3 幼馴染の賢者が異世界で大人を追い払う

「よし、我らより敵は少ないぞ、一気に叩き込め〜」

「おおー」

王子の威勢の良い掛け声とともに、タカシがいる真ん中の部隊が目の前の敵に突進していく。


「それ〜進め〜」

「おおー、おおおーー」

王子の提案で多少大げさなくらいの声を上げながら進む。 そのほうが敵にこちらの動きを悟られないだろうという思惑だ。


「よし、はじまった。 俺たちも仕掛けよう」

「そうしましょう。 ねえ、あそこの切通しのところになんとか誘い込めないかしら?」


「切通し??」

「アキラ、この間の授業聞いてた? やったでしょう崖を切ったようにして通りを作ったのよ。 ちょうどあそこがそうなっている」


ヒトミが、指しているのは右の部隊の前方にある部分だ。 たしかにあそこなら縦になって通らねばならず、迎え撃つ俺たちには都合がいい。


「いいと思う。 ただ、どうやって誘い込むかだな」

「そうよね。。。やっぱり真ん中の戦いを有利に進めて、彼らに裏から回り込んで攻めようと思わせることよね。」


「うん、ただ数はこっちが有利だけど怪我してること考えると、決して楽には勝てないよな・・。」


真ん中の戦況を見てみる。 タカシたちは善戦していた。魔法使いなどはおらず兵士同士の力と力の戦いのようだが、負けてはいない。ただ長期戦は不利だ。


「な、ヒトミ、ここにいる俺たちの存在って、魔法かなにかで隠せたりしないのか?」

「どういうこと?」


「いや、敵の右の部隊をこっちに突っ込ませるためには、あいつらに突っ込んだら勝てる、速攻勝てる、って思わせなきゃだよな」

「うん」


「だからこっちの存在を消せれば、突っ込んでくるかな、と」

「なるほど。 消せはしないけど、霧は出すことができると思う」


「そうか、ちょうど日も暮れてきてるし、うん、霧を出してみてくれ」

「わかったわ」


ヒトミが霧の呪文を唱えている間に、王子のところへ行き耳打ちをする

「王子、もっと威勢よく、こんなの余裕だな、くらいの勢いで攻めてください」

「うるさいな、お前は」


「前回のような感じで、いい加減に攻めてもらえればいいんですよ」

「お前な、前回だって適当にやったわけじゃないんだぞ」


「分かってますって。 でもとにかく敵に、はっあの王子相変わらず能天気に攻めてくるな、また一泡吹かせてやるか、って思わせたいんです」

「そんな、、、わかったよ、この間みたいにやればいいんだな」


「はい。ぜひ」


王子の声が一層大きく鳴り響く

「よし、敵は怯んでいるぞ、ここは一気に押し込め〜進め〜進め〜」

「おおおおお〜〜〜〜」


さっきから、進め〜しか言ってないじゃないか。。。これじゃ負けるわな。。。まあ、今はありがたい。


ヒトミの元に戻る。 思った以上に霧が立ち込めていた

「おお、ヒトミ、これなら俺たちのことは向こうから見えないな」


「まあね、、、でも私たちから向こうも見えないけどね。。。」

「。。。まあ、音で分かるだろう、さあ、俺たちも配置につこう」


しばらくすると日が暮れかかってきた。


やがて切通しの向こうが赤く灯されているが見えた。と、ともに物音が聞こえる。 

「急げ。 あのバカ王子め。 懲りないやつだな」

「はい、また返り討ちにしてやりましょう」


そうか、うちの王子は敵にもバカ認定されてるんだな。


そばにいるヒトミに小声で耳打ちする

「ちょっとからかってやれ、水魔法であの松明を消してやれ。 ん?どうしたヒトミ?」

「、、ちょ、ちょっと近いって、わかったから」


「ああ、頼む」

「ウ、ウォーター」

ヒトミが呪文とともに、頭部にまで挙げた両手を下に下ろすと、辺り一帯に雨のようなものが降り注いだ。


「ひやぁ〜〜〜〜」

「なんだ、なんだ、どうしたんだ」

「わ、わかりましぇん、とつぜん雨が降ってきました」

「おい、水の魔術師たちよ、前に出ろ」


お、どうやら水魔法の連中が来るみたいだな。よし

「ヒトミ、雷の用意だ。 どうした?赤いぞ大丈夫か?」

「なんでもないわ、わかったわよ、雷ね」


敵の魔法師たちがなにやら呪文を唱えている。 どうやらヒトミが降らせた雨を水魔法で振り払うっているようだ。


「よし、いまだヒトミ!」

「サンダー」


ヒトミの掛け声とともに、空が割れたような轟音とともに、雷が落ちた。 

「ああっ、痛いっ」

「し、しびれる」

「い、っいた、、」

「きゃ」


思った以上に雷が効いているようだ。


「なんだ、なにが起こっている! おい、風の魔術師よ、とにかくこの霧をなんとかしろ、吹きとばせ」


霧が晴れていく。 まずい。

「ヒトミ、土の壁は作れるか?」

「わかんない、でもやってみる」

「よし、いい子だ。 切通しの前に壁を作って、やつらを足止めするんだ」


「わかったわ。 ロック〜」

ヒトミが下から上にかざすと、大きな壁が出現し行く手を拒んだ


「わ、わ、わわぁ」

「なんだ、こんどは」

敵は、突然の壁に出現に混乱している。


よし、ここからは俺の出番だ。 壁の裏側に立って敵に向かって声を放つ

「お前ら、よく聞け! 俺は異世界から来た大賢者だ!!」 


「な、なんだと」

壁の向こうの敵たちが動揺しているのが分かる。


「今回、わけあってエドワード王子とともに戦っている!! これ以上抵抗するなら、大賢者の魔術をもってお前たちを全滅させる」


ヒトミをそばに引き寄せ、耳打ちする。


「すぐに撤退しないと、俺の魔力が爆破するぞ〜〜!」

ヒトミがありったけの魔力で、壁の向こうにも見えるように大きな炎の柱を立てる。


「さあ、いまから5秒以内にありったけの火力でお前たちを攻撃する」


「5、4、3、、」

「ひ、ひっ、に、逃げろ〜退却だ〜〜」


ダ、ダ、ダ、ダッ

壁の向こうにいた敵たちの足音が、次々と遠のいていく。


「ふう〜、なんとか勝てたんじゃないかな。 おい、ヒトミ、ヒトミ」

火柱の火力が弱まるとともに、ヒトミが倒れているのが見える

「おい、ヒトミ、大丈夫か!!」


息はあるが、ひどく疲れている様子だ。 熱もなさそうだが、とにかく苦しそうで、気を失っている。


右の敵が撤退すると、真ん中の敵もひいていくのが見える。 やはり右には指揮官がいたようだ。


「どうやら、敵は逃げたようだな」

「お、王子、、、ヒトミが。。」


「はあ? 魔力切れだろう。 じきに回復する」

「アキラ、大丈夫? 委員長、ど、どうしたの?」


タカシも前線から駆けつけてくれている

「ああ、魔力切れだそうだ。 タカシ、怪我はないか。」

「なんとかね。 やつら撤退しちゃったんだね。」


「ああ、今回はうちらの勝ちだな。 なあ王子」

「そうだな。 よし勝どきをあげよう、えいえい、おー」


俺たちは勝利を収め、まだ気を失ったままのヒトミを背負って城に戻った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る