第8話忘失の果て 〜その先にあるのは劣情?それとも2〜

 生徒手帳に学年とクラスまで明記されていて助かった。

 おかげで遅刻せずに授業を受ける事ができるんだから。


 席については早生さん……というとまたすごい剣幕な表情だったので硝子さん、に聞いたら返事はしてくれなかった。

 席の方向を指だけ指されて空いてるっぽい所がなんとか正解だったらしい。


 現在は授業を受けているが、休み時間になったら情報収集だ。

 誰と親しくしていたかもわからない状況だが、休み時間とかになれば学友が話しかけてくるだろう。

 その時に何か記憶を失ったきっかけがないか探ってみよう。


 ーー何度か休み時間を終えてーー


  あんれーー?

 誰も話しかけてこないぞ?(正彦はもちろんクラスで浮いてます)

 

 これは、もしかしなくてもあれかな?

 俗に言う僕は『ぼっち』ってやつかな。


 あんな可愛い幼馴染がいるからてっきりスクールカーストトップ層、またはそこそこの住人かと思ってたけど、友達一人もいなそうなんだな。


 硝子さんはぜんぜんクラスに打ち解けていて、というか男女問わずまるで列をなすかのように話しかけられている。

 まさしくトップカーストの住人だ。

 でも朝に少しだけ見れた向日葵の様な笑い方とは少し違うような、人工的造花の向日葵というか。

 どうも怒らせてしまったようで朝のようには僕と話してくれない。(チョークスリーパーの時にしっかり背中でたわわの感触を味わったせいだろうか?)


 休み時間に誰かに話しかけられないかと教室内をうろついてみてたらいつの間にか僕の席に男子生徒が座ってる。

 短髪で快活そうな男子はカラカラと笑いながら周囲の生徒と笑いあっているのを見て僕は苛立つ。

 どうも僕はこういうのが納得できない性質らしい。

 意を決して話しかける。


「そこは僕の席じゃないかな? どいてもらっていい?」

 

「? 角田くんの席は後ろのこの席だろ? 朝から急に座られてて困ったけど、あまりに堂々と座り続けるから俺だけ認識が変わってしまった世界線にでもきてしまったかと思ってたけど、そうでもないみたいだから普通に自分の席についただけさ」


「……ごめんなさい。 間違えました」


 話題をUターンさせるかの如く慌てて謝ってみる。

 なるほど、硝子さんに指されて座った席を勘違いしてこの席に座ってしまってたんだな。

 それを何時間も追求せずにいてくれた彼はむしろ立派な人物だった。


「あんな美少女の幼馴染がもいるとやっぱり気が大きくなっちゃうもんなのかね?」


「二人? 一人は硝子さんと……もう一人は?」


「……嫌味も大概だぜ。 3組の『高嶺の荊姫たかねのいばらひめ』だろ! 席勝手に座ったりとか角田くんってホントに空気読まねぇよな!」

 

「……どうも僕は人を怒らせるのが得意らしい。 怒らせたのなら謝るよ。 ただすまない……僕はそのもう一人の幼馴染に会わなくちゃならない。 聞きたい事だらけなんだ」


「……そうやって幼馴染の事ばっかりだからみんな角田くんに辟易してんだろうけどな。 ま、 いいや。 別に喧嘩したいわけでもないし、いつも通り『茨姫』のとこ行くならどうぞご勝手に!」


 言葉通り辟易した様子の男子生徒に促されるままに僕は教室を出て3組を目指そうと思った時に先程男子生徒のから気になるワードが飛び出して身をひるがえす。


「たく! 最近じゃ副会長の入玲いれ先輩にも気に入られてるみたいだし。 ああいうのをハーレム系っていうんだろうな!」


「失礼。 入玲いれ先輩というのは? 僕と仲良いんですか?」


「うわぁ! 行ったんじゃないのかよ! 仲良いかなんてなんてそれこそ角田くんの問題だろ!? 同じ生徒会同士で交流でもあるんだろ! 知らんけど!」


「僕は生徒会だったんですか!? 貴重な情報だ! ありがとう!」


 男子生徒の手を取ってお礼を述べる。

 こちらとしては本当に感謝の念を伝えただけなのだが逆に心配を返される。


「……なぁ大丈夫か? いつも角田くんはおかしいけど、 今日のはなんつーかホントに怖いぜ? 友達作りたいんだったら別にそんなキャラ設定しなくても普通にしゃべりゃいいのに……今日は髪型もセンター分けじゃないし(正彦はいつも寸分の狂いなくセンター分け)」


「僕はいつもセンター分けだったのですか!? 貴重な情報だ!(?) ありがとう!」


「しらねぇよ! 角田くんの気分の問題じゃねぇのかよ!」


 ひどく心配されてしまったようだが、普段からあまり仲よさそうに見えない彼からはこれ以上僕の情報は得られなそうだ。

 

 謝辞だけ伝えて僕は教室を後にする。

 ちょうど昼のロング休憩に入った時間だ。

 まずは一番仲の良さそうなもう一人の幼馴染『タカネノイバラヒメ』(すごい名前だな)に会いに行かねば。


 ーーイバラのクラスにてーー 

 

 3組について『タカネノイバラヒメ』について聞いて回ろうとしていた時だった。

 僕を見つけた時に小走りで近づいてくる美少女の存在があった。

 その美少女を見て僕は息をのむ。(始まります)

 腰まで伸びた金髪風になびく、シルクのようにきらめいていて人工物ではない天然だからこその美しさだ。(もちろんイバラの髪はブリーチでマッキンキンです)

 瞳は淡い青色で鼻筋は通り、唇は薄く柔らかそうにほんのりと色づいてる。

 長い睫毛が目を引き透き通るような白い肌に細い指が映えている。

 スレンダーな体型だけどバストやヒップも程よく盛り上がってて女性らしい曲線美が際立っていた。

 まるでファンタジーの世界からエルフが飛び出したような美しさに思わず平伏する事しか僕にはできなかった(正彦は容姿だけならイバラが一番タイプ)


「……?」


 あまりの美しさに思わず平伏してしまう僕を見て推定『タカネノイバラヒメ』が小首を傾げている(かわよ)

 その愛らしさに身悶えながらなんとか僕は彼女に当初の目的を質問する。


「失礼。 あまりの美しさに我を忘れてかしずくことしかできませんでした。 あなたが『タカネノイバラヒメ』さんですね?」


「……!……」(ぷいっ!)(イバラはその呼ばれ方嫌い)


「あ、あれ? 違いました?……確かに僕みたいなぼっちにあなたみたいな美しい幼馴染がいるのも変な話ですもんね……あの『タカネノイバラヒメ』さんはどちらにいるかご存知ないですか? このクラスの方らしいんですが」


「……?……?」(疑問だらけの怪訝そうな表情)


「ご存知ないですか……うーん困ったな……探そうにもノーヒントすぎるなぁ。 ありがとうございます。 とりあえず聞き込みを続けてみますね」


「……」


 確信を持って聞いた相手だったけど、どうやら違っていたらしい。

 押し黙っている美少女が何か伝えたそうだけど、僕としては幼馴染である『タカネノイバラヒメ』を探さなきゃならない。


 だが何人かクラスの方に『タカネノイバラヒメ』の居場所を聞いてもみんな怪訝な表情をするばかりで誰も質問に答えてくれない。(隣にまだイバラがいるから、ちなみにイク男は今食堂にいる)


 『ぼっち』ここに極まれりだ。

 自分のクラスでも思ってた事だが僕は相当数嫌われているらしい。

 記憶を失う前の僕はどんな奴だったんだ?

 なんとしても『タカネノイバラヒメ』に会って確かめなければいけないのに刻々と時間が過ぎていく事で焦りを覚える(隣にいます)


「……」


 何かを言いたそうな美少女だが『タカネノイバラヒメ』の情報が得られない以上ここにいても仕方ない。

 もう一人の探し人を尋ねてみるか。


「あの、入玲いれ先輩という方はご存知でしょうか? なんとかして彼女にも会いたいのですが」


「!……」


「どうやら僕と親しくしているらしい彼女にも会いたいんです」


「……」(ブチっ)


「あ! そうか副会長って言ってたから生徒会室に行けば会えるかも! 申し訳ないですが案内していただけないでしょうか?」


 なぜか僕が話せば話すほど美少女の綺麗な眉間にシワが寄っていく。

 複雑な表情を浮かべる彼女が歩を進めたので僕はその可愛らしい背中についていくことに決めた。(ルンルン!)

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