第12話
剣術大会から約一ヶ月が過ぎた。
その間、学院でも突然魔物が現れた事件で話は持ち切りで。
その場にいた他国の人間であるサルガス皇太子の関与が噂されたが、それはリゲル王子に一蹴されていた。
「わざわざ闘いの最中に自分で魔物を呼んで自分で戦った? 流石に無理があるだろう」
「闘いを自分に有利にする? あんな事をすれば混乱して大会どころではなくなるのは判り切ってる。そもそもあの時はシリウスの方が押されていたんだぞ? やる意味が全くない……何? じゃあシリウスがやったのではだと? 馬鹿馬鹿しい。あいつは勝負事に基本興味はないし、魔術関連はからっきしだ。召喚なんて出来ると思うか?」
当然僕の方にも噂は飛び火したけど、リゲル様が言うように僕は血の誓約の影響で魔力を使う術は基本使用出来ない。
それは周りにも知られているから僕に対する噂はすぐに消えた。
逆にサルガス皇太子に対するものは中々払拭出来なかったけど、アリア様が「サルガス皇太子に召喚術の才能は全くない」と宣言したり、最終的には実際に外部の鑑定士に診てもらってお墨付きを頂いたので、表立って噂する人間はほとんどいなくなった。
その一方でサルガス皇太子がシャウラ国の説得を終えた。細かい取り決めはまだ詰めている途中だが
「月に一回リゲル様の血をシャウラ国に渡す」
「学院の長期休暇の時にリゲル様とアリア様がシャウラ国に行って数日間滞在、研究の協力と魔人病の診療をする」
という二つは決定していた。
……で、その長期休暇が明日から始まる。
「基本的に向こうでは別行動になるからアリアにはシリウスを護衛に付ける。お互いに何か起こってもお互いで対処できるだろう」
「……リゲル様は?」
「こっちはカイトスに付いてきてもらうから大丈夫だ。……たまには従者らしい仕事もさせないとな」
リゲル様は若干申し訳なさそうに笑いながら話す。
学院に入学してからこっち、カイトスさんはほとんどリゲル様につけてないもんね。僕のせいだけど。……たまには主従水入らずを過ごしてもらおう。
「……こっちの事より、だ。サルガス皇太子の話だとシャウラ国の一部はまだアリアを手に入れる事を諦めていない輩がいるらしい。今回アリア本人がやって来る事に便乗して何か起きる可能性がある。お前の方が重要任務だぞ、シリウス」
「はい」
言葉に頷きを返しつつ、アリア様へと視線を移す。
「…………」
話題に上がっている本人は口元に手を当て何か考え込んでいた。
「……アリア様、どうかされましたか?」
「えっ? ……あ、いいえ! どうもしないです! すみません!」
僕が顔を覗き込んでいる事に気付いたアリア様は慌てふためきながら謝罪を口にする。
……最近はリゲル様がいても「完璧な聖女様」を演じるのを止めている気がするなぁ。僕のいない所でも二人で話す機会が増えているようだから、気が置けない仲になってきているのかもしれないけど。
一方、リゲル様はわたわたしているアリア様へ若干呆れを含んだ視線を向けながら「落ち着け」とため息混じりに声をかける。
「明日にはサルガス皇太子の帰郷に合わせて出発する。今日はさっさと寮に戻って準備をしよう」
「判りました」
頷きながら返事をしたアリア様の言葉を聞き、リゲル様は椅子から立ち上がった。
「……シリウス」
部屋を出て、アリア様の背中を見ていたところで横から呼びかけられる。
そちらの方に視線を移せば、リゲル様はやや厳しい表情でアリア様を見ていた。
「……正直別行動はしたくなかったが……スケジュールを考えるとそうせざるを得ない。一応サルガス皇太子がそちらに、こちらには彼の従者のバスクを同行させてくれるそうだから、ある程度は何かしら起こっても対処出来るだろうが油断はするなよ。アリアはもちろん、お前も傷ひとつ負う事は許さんからな」
……本当、この人は他人の事を気にしてばっかりだな。他人に向ける気遣いを少しで良いから自分自身に向けてくれれば良いのに。
そう思ったけど、それを口に出してもはぐらかされて有耶無耶にされるのも判っているので。
それ以上は何も言わず、ただ一言。
「かしこまりました」
そう答えるだけに留めた。
……明日からまた、気の抜けない日が続きそうだ。
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