第7話忘失の果て 〜その先にあるのは劣情?それとも〜

「マサヒコー? 朝ごはん食べないのー?」


 見知らぬ家のリビングで焼いた食パンとスクランブルエッグ〔ベチャベチャ)を食している早生硝子わせ しょうこさん。

 驚くべきは食事を促している割にここは彼女の家ではなく、僕の家だという。


「せっかく可愛い幼馴染が作った朝ごはんだよー。 謹んで食べるがいいー」


 朝日が昇る時間ではあるけど、まるでもう一つここに朝日があるかと錯覚するほどのまぶしさで笑顔を振りまく早生わせさん。

 秒速で減っていき、美味しそうに朝ごはんを食べる様を見ても僕の食欲はわかない。

 頭の中にある疑問が一向に解決していかないからだ。


「あの……早生わせさん?」


「んー? 普通に硝子しょうこって呼びなよー。 マサヒコその記憶喪失設定? まだ続けるの?」


「い、いえ、 ですから設定とかではなくて……もう一度確認させてください。 僕たちは幼馴染同士で家も隣同士。 だからこうして朝食を食べることも多々あると。 仲いいんですね?」


「そりゃあ子供の頃からずっとそうだったしねー。 今さら朝の日常はなかなか変えられないよ。 一番大事な存在ではあるかな?」


 ついつい遠回りに聞いてしまう。

 ホントに聞きたいのはとなりで下着姿を着て寝ているという関係性だ。

 僕らは幼馴染同士で……


「その……つまり恋人同士……という事でしょうか?」


「恋人? あはは! ナイナイ! マサヒコ全然タイプじゃないもん!」


 にべもなく否定されるどころかタイプですらないという。

 こっちは彼女のモコモコのパジャマの胸部にある曲線ばくぬーにうっかり恋に落ちかけていたというのに。(それこそ唯の劣情では?)


「あー! わかった!」


 向日葵みたいに笑う人だな。

 なんて考えてると早生さんが向日葵ぽい笑顔からジトっとしたものに切り替わって僕に近づき、問い詰める。


「マサヒコ私に劣情を催しちゃったもんだから恥ずかしくて記憶喪失のフリなんかしてるんでしょ? そうだろこらー。言え。 正直にいうんだー」


 後ろから僕を羽交締め、チョークスリーパーを決めながら問い詰めてくる。

 少しだけ苦しいが、背中に当たる圧倒的なボリュームばくぬーも正義!に意識が傾き、多幸感に包まれる。


(わわ、わわわー!? ん、 こ、これは!?)


 その衝撃(?)から記憶喪失だった僕の頭に蘇る一つの記憶。

 その正体が掴めそうで僕は懇願する。


「早生さん! 何か思い出せそうです! もっと! もっと強く締めてください!(?)」


「んー? こう?」


「ぐっ……もっと……もっとです」


 乳の破壊力に意識を朦朧とさせながらはっきりと記憶が蘇る。


(これは!?)


 それは露出度の高い、まるでビキニを着た女性同士がレスリング技を極めたり極められたりする光景。

 海外の女子プロレスラーはレスリングの技術を求められることもさる事ながらそのセクシーさで男性、女性問わず魅了する事も求められる。

 僕も魅了された一人だった。

 

 美しく、セクシーな格好をした女性同士ディーバ達がボッコボコに殴りあう様にリ◯ナ味を感じて興奮して、僕はyouつべゆーつべを夜な夜な未漁っていたんだった。


「これは……美しい女性達がリングの上で……己がセクシーさを武器に……なんて……劣情……的……なん、 だ」

 

 ……全く意味のない記憶だけ呼び起こされたようだ。


「もっと……そぅ……もっと」


 最後まで劣情を欲して、僕はそこで意識を手放してしまう。


 ーー数十分後ーー


「マサヒコー 起きてー準備しないと遅刻するよー」


「はっ! ここは! 早生さん? それにその劣情的な格好は一体……?」


「普通に学校いくから制服に着替えただけだよ。 もういい加減その早生さんてのやめてよ。 怒るよー」


 意識を回復させた僕の前に現れたのは劣情にまみれた格好(?)膝丈上のミニスカートに乳袋満載の制服姿に身を包んだ早生さんだった。


「し、しかし……いまいちあなたとの関係性もわからずに名前でお呼びするのもおこがましくて……」


「だから! 家となり同士で幼馴染でしょ! それ以上でもそれ以下でもないって!」


「でしたら……! でしたらなぜ恋人同士でもないのに朝は下着姿で劣情を催す様なマネで誘惑されたんです!?」


 僕としては当然の疑問だ。

 恋人同士でもないのであればなぜ早生さんはあんな豊満ミサイルを披露したんだ?

 だのにその疑問を受けた早生さんの表情が曇る。


「やっぱり……それが聞きたくて記憶喪失のフリなんかしてたんだ……」


「早生さん?」


「その呼び方やめて。 今日は一人で学校行くね。 マサヒコも早くしないと遅刻するよ」


 向日葵の様な笑顔はいっさい見せず、早生さんは一人で玄関から出ていってしまった。


「遅刻? 学校の場所もわからないのに?」

 

 色々疑問はあるけど、僕は性格上遅刻とかするのがすごく嫌なようだ。

 急いで準備を整えて、学生手帳にあった高校名をスマホ検索してなんとか始業時間に間に合った。

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