第18話劣情!異種族間デスマッチ!

「よいか? 劣情!障害物競走について説明する」


 屋上に連れていかれた俺たちはロ理事長にルールを聞く。

 校内に張り巡らされた様々な劣情を催す障害を乗り越え、見事別校舎の医務室にいるイバラの元にたどり着いた者が勝者だと。

 

「幼馴染、俺が勝ったらしばらく高嶺たかねには近づけさせんぞ(インターハイに向けて練習に集中してもらうため)」


「……」


 イク男も言っていたが、ついに相手の男(ゴリ)に言われてしまった。

 所詮幼馴染の俺はイバラが誰と付き合おうと何も言えない。

 そして、相手の男が俺に会うなというのも至極まっとうだ。

 なにせ俺は幼馴染に劣情を抱いているんだから。


「ふむ、正彦よ。 どうにも貴様から勝利への渇望を感じられんのだが?」


 思い悩む俺にロ理事長が問う。


「ロ理事長こそ、 なんの目的があってこんな勝負を監督するんだ?」


「くふ。 長く生きてはいても真剣勝負は見ていて飽きない。 だからこそ前回も趣向を凝らしたということじゃ」


「なるほどね。 孫娘すらもあんたの余興ってわけか。 歪んでるよ。 誰かを真剣に愛したことがあるのか?」


「さてな。 遠い過去にはあったやもしれぬが所詮そんなもの虚ろいゆくもの。 そも貴様こそただ劣情に振り回されているではないか」


「人をめっちゃエ〇くしといて、よく言うぜ(元々相当エ〇いです)」


「口の減らんガキじゃの」

 

 口さがない俺に対しても特に気にしている様子はない。

 ロ理事長は余裕の笑みを浮かべたままだ。


「しかし正彦が勝負にやる気を見せないようでは興が乗らん。 そうじゃ!」


 ロりっ子の容貌どおりに子供っぽく手を叩いて「いいこと思いついた」という表現をする。

 間違いなく面倒が起きそうで嫌な予感しかないが。


「刻限までに両名がたどり着けなければ、高嶺たかね嬢にマイクロビキニ+淫紋を与えた状態でラグビー部に突入させるというのはどうだろう?」


「ダメに決まってんだろ! ババア俺のクラウドデータ(5話参照)見やがったな!」


 このババアはやるといったらやる。

 慌てた俺はババアを掴もうとするがホンロン(いたのか)に阻まれる。


「おばば様に触れるな」


「くふふ。 それではわっちは高嶺嬢の待つ場所へ行ってくる。 そうさな半刻ほどはまってやるがそれ以上は待たん」


 そう言ってフワリと風に舞う花びらのように屋上から飛び降りていくロ理事長。


「ち! まずい事になった! おいゴリ! 勝敗うんぬんよりイバラの身があぶない! 共闘するぞ!」


「断る! 勝負とは神聖なものだ! 高嶺を助けて勝負に勝つのは俺だ!」


 そう言ってゴリは既に駆け出している。

 俺も駆け出そうとした瞬間足元がふらつく。


「?……頭がぐらつく?」


 そういえば、イク男と喧嘩してからまともに治療してないし、結構満身創痍なのかもしれない。

 それでも駆け出そうとする俺を見て「待て」とホンロンに静止される。


「お前には燐火様を救ってもらった借りがある。 手を貸そう」

 

「じゃあ早く俺をイバラのいる医務室へ連れて行ってくれ!」

 

「ふんっ。 そこまでやっておばば様から罰をもらうのもアリだがな」


 そう言ってホンロンは俺の額に触れる。

 暖かな光が俺に集まってくると同時に力がみなぎってくる。


「少しだけ龍の因子をお前に分けてやった。 短期間だけ代謝を上げたからその程度の傷なら回復できるだろう」


「ホンロン……」


「ちなみに寿命は1年くらい縮む」


「だからロ理事長もお前も相談してからそういうのやれよ!」


 異形の奴らは会話が通じるわりに大雑把すぎて事後報告が多すぎる。

 どうやってこの学園の経営を成り立たせているんだ。


 疑問はありつつも動けるようになったのは確かだ。


「まあいい! だが借りを返してもらっただけだ! 恩には着ないぜ!」


 驚くほど身が軽くてパワーが満ちている気分だ。

 高揚感に満ちていた俺だったが、屋上から校舎内に入った瞬間驚愕する。


「これは!?」


 妖狐リンカの時と一緒だ。

 校舎内の風景がガラッと変わってしまっている。

 以前は触手入り乱れるきしょく悪い光景だったが、今回はそこかしかの空気がピンク色のシャボン玉が浮かんでいてどこか淫靡な雰囲気だ。


 きしょく悪くはないが、いつもと校舎内の配置が変わっていて出口がどちらにあるかもわからない。

 少しだけ廊下を走ると突き当りに看板が見えてくる。


『←エ〇彦用ルート  ゴリ用ルート→』


 どっちだ?

 とりあえず、俺はゴリではないし右はちがう。

 左も人の名前みたいだが、そんな奴知らないから違う。

 だが、こうして迷っている間にもイバラのピンチが刻一刻と迫っている。


「ええい! ままよ!」


 俺は右ルートを選択して走り出す。

 何度も言うがゴリラと人間の遺伝子の違いは1%。

 名前が100%違うルートを選択するよりは間違いは少ないだろう。


 走り続けて俺がたどり着いた場所そこは……プロレスリングを中央に備えた会場だった。

 異様な光景だった。

 会場の観客席には異種族が入り混じり、ケモノ耳やら羊の角やら、あらゆるジャンルの男性嗜好に対応できそうな女性達で埋め尽くされている。


 そして中央のリングには……


「ゴリ……」


「幼馴染……貴様なぜこっちのルートへ?……俺を助けにきたつもりか?……ぐは!」


 二人の女性レスラーディーバにロープで両腕を締め上げられているゴリ。

 動けない所を三人目のディーバにボッコボコにエルボースタンプを極められている。


 ディーバたちは各々肩のでたフリフリのへそ出しワンピースやら超ピッチピチのレザーホットパンツなどをまとった扇情せんじょう的な格好で戦場せんじょうへ降り立っている。


 息も絶え絶えなゴリに俺は駆け出しながらロープ脇で声をかける。


「ゴリ! 何やってんだ!? あっちに出口が見える! さっさとイバラを助けに行くぞ!」


「幼馴染……すまんが俺はここまでだ……女性に手を出すことなど俺にはできない」


「何言ってんだ!? そこはリングの上だ! 男も女もない! 第一いまさらお前がそんなコンプライアンスを気にするな!(生徒イバラに手出しといて)」


 そうこうしている間にもゴリはディーバたちに執拗にフロントハイキックなどを極められて満身創痍。

 そしていつの間にかリング中央に配置されている棺桶。


 ゴリは棺桶の前に無理やり立たされると、一人のディーバが観客へ向けて両腕を挙げてパフォーマンスを決める。

 

「うおおおおおー!」


 盛り上がる会場、そしてディーバはゴリに向かって駆け出すとキワッキワのレザーホットパンツを履いたままゴリの顔面にヒップアタックを決める。

 強烈な一撃を食らったゴリはそのまま棺桶の中に倒れこむ。


「ぐはぁ……」


「ゴリーーー!!!」


 俺の叫びも虚しくゴリの入った棺桶のフタは閉じられる。

 熱気で更にざわめく会場。

 完全にレスラーとしてのゴリの人生は終わってしまった。

 

 ゴリが敗れてしまった以上、イバラを助けられるのは俺だけだ。

 俺は会場の出口へと向かって駆け出す。


(馬鹿野郎が……なんで出口があるのにリングの上になんかあがったんだ……)


(イバラの……イバラの大切な人を守れなかった……)


「ちくしょー!!」


 慙愧ざんきの念に囚われながらも俺はイバラを目指した。


  ーーイバラ目線ーー


「くふふ。 高嶺たかね嬢。 体調はどうじゃ?」


 どうじゃ? 

 と言われてもいい気分ではないわ。

 医務室のベッドの上で体育座りをしながら理事長と会話を続ける。


「さすがにわっちも孫娘以外、それも人間に淫紋を埋め込むつもりはない。 勝負に乗り気でなかった正彦を焚きつけるための余興じゃよ」


「……」


 燐火にだって、勝手にやってほしくないのだけど。

 それに……私のいないところで勝手に正彦を焚きつけることも。


「もうそろそろ刻限じゃが、 それで……高嶺嬢はどちらに来てほしいのじゃ?」


「……」


 そんなの決まってる。

 疾風コーチには感謝はしてるけど、別にコーチ以上の感情なんてない。

 

 でも勘違いされたままの正彦と会うのは心の整理がついていないの。


「くふふ。 まぁ思い悩むことも人の美徳よな」

 

「……」


「ん? まぁわっちもお主たちの関係には琴線触れるところがあったからの。 老婆心ながら手助けというわけじゃ」


「……」


「くふふ。 それで疾風コーチが先に来たら余計こじれるだろうがの」


 相変わらず人をくったような笑い方。

 矛盾に見える行動を繰り返す理事長だけど、どこまでが本心で、どこからが虚構かが本人もわからなくなってしまっているんじゃないかしら。

 

「誰か来たようじゃの」


 そう聞いてあわてて医務室のベッドのシーツを覆いかぶさる。

 正彦に来てほしいけど、正彦が私に向けた目線をもう一度受ける覚悟がないもの。


 医務室のドアを開ける音が聞こえたの。


「くふふ。 順当な結果じゃの」


「イバラは!?」


 正彦だ。

 どうしよう、嬉しくて涙がでそう。


「そこのベッドじゃ。 さ、 邪魔者のわっちは退散しようかの」


 ドアを開けて遠ざかっていく足音と、近づいてくる足音が聞こえる。

 足音の一つがベッドの前で止まる。

 シーツにくるまれたまま顔を見せれずにいたの。


「イバラ……大丈夫か?」


「……」


 返事するのもしないもの怖い。

 どちらの選択をしても勘違いされて、嫌な結果になるのは前世の頃から変わらない。

 今も正彦に勘違いされているし。

 それを正そうとしたら、きっとまた胸が痛くなって話すことができなくなる悪循環。


 でも、でも勘違いしてるのにどうして来てくれたの?

 それだけは知りたい。

 私をどう思ってるの?


「イバラ……顔を見せてくれないか?」


「……」


 シーツにくるまれたまま首を振る。


「そうか……来てしまったのが俺ですまない」


「……」


 ちがう。

 正彦と顔あわすのが怖いだけ。

 正彦に来てほしかった。

 顔をみてそう伝えたいけど、伝わらなかったときを想像すると見れないの。


「イバラ……俺は今から幼馴染としてお前に酷いことをする。 傷つけるかもしれない」


「……」


 いやだ。

 正彦、怖いよ。

 

「俺はお前を守ると決めた。 子供の頃にお前と出会う前からずっとだ」 


「……?」


 シーツをかけていた頭の部分を外されると正彦の顔が目の前にある。

 そして――


「~~~~!!!!」


 正彦の唇が私の口に……つまり……え?

 え?

 えーーーーーー?


 ま、正彦にそんな事されたら、も、催しちゃうぅぅ!(注:もちろんイバラも普通にエ◯いです)


 慌ててベッドから飛びおきてしまうと、私の姿をみてむしろ驚く様子の正彦。


「イバラ!? え? あれ!? マイクロビキニは!?」

 

 マイクロビキニ?

 なんの話?

 陸上部の練習中に運ばれたからユニフォームのまま。


「……」


「いや! そりゃ見たいよ! いっただろ!? 俺は生徒会費全額を……じゃなくて淫紋は!? ロ理事長になんかされたろ!?」 


「……」


「さ、されてないだとぉ!? 俺はこれ以上お前がエ〇の才能を開花させないために……あ」


 言いかけて正彦の鼻から大量の血が流れ落ちる。

 その勢いはさながらナイアガラといったところかしら。


「あ……あ……俺は、俺はなんてことを、」


 フラフラという効果音が聞こえそうなほど身体が揺れていた正彦がその場に倒れこんでしまう。


「正彦!」


「イバラ……なんて……美しい顔と……こえ……なんだ」


 倒れこんだ正彦は遺言をこぼすかのように気を失うとそのまま3日間、目を覚まさなかった。

 すごく、すごく心配だったけど、正彦が回復してからは実は私は満たされている。


 私だけ燐火にバカにされずにすむのもそうだけど、前世ぶりに正彦マーシャがキスしてくれたんだもの。


 ーー劣情バトル戦績ーー


vs早生硝子  2勝0敗

vs高嶺茨   0勝3敗

敗因 キスして憤死。

vs戸成燐火  0勝2敗

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