第13話

「……おぉ……」

 目の前に広がる素晴らしい光景に僕は感動して動けなくなっていた。

 見事としか言いようのない壮厳な建築物。巨大な門には細かな紋様が入っており、鮮やかな青色が訪問者を出迎える。

 その奥に見える建物もドーム状の屋根を中心として壁もこれまた美しい蒼の装飾が散りばめられていて……噂では聞いていたけど、どこもかしこもすごい。素晴らしすぎる。外観でこうなら内部も期待出来るだろう。

 ……ここなら何日いても楽しめそう……。

 見事な建築物を前にあちこち視線を向けていたら、後ろから

「おい」

 と呆れた声で呼びかけられた。

 振り返ると呆れ顔のリゲル様とくすくす笑っているアリア様、渋い表情をしているカイトスさん。ニヤニヤと満足そうに笑っているサルガス皇太子と、彼ほどではないが満足そうな顔のバスクさんがいた。


「建築観光に来たんじゃないんだ、いい加減にしろ。……最終日に時間を作ってもらうから、まずは当初の予定をこなせ」

「…………はーい」

「不満そうな声を出すな!」

 軽くだけど小突かれたので渋々建物に背を向けて皆と合流する。

「サルガス皇太子、すまない。余計な時間を取らせた」

 頭を下げて謝罪をするリゲル様に対し、サルガス皇太子は楽しそうに口角を上げて首を横に振った。

「いや、我が国の建築物を気に入ってもらえたようで何よりだ。国の要所の建築物はどれも他国から高い評価を得ているからじっくり見たい気持ちも判る。……明日向かう診療所も歴史ある建物を流用したものだから楽しみにしていてくれ」

「そうなんですね。ちなみにどのくらいの年代の建物なんですか? 建国時の建物だったら嬉しいんですけど……あ、ヨシュア皇帝時代の建物でもいいです。壁の彫刻が素晴らしいと聞いたので……」

「シリウス」

「すみません後にします」

 横から冷ややかな視線とこれ以上ないくらい低い声がこちらに向けられたので、それだけ言って口を閉じた。


 ……その一時間後、僕らは王城に入り謁見の間に通されていた。

 城も外観はもちろん内装も見事で感嘆の一言では表せない。あまりきょろきょろするとまたリゲル様に怒られるから控えるけど……後でサルガス皇太子にお願いしたらじっくり見せてもらえるかなぁ……。

 そんな事を考えながら正面の玉座を見る。シャウラ国の歴史は古いはずだけど、玉座は比較的新しいデザインみたいだ。老朽化で入れ替えしたのかな…………保管庫とかに残っていたりしないかしら。

 そうやって色々物思いにふけっていると、大臣らしき人がひとつ咳払いをした。……どうやら待ち人が来たらしい。


 玉座の奥、重厚感のある扉から現れたのは、見事な装飾品を身に着けた初老の男性だった。

 綺麗に整えられたひげで若干上の年齢に見える気がするが、一番印象が強いのは圧を感じる鋭い瞳。この辺りはサルガス皇太子に受け継がれてるようだけれど、彼よりもずっと印象が強い。

 ……隣国からの侵略を防いだ、偉大な国王アクラブ。

 年を取って落ち着いたと言われているけれど、実際に目の前で対峙すると威圧感が半端なかった。何かされている訳ではないのに肝が冷えるというか……蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなんだろうな……。


 アクラブ王はゆっくりとした動作で玉座に腰掛けた後、頭を下げている僕らへ順番に視線を向ける。一通り見回してから、アクラブ王はリゲル王子のところで目を止めた。

「リゲル王子、今回は我が国の為に遠方から来ていただいた事に感謝しよう。貴殿はもちろん、聖女殿にも負担をかけるかと思うが……シャウラ国としても礼は必ずお返しする」

 その言葉に対し、リゲル様は顔を上げ首を横に振る。

「いえ、同盟国と協力するのは当然の事です。……それにまだ結果がどうなるか判りませんので、それは全て終わってからにしましょう」

 それを聞いたアクラブ王は僅かに眉を動かした。

 ……その反応は判らないでもない。でもリゲル様の言葉も間違ってはいなくて。

 実際問題リゲル様の血が魔人病に効果があるかどうかは試してみないと判断出来ない。現時点で確定しているのは僕の血に効果があるという事だけ。魔人病が魔王由来のものであるなら効く可能性は高いけれど、状況からして魔人病は魔物狩りに付随する呪いなのだから。アリア様の力はともかく、リゲル様の血がどこまで効果が出るかは正直未知数である。


「……アルデバランの王子は随分と謙虚なのだな」

 顎ひげに手を当てながらアクラブ王はニヤリと笑う。こうして見るとサルガス皇太子そっくりだなあ。

 一方、リゲル様は僅かに笑ってはいたが何も言わずにアクラブ王を見ている。間に一瞬ピリッとした空気が流れたが、それはアクラブ王が口を開いたのですぐに消えた。

「……まぁ良い。今日は旅の疲れを癒やしてもらい、明日より協力を願おう。各々に召使を付けるので何かあれば遠慮なく申し付けてくれ」

「お心遣い感謝します」

 リゲル様が頭を下げるのに合わせて僕も頭を垂れる。それを見届けてからアクラブ王が退室をして──少し時間を置いてから、僕らも部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る