え」
疑問に答える形で口を開けば、今度はサルガス皇太子からじろりと睨まれた。
「カイトスとか言ったか。武器を使う感じはあまりしないが……得意な得物はなんだ」
「え?」
視線と言葉を投げかけられたカイトスさんはきょとんと目を丸くする。
「使えそうな武器を取ってくる。希望があれば言え」
「あ……ええと……では、ロングソードをお願いします」
突然の申し出に戸惑いながらも答えたカイトスさんに対し、サルガス皇太子は「判った」とだけ言って再び建物の中に戻って行った。
「……まさか武器の希望を聞かれるとは……ってお前、持ってたのか」
驚きを隠せない様子のカイトスさんだったが、ふっと僕の腰にあるレイピアに目を止める。
「サルガス皇太子が貸してくれました。中々の業物ですよ」
「……皇太子じゃないが、そういうのは先に教えていてもらえないか」
「…………」
呆れたような表情になったカイトスさんの横、アリア様の顔色がみるみる悪くなっていく。どうしましたか、と声をかける前にアリア様が口を開いた。
「……あの……カイトスさん。リゲル様は今どちらに?」
「え? リゲル王子は一時間前にバスクさんと研究所に向かいましたよ」
「……二人で?」
「そうですね」
それを聞いたアリア様の顔が一瞬にして蒼白になり──頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「せ、聖女様⁉」
アリア様の様子にカイトスさんが狼狽する一方、近くに行こうとした僕の足は……アリア様の次の言葉でピタッと止まった。
「あっちのイベントだった……読み間違っちゃった……どうしよう……!」
……読み間違った? 何を?
動揺しているアリア様だったが、バッと顔を上げて僕等の方を見る。
「すみません! 間に合わないかもしれないけど、今すぐ研究所に向かって下さい! リゲル様が捕まっちゃう!」
「え? ちょ、ちょっと待って下さい! 何を言って──」
早口で捲し立てるように話すアリア様に困惑するカイトスさん。
「……何を騒いでいる?」
そこに戻ってきた、片手にロングソードを持ったサルガス皇太子が不思議そうに僕等を見回した。……やっときた。遅い。
「すみませんがサルガス皇太子、この場はお任せします。カイトスさん、研究所の場所を教えて下さい」
「……え」
「早く」
口籠ったカイトスさんを急かすように視線を向ければ、その相手は小さく声を詰まらせる。
「……この先の大通りにある大聖堂から左に曲がって真っ直ぐだ。歩いて三十分くらいか」
「有難うございます」
声を詰まらせたカイトスさんの代わりに答えたサルガス皇太子にお礼を言ってその場を後にした。
──あぁ、くそ。失敗した。
走りながら自らの判断を後悔する。
あの口ぶりだとアリア様の先見ではいくつかの未来があって、これだろうと踏んでいた未来とは別の未来がきたということなのだろうけど。
……それにしたって、よりによってリゲル様絡みか。
アリア様も教えてくれれば──……いや、いくつもの可能性を全部教えてもらったところで全てに対応なんて不可能だ。そもそも自分の判断ミスを人に押し付けるな。
フッと息を吐き、走るスピードを上げる。
しばらく走ると、白い大きな建物が見えた。──きっとあれだ。
入口に辿り着き、はやる気持ちを無理矢理押さえつけてドアを開ける。
出来る限り落ち着いて開けたつもりだが、やはり勢いがついていたようだ。突然開いたドアに驚いた何人かが一斉にこちらに顔を向ける。
さっと周囲を見回すが──探し人の姿はない。
「……今日、こちらにリゲル王子はいらっしゃいますか」
息を整えつつ、一番近くにいた白衣の男性に問いかける。男性は戸惑ったように周りの人間と顔を見合わせて──……それから、小さく首を横に振った。
「いえ、本日はまだいらしてませんが……」
……予想はしていたが、予想通りのその答えは聞きたくなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます