紡がれる時の絵画

kou

永遠なんてない

 遊園地には、青い空が広がっていた。

 その空の下を、人々が幸せそうに行き交っている。

 家族や恋人達は揃って手を繋ぎ、楽しげな笑い声を響かせながら、まるで夢の中にいるようなひとときを過ごしていた。

 そんな光景の中を――。

 一人の幼い少女が風船を手に元気よく歩いていく。

 黒髪の少女。

 白いワンピースを着ており、その姿はとても愛らしい。

 女の子の髪は、陽光に照らされて輝き、風になびかれるたびに愛らしく舞い上がる。彼女の目は、喜びに満ちた輝かしい未来を映し出していた。

 その純粋な笑顔は、まるで無邪気な花のように周りに幸せを咲かせていた。

「お父さん、お母さん! 早くー!」

 女の子・小林優佳ゆかは、両親の手を引くように走り出す。

「優佳、走っちゃダメよ」

 優しい微笑みを浮かべる母親・明代あきよ

 そして、少女の父親・輝雄てるおも嬉しそうな笑みを浮かべた。

 遊園地の中を歩く小林家族の周りには、色とりどりのアトラクションや飲食店が立ち並び、人々の笑顔と歓声が絶え間なく響き渡っていた。

 バターが香るポップコーンや、風味豊かなキャンディの香りが漂い、鮮やかなクレーンゲームや回転木馬の音楽が心地よく耳に響く。

 遊園地の中央に設けられた専用レーンの最前列に優佳は、両親と共にたどり着くと遠くから近づいてくるのは、楽しげなキャラクターたちのパレードだ。

 音楽に合わせて行進する着ぐるみたちの姿が見えてくる。

 その先頭にいるのは、一際大きなクマのキャラクター。

 優佳と同じぐらいの大きさで、全身を覆う毛並みは艶やかなチョコレートブラウンをしている。首元には赤いリボンをしており、頭には大きな王冠を乗せている。

 それは、この遊園地のシンボルでもあるマスコットキャラクター・ハチミツくんだ。

 優佳が手を振るとハチミツくんは、両手を振り上げて応えてくれた。

 すると、周りの子供たちからは、歓喜の声が上がる。

 ハチミツくんは、子供たちに大人気なのだ。

 やがて、目の前までやってきたハチミツくんたちは、手にしたラッパを吹き鳴らして陽気な音楽を奏で始める。

 さらに後ろに続くキャラクターの仲間たちたちもラッパやタンバリンなどの楽器を演奏し始めた。

 軽快な音楽は、パレードをより一層華やかにする。

 そんなパレードを見ながら、優佳は胸を躍らせていた。

 今にも踊り出しそうだ。

 それを見た両親は、クスッと笑う。

 優佳は、パレードを楽しんだ後、ジェットコースターや観覧車、ゴーカートなど次々と様々な乗り物に乗っていった。

 その度に彼女は、目を丸くして驚き、時には満面の笑みを見せてくれる。

 そして、夕方になる。

 優佳の両親が乗ったゴンドラが上昇していき地上から離れていった。

 窓から見える景色は夕日に照らされオレンジ色に染まり、園内ではライトアップされたイルミネーションが輝き始めている。

 その幻想的な光景に見惚れる優佳だったが、先程遊園地のフードコーナーで大きなピザをまるごと食べたことで少しお眠になっているようだ。

 そんな娘を、父親は優しく見つめながら頭を撫でると、優佳は気持ち良さそうに目を細める。

 彼女の表情を見て、父親は思わず頬を緩めた。

 すると、今度は母親が娘の肩に手を置き、自分の方へと引き寄せた。

 二人はそっと抱きしめ合う。

 そこには、家族の温もりがあった。

「お母さん……」

 うっとりとした声で呟いた優佳は、母親の胸に顔を埋めながら甘えるように擦り寄る。

 その様子に、明代は微笑む。

 優佳は幸せという言葉の意味を知らなかったが、きっとこれが幸せなのだろうと心の中で思った。

 いつまでもこうしていたいと思った。

 だが、幸せはある日突然終わりを迎える。

 優佳は知った。

 永遠なんてないということを……。

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