第6話狐につままれる 〜ロリババア襲来〜

「リンカー。 なんでそんなに離れて歩くんだ?」


 下校途中のリンちゃんを見つけたので尻尾を振る子犬ばりに近づいて一緒に帰ろうと誘った。


 リンちゃんも最初は嬉しそうにキャハハと「ザコ彦友達いないもんねー」と俺の傷口に塩をぶっかけてきてて楽しそうだったのになんか今は距離を感じる。

 というより普通に30mくらい離れて一緒に(?)帰ってる。

 下校途中にさっき何かを見つけたような感じがしてた気がするけど。


「別に……アンタと幼馴染ってだけでも恥ずかしいのに一緒に帰って変な関係に見られたらあぶないし……!」


 普通に傷つく。

 俺にとってリンカと幼馴染であるという事はこの世にあるどんな美しい宝石よりも価値のある事なのに、その幼馴染本人にその関係性を否定されるとは。


「な、なんだよ今更! 家だって隣同士なんだから全然変じゃない! みんなだって今さら俺たちの関係が幼馴染以上だって思わないだろ?(俺は劣情を抱いてるけど)」

 

 距離を詰めてリンカに俺の思いの丈を伝える。


「近づかないでよ!」


「やだよ! 急になんなの俺なんかした!?(劣情を抱く以外で) ちゃんと罵倒してくんないとわかんないよ!(?)」

 

 ズカズカと歩を進めるリンカ。


 いくらなんでもおかしい。

 なんていうか設定メスガキ的なツンじゃなくて今普通に俺を拒絶しているような……?


 い、嫌だ!

 リンカが俺を拒絶するなんて!

 一生俺の事を、少なくともあと80年(余生3日まで)は罵倒してほしい!


 劣情とは抜きに感情のままリンカを引き止めようと腕を掴んでしまう。

 

「さっきまであんなに楽しそうに俺の事罵倒してたじゃん!」


「楽しそうになんかしてない!」


「してたよ! 『ざーこざーこ』って! 頼むからざーこって言ってくれよ(?)」


「なにそれ言ってない! 言ってないもん! 離してよキモチわるっ!」


 あ、これは違う。

 罵倒めすがきじゃない。

 拒絶だ。


 リンカが俺の手を引き剥がす。

 俺の方もリンカの感情が読み取れてそれ以上腕を掴んでられなかった。


「なんだよそれ……俺リンカに何かしたの?」


「ちがっ……! マサは何も……! とにかく今はダメなの! 離れて!」


「嫌だ! 離れるもんか! リンちゃんは俺がリンちゃんをどれだけ好きかわかってないから離れようとするんだ! 俺はリンちゃんを……!」


「バカ! 今は……今は本当にダメなんだってば!」


 愛を伝えることすらできない。

 リンカは俺の思いを遮ると走り去って行ってしまった。

 家となりなのに。


 こーん、こーん。


 何か音が聞こえる気がするけど、なんでもいい。

 

「リンちゃん……」


 愛しい人の名が俺の口から溢れる。

 拒絶されたばかりなのに。


 その場に立ち尽くすしかない俺だったが。


 こーん、こーん、こーん。


 さっきからやたらへんな音が聞こえる。

 不思議な感覚だ。


 周りはただの閑静な住宅街だ。

 落ち込んでその場に立ち尽くしたいのに、正体のわからない音に違和感を感じてその場を離れたくなった。


 リンちゃんは俺と一緒に帰りたくないらしいから、いつもとは別ルートを歩く。


 少し歩くと子供の頃よくリンカと遊んだ神社が目に入り、郷愁にかられて思わず鳥居をくぐる。

 少し急勾配の階段を登って境内へ。


 基本的に無人の小さな神社なので境内に着いても誰もいない。

 綺麗好きだが、別に潔癖症なわけではない俺は境内付近の階段に腰を落とす。(制服はクリーニングに出すことを決めた)


『狐火神社』


 燐火りんかと狐火という言葉が同じ意味。

 愛しい人の名前と聞いてからこの神社は思い入れもあるし思い出もある。


 あの幼馴染との美しき日々の思い出が脳内を巡るーー


 ーー小学生時代回想ーー


「ざーっこ! ざーっこ! ザコ彦がまた泣いてるー! 男のくせにみっともなーい!」


「うぇぇ……まってよリンちゃん……おいてかないでぇ……!」


 神社の境内への階段をスーパーダッシュで昇っていくリンちゃん。

 足も速いし、可愛いし、要領よく大人にも同年代にも性格を切り替えて対応できるみんなの人気者。


 僕の幼馴染でヒーローみたいな存在。

 それがリンちゃんだ。


「走ってる顔も必死できーもっ! きっもいしおっそーい! ザコ彦 ざーっこ! キャハハ!」


 後年の僕は思う。

 この頃のリンちゃんは完璧なまでのメスガキであったと。

 

 生意気そうな吊りめ目に、肩が丸出しフリフリワンピースで露出過多。

 子供なのにうっかり性を意識する恰好。(正彦は子供の頃からムッツリ)

 更には幼児女子をスケベな目で見ていた用務員さんを言葉責めでフルボッコにして新たな境地に目覚めさせる完璧なまでの言語力メスガキ力


 どれをとっても完璧な僕のヒーロー(?)だった。


「……リンちゃんはすごいなぁ。 勉強も運動もなんでもできてヒーローみたいだ」


 女の子にいうのが間違いだってわかってる。

 でも、周りに流されて生きる僕にとっては我が道を進むリンちゃんがとてもまぶしかった。

 

 境内前の階段に座ってさっき買ったアイスを二人で食べる。


「キャハハ! ザコ彦勉強もできないもんねー! あっごめーん! いっつも誰よりも予習復習してもリンカより全然だもんね! すごいすごい才能だよー! 自信持って!」


「……僕が駄目すぎるからお父さんは僕と暮らしてくれないのかな?」


「え……?」


 余裕の笑みを浮かべてたリンちゃんが血の気を失ったような声をだしてる。

 別にリンちゃんに嫌味を言いたいわけじゃない。

 ただ少し、いやずっと悩んでたんだ。


「離婚が決まって、 僕すごく悲しかったんだ。 今までの幸せだった生活が全部ウソみたいに、幸せだったのは僕だけに思えてきて」


「ごめ!……マサ……リンカそんなつもりなかったの!」


「リンちゃんに悪いところなんて一つもないよ……それどころか君にはたくさんいいところがあるじゃないか」


「マサ……!……リンカの事はいいよ……!」

 

「……ホントはせめてお父さんと一緒に暮らしたかった。 お父さん仕事遅いし掃除とか料理とか頑張ったんだ。 でも『それなら母さんの事守れるな』って言われて。 僕の言う事なんて二人とも聞いてくれなくて」


「マサ!」


 リンちゃんが僕を抱きしめる衝撃で二人ともアイスを落としちゃった。

 晴れた日の夏場だったしリンちゃんはいつも露出が多いから汗ばんだ部分が皮膚に直接当たる。


「うぇぇん……マサごめんねぇ!……リンカはマサとずっと一緒にいたいからぁ!」


「ずっと?」


「うん……! うえぇん! しょうがないからマサのおよめさんにも……」


「ずっと幼馴染でいてくれる?」(注:正彦の愛は子供の頃から極端だし、超重いです)


「え?」


 僕はお父さんもお母さんも許せない。(注:以下略)

 幼馴染同士で結婚して、離婚して。

 

 『ショウちゃんとイバラちゃんとリンちゃん誰と結婚したいー?』なんてはやしたててたくせに。

 あの二人が見せたのは幼馴染の最悪な可能性じゃないか。


「……マサはその方がいいの?」


「僕はショーちゃん、イバラ、リンちゃんとずっと一緒にいて、大人になって関係性が変わって、三人が僕の事なんか忘れて生きてくなんて耐えられない」


「ショウちゃんだけじゃなく、やっぱりイバラも一緒がいいの?」


「……うん」


 リンちゃんとイバラはあんまり仲が良くない、というより悪い。

 身勝手だとは思うけど、ホントは仲良くしてほしい。


 「マサらしいね」といって僕の顔の正面にリンちゃんは向き直る。

 リンちゃんの可愛い顔が目の前にある。


「大丈夫だよマサ。 リンカがマサを忘れる事なんかないから。 ううん、 もしもマサがリンカを忘れちゃってもリンカはマサのこと覚えてるから」


「? 僕が忘れるわけないじゃん」


「絶対に?」


「当たり前じゃん! そんな事いうとリンちゃんでもーー!」


 「怒るぞ!」と言いかけた時にはリンちゃんの唇が僕の口ていうか歯に当たっていた。

 

「? リンちゃん?」


「ごめんね……リンカもマサを一人にしたくなかった……でも、 でもねーー」


 リンちゃんは寂しそうな顔だったのをよく覚えてる。


 ーー小学生時代回想終了ーー


 劣情を催すこともできないくらい幼かった日々(正彦は今キスされたら憤死します)

 あの美しい日々を宝物のように頭の宝箱にしまっていたのは俺だけなんだろうか。


 こーん、こーん、こーん。


 なんだろう。

 生き物の鳴き声の様なものがやっぱり聞こえる。

 得体のしれないものほど納得できないものはない。


 俺はその鳴き声が聞こえるような気がする、神社の裏まで歩を進める。

 そこで俺が見たものはキツネだった。

 見ただけでわかる。

 キツネの毛皮はふわふわと柔らかく、触れると気持ちが良いに決まってる。

 眼は狡猾そうに輝いているのに笑ってるようにみえて、しなやかで長い尾。

 つまりモフモフの境地という事さ。


 気持ち良さそうに寝息を立ててるように見えた俺はモフリストとしてそのノドに触れてみる。

 柔らかい。

 モフモフというよりマフマフ(?)


 触っても逃げ出さないそのキツネの全身を撫でまわす。


 モフモフマフマフもふまふマフモフもふもふまふまふ!


 柔らかさを最高に堪能していると突然そのキツネから女性の嬌声のようなものが聞こえる。


「はぁ……ん」


 状況に納得できず、身体が硬直してモフるのを止める。


「はぁ……もうお終いかぇ?……まぁわっちも孫娘の思い人にこんなにモフられるとはおもっておらんかったわな」


 ぼふん。


 キツネを基盤に当たり一体が煙に包まれる。


「うわぁ!」


「あらぁ。 驚かせてしまったかぇ? えぇとマサくんだったかの?」


 煙がうっすらと消えて現れたのは巫女装束をミニスカートにしたロリっ娘だった。

 銀髪の小さな頭からはキツネの耳のようなものが垂れ、装束のスカート部分からはモフ欲を刺激される長い尾が出ていた。


 事態の把握がうまくできない俺は声を荒げて疑問を呈する。


「たれた貴様は! さっきのキツネをどこにやった!?」


「そんな司馬遼◯郎さんみたいなしゃべり方、久しぶりに聞いたぇ。 それとも最近若い子はまたそんなしゃべり方しとるのかぇ?」


「否! これは俺の意思だ! 貴様がロリババアみたいな話し方をするから合わせている!」


「展開が早くて助かるわぁ。 確かにわっちは長い時を生きとるからババアみたいなもんだしのぉ」


「質問に答えろ! さっきのモフギツネをどこにやった!? まだ、触り足りないんだ!」


「……撤回するわ……これは話が長くなりそうだから面倒だの」


 ロリっ子のくせにババア言葉を話すまごう事なき、ロリババアはやれやれと辟易した調子で俺の話を聞き流す。

 

 まぁ、本当は気づいてる。

 さっきのキツネがこのロリッ子ってわけだろ。

 幼い頃から見えていた。

 リンちゃんからたまに見えていた幻覚のような尻尾。

 一度触ってみた事すらある。

 リンちゃんが「見なかった事にして」って顔で言ってたから見なかった事にずっとしてきただけだ。


「それで? 孫娘って事はリンちゃんのおばあさま……あああ失礼しました! あんな可愛いメスガキをこの世に誕生させるきっかけを下さった至高の御方にとんだご無礼を!」


「恫喝したり、かしづいたり忙しい奴だのリンカの正体には気づいとったということかの?」


「いえ! 正体とかはわかっておりませぬ! ですがお孫様を愛する気持ちには変わりないので特に気にしておりませんでした!」


「おもろしろい奴だの……だが可愛い孫娘をかどわかし、挙句何もしなかった罪は重い……そうさな……その身で償ってもらうかの」


 そう言ったロリババの小さな指先が光り始める。

 ベ◯ータがいわゆるエネルギー波を放つ一歩手前みたいな感じだ。(クソソソでも可)

 

「マサ! やめてよお婆様!」


 ロリババのエネルギー波がどれくらいの威力かは知らんが窮地を救おうと駆けつけた子供の頃から俺のヒーローであるリンカ。

 必死の形相でババア(容姿はロリです)の腕をつかんでいる。


「リンカ!?」


「マサ……! ごめんね……! 巻き込んじゃって」


「邪魔じゃ」


 突然現れたリンカに驚いた様子も見せず、ババアは尻尾からいくつものエ◯ゲーに出てくるような触手(注:正彦は高一なのでエ◯ゲをやった事はありません)を生やしてリンカの全身を縛る。

 子供の頃からのヒーローリンカはエ◯ゲの魔女っ子よろしく対◯忍(全年齢版)ばりに弱かった。


「くぅ……!」


 全身をエ◯ゲで見たような触手(注:以下略)で縛られたリンカが艶っぽい苦悶の吐息を漏らす。


「リンカ! おいよせババア!(おお!?)」


「様づけで読んだりババア呼ばわりじゃったりほんとに忙しない奴だの」


「黙れ! リンカを傷つける奴はたとえ家族だろうとゆるさねぇ!(た、たのむ!もっとエ◯い感じには縛ってくれー!)」


 リンカ誕生の礎となった方だ。

 尊敬と感謝の念はあれど、最愛の人間を傷つけられて黙ってられる程人間はできていない(若干劣情気味)

 俺は触手をリンカから引き剥がしにかかる。


「マサ! お婆様を刺激しないで! 一族の中で最も年長者で力があるんだから! ホントはアタシも孫どころかひいひぃひぃひぃまごーー」


「黙っとれバカ孫娘」


「むぐぅっ!?」


 触手を口の中に突っ込まれて悶絶するリンカ。

 その光景に劣情を感じて引き剥がす手が止まりかけるが、さすがに本当にピンチそうなので俺は本体であるババアの元に向かう。


「ババア! リンカを離せ!」


「ふんっ……どうにもカンに触る人間だの……」


 触手を引き剥がそうとババアに飛びつこうとした瞬間、ババアの手から放たれる拡散エネルギー波の直撃を受けてしまう。


「む、むぐー!!」


 最後に見たリンカの姿に劣情を催して俺は意識を手放した。


 ーー翌日ーー


『起こせ起こせーー♪ マサヒコが起こしてくれないと遅刻しちゃうぞー! 早く起こしてー! 起こすと喜ぶぞー! 嬉しいぞー!』


 けたたましい音声を受けて僕は目を覚ます。

 音声の先を見ると目覚まし時計らしきものがあったのでとりあえずスイッチを押してみる。

 音声が鳴り止む。


 時刻は午前6時30分。

 僕は誰かの部屋で眠ってしまっていたようだ。

 辺りを見回すとベッドの毛布に包まれている存在を発見する。

 特になんの気はなしに毛布を引き剥がしてみて驚愕する。


「うわあ! な! 下着!? ええ!?」


 そこにいたのは裸同然の下着姿の美少女だったからだ。

 僕が驚きの声を上げた事で、眠っていたその女性が目を覚ます。


「うぅん? おはよーマサヒコぉ。 なんか驚いちゃってるけどどうしたのぉ?」


 僕の驚きとはよそに美少女はさも当然とばかりに朝の挨拶をかけてくる。

 それでも気が動転しているのでまともな返答が僕にはできない。

 

「ど、どうしたって……! そ、そんな裸同然の姿で美少女がいたら誰だって驚くし……それに……!それに!」


「??んー? まさか劣情を催す?」


「劣情!?……催しますよそりゃ! なんで意外そうなんですか!?」


 寝起きにそんな巨大なものを見せられて、催さない人間なんているんだろうか!?

 状況がまったく掴めないのに僕が最初にできた事は一つ。

 劣情を催す、これだけだ。

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