第5話高嶺茨の成長 〜無口系幼馴染はア◯顔ダブルピースでかく語りき〜

 みんな気づいてなかっただろう。(?)

 まだ春先が終わったばかりの高一にして俺は生徒会役員なんだ。

 生徒会会計をやっている。

 クラスの行事とかの数字がズレてると納得できないでいて、細かく資料とか作成してたらいつのまにか生徒会長から会計指名された感じだ。


 几帳面で神経質(人に言われると悪口じゃないか?)な奴にはぴったりだからって先生方も納得してくれた。

 

 生徒会での議題はスポーツ系クラブのユニフォーム購入についてだった。

 会長や議長が議題を進めているので相変わらず俺が発言する事はなかったが、女子陸上部のユニフォームをマイクロビキニに(男子は普通のユニフォーム)一新するという天啓を得た俺は会計としてその予算全て投入を申請したが却下された。


 なぜだ?


 納得できずにいるうちに議会は終了してしまったので、仕方なく年少者の俺が後片付けをはじめる。


 会長などは予定があって先に生徒会室を退室。

 他のメンバーも雑談などを始めて、資料、長机の後片付けが終わらない。


 ぼっちの俺は手伝ってというのもはばかられるので黙々と後片付けに徹していた。


 手伝うでもなく俺を見つめる視線が一つ。


「何か?」


 仏頂面で尋ねた自覚はある。

 でも暇そう椅子に座ってスマホをいじってる画面越しに俺を見てるなら手伝ってくれてもいいじゃないか。


「真面目だなぁと思って」


 そう答えたのは副会長(高校2年)

 栗色の髪にゆるふわな感じのパーマ、少し垂れ目な感じが愛嬌なのかな?

 副会長なのにスカートは校則違反一歩手前どころかアウトな短さ。

 まぁ、ギャルだな。


「この中で年少なのは俺ですから。 雑務を一番やるのは当然ですよ(嘘だよばーか! 人見知りで言えねぇんだよ!少しは気つかえ!)


「そうかなぁ……? 角田くんは 会計なのに生徒会会議の準備とか字が綺麗だからって書記でもないのに議事録なんかもつけて大変そうじゃん。 なのに文句も言わないでさー」


 そう思ってんなら手伝えよ、と当然の返答を心の中で呟く(正彦は結構溜め込む方、やめなー)が特に相手をせずに黙々と片付けを続ける。


「そんな子がマイクロビキニ? 好きなの?」


 そりゃ好きだ。

 布地が少なすぎて、それ隠す意味ある?

 逆に恥ずかしくなってない?

 ていうのがポイントだ。

 だが俺のそんな嗜好を知ってどうする?

 モヤモヤした気持ちのまま俺は問い返す。

 

「何が言いたいんです?(手伝ってくんないかな)好きに決まっているでしょう」


「あはは! 恥ずかしげもなくそんな堂々と言われるとは思わなかったよぅ」


 手伝う事もせずに会話のみを続ける副会長に苛立ちすら覚えて、俺は片付けの手を止まりそうになるのを我慢する。


「もしかして陸上部をマイクロビキニにしたかったのってあの『高嶺の荊姫たかねのいばらひめ』がいるから? 全校男子生徒の憧れの的だもんねぇ。 幼馴染なんだっけ?」


「……」


 片付けの途中だったが、イバラの名前を出されて思わず来世も一緒にいると誓った彼女の姿が夢想される。

 イバラは陸上部。(始まります)

 普段は黒のスパッツに赤いストライプが入った女子陸上部のユニフォームを着用。

 スパッツは体にぴったりとフィットし、長い脚を美しく強調していた。

 上半身は腕をスムーズに動かせるように、ややゆったりとしたノースリーブの脇から見えるスポーツブラなのかキャミソールなのか。

 キャミソールといえば女子は安心するかも知らないがこっちからすればブラにしろキャミにしろ劣情を催す事は変わりないイバラの美しいさというのはやはりどことなく汚してはいけない神秘性の中にあるとーー

「おーい。 聞いてるぅ?」


 イバラのユニフォーム姿を夢想して現実に戻れなくなりかけた俺を呼び戻す声。

 いつのまにかゆるふわギャルの顔が目の前にある。

 

「……ここは生徒会室……? 一体俺は何を……?」


「大丈夫ぅ? 茨ちゃんの名前を出したらすっごくニコニコ……ううん。 ニチャアって笑い始めて幸せそうだったよ?」


「……誰? ……! いえ、 失礼しました副会長」(注:正彦は脳内の記憶容量を幼馴染に全振りしてるので人の名前と顔が一致してません。イク男のみ衝撃的だったので覚えてる)


(以下、正彦の脳内生徒役員イメージ。全員名前おぼえてない)


 生徒会長(男)ゴツい系

 副会長(女)ふんわかギャル

 議長(女) メガネクール系

 庶務(女) 元気っ子

 書記(女) なんか鈍臭い


「もしかしてまだ名前覚えてない? 私は入玲千恵いれ ちえだよぅ。 角田正彦くん」


 イバラの美しい陸上部ユニフォーム姿を想像した事で脳細胞をいくつか焼き切ってしまい、現状把握ができなくなってしまっていたようだ。


 いまだ名前も覚えていない事がバレてしまい、向こうは自分のフルネームを覚えているマウントまで取られてしまう。(正彦は性格もひん曲がってるので友達ができません)


「あーあ。 なんか傷ついちゃったなぁ……角田くんにとっては茨ちゃん以外目に入ってないみたい。 好きなの? 茨ちゃんが?」


 傷ついたとは言いつつも挑発的な笑みと上目づかいで尋ねてくる副会長ちえ


「そりゃ好きですよ。 ずっと一緒だったんだから」


「抱きたい? 劣情を催す?」


「なんなんですかさっきから?(催すに決まってんだろ)幼馴染をそんな風に見るなんてそれこそあり得ない幻想禁断のファンタジーですよ」


「ふーん」

 

 くすくすと笑いながら、まるで信じていないとばかりに相槌を打たれる。

 そして自身のスマホ画面を見て突然おどろいたような素ぶりを見せ始める。


「えっ!? 何これ? 茨ちゃんがマイクロビキニ着て陸上部の練習してるって校内のSNSで拡散されてる!?」


 スマホ見ながらそう言った副会長の姿が消える。

 一瞬にして生徒会室から校庭のトラックへと風景が切り替わる。

 そして目の前に現れたのはーー


「イバラ!?……でもその姿は……?」

 

 目の前には陸上部のユニフォームを着ている部活動中のイバラが目の前にいる。

 状況が掴めず、俺は感情のまま疑問を吐き出す。


「俺はさっきまで生徒会室にいたはず。 いや、そんなことよりどうしたんだよイバラ!? そんな陸上部のユニフォームなんか着ちゃって? マイクロビキニはどうしたんだよ!?」


「!?」


「何言ってるかだって!? それはこっちのセリフだよ! 俺はお前がマイクロビキニを着て練習してるって言うから、めちゃくちゃ見たいと思ったらいつのまにかここにいたんだぞ!」


「!!?……!?」


 自分で言ってて合点がいった。

 イバラのマイクロビキニ姿が見たくて俺は光になったんだった。

 人間程度では知覚できない猛スピードでイバラの元にきたせいで俺も混乱してたってわけだ。


 混乱冷めやらぬ中でイバラが無言で俺に問いかける。

 

「……?」


「『見たいの』……だと? ああ! めっちゃ見たいね! 俺はそのために生徒会の予算すら全投入して陸上部のユニフォームをマイクロビキニに固定しようとしたんだ!」


「〜〜!!〜〜!」


 俺の切実で、一切の汚れない思いを受けてイバラの頬が紅潮する。

 しかも心なしか嬉しそうに見える。

 マイクロビキニ着たかったのかな?


 だが、今、理解した。

 目的はわからんがあの女は俺に嘘をついた。


 俺の儚い夢イバラマイクロビキニを打ちくだいただけじゃ飽き足らず、あまつ邪悪な甘言で惑わす存在。


 生徒会室に住まうあいつらこそ悪の権化(?)だって事がな!


「おぉーい! 角田くーん 待ってよ。 冗談だってばー」

 

 ふわふわとした甘ったるい声で男を惑わす存在。

 副会長サキュバスがその大きな胸を揺らしながら小走りでこちらに近づいてくる。


「はぁ……はぁ……角田くんの姿が見えなくなったと思ったらその後すごい衝撃波が発生して生徒会室はめちゃくちゃだよぅ」

 

 どうやら俺が光速で動いた事によって余波スーパーノヴァが発生。

 だが、さすがは俺だ。

 イバラは傷つけまいと、光速で近づいても余波を発生させなかったらしい。


 生徒会室はめちゃめちゃらしいが、知るか悪の権化どもめ。

 よくも俺の気持ちを父さんと同じように裏切ったな。(正彦は昔お父さんっ子)


「めちゃくちゃだとかは知りません。あなたが意味のない嘘をついたせいでしょう?(血涙)」


「あはは……ごめんごめん。 それよりも角田くん。 さすがにその格好はまずいと思うよ」


「俺の格好……? どんな格好だってあなたには関係ないでしょう!? ギャルのあなたは制服を着崩したりするのもオシャレでしょうが俺はぴっちり着こなすのが好きなんだ!(正彦は制服の第一ボタンまで締める派)


「いや……そうじゃなくてね……自分の体見てごらん。 まったくぴっちりしてないから」


「俺がぴっちりしていない!? そんなゆるふわな格好と話し方のあなたに俺の何がわかるっていうんだ! 自分の体ぐらい自分が一番……?」


 春先も終えて暖かさを感じる今日この頃。

 若干の肌寒さを感じて自分の体を見ると俺は何一つ身に纏っていない状態だった。

 神経質で(?)ドラ◯エとかで女の子のキャラだけ防具を外したらグラフィックの変化があるのかずっと試行錯誤し続けてきた俺だが(シリーズによって違う)事態の把握が遅れていたらしい。


 今の俺は制服という防具が一切ない状態だ(ドラ◯エと世界線は違うので普通に御用案件です)

 つまり、素っ裸。

 いや、つい今しがたまで股間に張り付いていた最後の着衣の名残りが音も立てずにひらひらと風に舞う。


「な!? これは一体!?」


「光速で動いた事による弊害だろうねぇ……角田くんは平気でも衣服が持たなかったんじゃない? そのままじゃまずいから、ほら」


 羽織っていたニットを俺の腰に巻き付ける副会長。

 素っ裸の男に跪いて巻きつける様はどうみても事案だが、なんだか悪の権化を従わせてるつもりで気分がいい。

 幼馴染メイドに処理された事で開き直ってることもあり、副会長の好意は素直に受け入れてみる。


「よし(この子なんでこんなに堂々としてるんだろう)さぁ終わったよ。 あ、そういえば茨ちゃんもいたんだねぇ」


 巻き終えてニットの腰みのを装備している状態になると、突然イバラに会話をふる副会長(正彦は既に千恵ちえの名前がうろおぼえ)


「幼馴染が素っ裸の状態でも受け身で何もしてあげないのが、『高嶺の茨姫たかねのいばらひめ』なんだねぇ。 受け身で男受け良さそう」


 くつくつと笑いながら挑発的な表情と言動をならべたてる副会長。

 それを言うならこの悪の権化サキュバスの方も相当だと思うが。

 なんだこいつ?超いやなやつじゃん。


「……」


「気にすんなよイバラ。 お前のユニフォームを借りてたらキャミソールだけになってたじゃん」


 イバラは少しダボっとした陸上部のユニフォームの下はキャミ姿(正彦にとっては下着と同義)

 ユニフォームをもしも俺に着せたら劣情の騒ぎどころじゃないからな。

 これも九死に一生ってやつだ(正彦は幼馴染と事後ったら興奮しすぎて憤死する可能性があります)

 

 ん?

 よく見たら副会長なぜか俺の腕に組みついてんな(正彦は幼馴染以外の顔を覚えてられないので、幼馴染以外に劣情を催しにくい)


「副会長。 腰みの(副会長のニット)はありがたいですが、 少し離れてくれません? なんなんですかさっきから。 嘘ついたり、やたら近づいてきて」


「さっき教えたでしょ? チエって呼んでよぉ」


 そういって自からのたわわきょぬーを押し付ける。


 イバラの女神すらも羨むフェイスの頬がピクピクと引きつる。


「……!…………」


 どうしたんだ?

 イバラ?

 そんなに険しい顔をして。

 お前を愛して、お前が愛する俺がこんなにすぐそばにいるってのに。

 ……!

 ははーん。


 意図が読めたので俺はイバラにウィンクを決める。(ドバチーン!)

 イバラは怪訝な顔をしているが、そうだな俺も知らんぷりせねばなるまい。


 なるほどね。

 読めたぞイバラ。

 この女に俺が寝取られるんじゃないかって思って興奮してるんだな?(正彦は前回のイバラが人生で一番興奮したので、人類8割以上がN○R願望があると思ってます)

 しょうがない、愛する幼馴染のためだ。

 そのシチュエーション(?)

 楽しみたいなら、付き合ってやるよ。


 イバラの目的が掴めたので、特に引きはがす事もせずにいると副会長はまたもイバラを挑発するような事を言い始める。


「ふーん。 大切な幼馴染の角田くんにここまでされても自分では何もしないのね……ダサっ……そのお綺麗な顔で男が守ってくれるんだもんねぇ」


「……」


「怒った顔もお綺麗だねぇ……さっ。 行こっ角田くん」


 うーん。

 ひっぱたきたい。

 俺の愛するイバラに対してこんな事言われて怒らないとでも思ってんのかなぁ。

 だけど、シチュエーション上そうもいかんかぁ。


 イバラも興奮しすぎて顔真っ赤だし。

 わかるぞイバラ(わかってない)

 その悔しさが逆に興奮するんだよなぁ(ちなみにイバラは今ホントに黙ってるので、正彦はイバラが何を思ってるかわかってません)


「行くって? どこへ?」


「(ところで胸まで押しつけてんのに何でこの子スンってしてるの?)そんな格好のままじゃ帰れないでしょ。 私のジャージ貸したげるよぉ。 生徒会室にとりにいこぉ?」


 グイグイと俺の腕を掴んで歩く副会長。

 シチュエーション上、特に抵抗しないで歩きはじめる俺。

 

 イバラが何か言いかけていた気がして振り返って確認する。


『私の事だけ見てよ……正彦!』

 

 そう無言で叫ぶイバラ。

 何かとんでもない事をしてしまっている気がして、俺は叫ぶ。

 几帳面で神経質で考えすぎな俺の素直な気持ちだ。


「イバラ! だったら……だったらさ!」


 俺の素直な気持ちだ。

 受け止めてくれ。


「ジャージ貸してくれよ!」


 そう叫んだ俺を見てイバラが悔しそうに首を振る。

 「今日は持ってきていない」と。

 それが俺とイバラとの最後の会話だった。(数時間後電話します)

 副会長からジャージを借りて校庭のトラックに戻った時にはイバラはもういなかった。


 ーー帰宅後ーー

 

 いつも通りの炊事、洗濯、掃除を終えて勉強の予習を自室でしている時だった。


「まーさーひこーーー!」


 硝子しょうこがドタドタと階段を駆け上がって俺の部屋に突入してくる。


「いっちゃんに何したの! なんか悪い予感がしたから電話してみたらすごく思いつめててなんか変だったよ! このままじゃ絶対また変な事になるって!」


「部屋に入ってくるなり、 ご挨拶だな硝子……いくら幼馴染のお前にでも……言いたくない事だってある」


 ましてや硝子はこの前のN○R性癖をドン引きしていた実績がある。

 この怒りっぷりをみるとイバラは自分の性癖を硝子に話せなかったんだろう。

 多数派とはいえ表立って性癖を暴露する奴のほうが珍しいもんな。(繰り返しますが正彦は人類の8割以上N○R性癖があると思ってます)

 流石にイバラが秘密にしたい内容なんだとしたら俺が話すわけにはいかないだろう。

 

「ダメ! マサヒコまたなんか絶対に勘違いしてるから話して!」


「俺がイバラの事で? ありえないだろ」


「いっつもそうなの! マサヒコいい加減自分が超バカだって気づきなよ! マサヒコがそんなだからいっちゃんもおかしくなっちゃうんだって!」


 俺とイバラが問題になると硝子はすぐそう言ってくる。

 硝子は聞きたがるけど、俺だってイバラの名誉のためだ。

 絶対に話さないぞ。


 俺の決意は固い。

 幼馴染の前で珍しく仏頂面で押し黙っていると業を煮やした硝子が叫んでくる。


「あーーーもう! じゃあせめていっちゃんに電話して! 今イク男くんもなぐさめてくれてるみたいだけど心配だからさ!」


「なん……だと? 今なんて言った……?」


「もう! その話し方はいいってば! いい!? 絶対にいっちゃんに電話してね! あとで見にくるから!」


 そういってけたたましく俺の部屋から出ていく硝子。

 玄関を開ける音も聞こえたので一旦自宅へ帰ったようだ。


 だが、俺は放心しちまっていて何も手につかない。

 時刻は19時を過ぎちまってる。

 こんな夜分にイバラとイク男が?


 俺の頭の中で警鐘が鳴り止まない。

 さっきまでは気にならなかった時計の秒針が動く音がやけに響いて聞こえる。


 永遠にも思える静寂の中、俺のスマホの着信音が鳴り響く(買い直しました)

 恐る恐るスマホの画面を確認する。


 イバラからの着信だ。


 その着信に恐怖を感じても、俺はそこにひと筋の劣情を感じてしまい抗えず電話に出てしまう。


「も、もしもしイバラ? どうした?」


「いよーう正彦くん。 こんばんわー」


 イバラからの着信だったのに電話の先にいたのはイク男だった。


「イ、イカ男!? じゃないイク男! 貴様なぜイバラの電話に!? イバラをどうした!?」


「おいおい相変わらずのご挨拶な上に情報量がすごいねぇ。 一つずつ答えてやる。 まず俺はイカ男じゃない」


「そ、そんな事はわかっている! 俺の吃音の揚げ足を取るな! イバラをどうした!」


 俺は興奮すると吃音になる癖がある。

 それを追求されるのは結構恥ずかしい。

 そんな俺の葛藤には触れずイク男は答える。


「くくっ。 イバラちゃんならここにいるぜ。 俺のすぐ側にな」


「ならばさっさとイバラにかわれ! 貴様と話す事などない!」


「正彦くん。 物事には順序ってもんがあるんだ。 ほらよ」


「なにい!」


 ヒュポ!


 鳴り響くメッセージ受信の通知音。

 

「これは……動画か?」


「まずはその動画内容を確認してからだ。 また電話するぜ」


 そこで通話は途切れる。


 相変わらず俺の脳には警鐘が鳴りっぱなしだ。

 俺は急ぎリビングへ向かう。

 こんなこともあろうかと(?)スマホのミラーリング用の機器は揃えてある。

 大画面テレビとスマホのミラーリング設定を済ます。


 そしてリビングの大画面テレビいっぱいに映しだされたのはーー


「……イバラ……!」


 画面越しに映っているのはガウンの様なものを羽織ったイバラのみだが、スマホからはイク男の音声しか聞こえない(イバラ無口だし)


「マサヒコくーん! こんばんはー! 今日はぁイバラちゃんの家のプールまでお邪魔してまーす!」


(……)


 一旦冷静に聞いてみる。


(いくらなんでも仲良しすぎない!? こんな時間にイク男遊びに来てるの!?)


 が、やっぱり愛する幼馴染に埒外の扱いを受けて胸中はカオスで入り乱れる。


「ごめんねー! 正彦くん! イバラちゃん今日すごい落ち込んでたみたいだから心配しちゃってさー!」


 動画内のイク男に気を使われて少し冷静になる。

 イク男は意外と気配りもできるんだよなぁ。


 イバラの家はめっちゃ金持ちだから家にプールもついてる。

 プールサイド上等なガウンを羽織っている美しき幼馴染。

 色々驚きはあるがこれは動画。

 どんなに叫んでも喚いても、これは

 

 俺は何とか気持ちを落ち着けてソファにかけながら動画を見る。


「イバラちゃん今日はなんとぉ! カメラの前で変顔を披露してくれまぁす!」


 そうか。

 お綺麗なだけって言われたのがショックだったんだな。

 イバラすまない。

 あまりに美しすぎて、あんなたわわサキュバスの言う事なんて気にしてないかと思っていたよ。

 

 様々な後悔はある。

 それでも俺は動画を見続ける事しかできない。


「しかも変顔中の変顔! ア◯顔ダブルピースだー!」


 あー。

 なんか海外のモデルさんとかの間で結構流行ってるらしいもんな。

 でもア◯顔ダブルピースされるだけじゃ劣情は催さないんだよなぁ。

 なんていうか、ああいうのってめちゃくちゃ恥ずかしがってやってくんないと。


 ん?

 でもイバラってそういうの絶対にめっちゃ照れながらやるよな。

 だとしたらそれって全然アリよりのアリ!

 女神ですらイバラの美しさに平伏してるからまともにその美しさを拝む事はできない。

 なのにその美しい顔が自らのア◯顔で歪まされるなんて……。

 わー……。

 やっぱりなんかその……。

 なんていうかその……。

 わー。


「やっぱりダメーーーーーー!!!」


 ア◯顔について色々と批判したい事はある

 それでも俺は動画を見続ける事しかできない。


「しかも今回はとっておきの! マイクロビキニ姿でだーー!」


「ええええ!! それ大丈夫!!? イク男にもイバラのマイクロビキニ姿見られちゃうじゃん!!(陸上部のユニフォームになってた場合、もっと多くの方々に見られます)」


 そんな俺の叫びなど虚しく響く。

 だってこれは動画。

 既に撮影は完了していて、既に終わってしまっている出来事なんだ。

 俺にはなにもできない、動画を見続ける事しか。


「ちなみに俺は目隠ししてるから何も見えませーん! 正彦くんにしか見せたくないってさー! イバラちゃん! そろそろガウンを脱いでマイクロビキニ姿になってみよう! さぁどうぞー!」


 俺の心配をよそにイク男のコンプライアンスはしっかりしている。


 おずおずとガウンを脱ぎ去りその美しい肢体を惜しげもなくさらすイバラ。

 頬はピンク色に染まり、それほぼなにも隠せてないやんって布は彼女のスレンダーな体を際立たせている。

 恥ずかしさで汗をかいているのか肌はツルツルと滑らかに彼女の全身を輝かせ、腰回りの曲線美は思わずっていうか当たり前に見惚れてしまうっていうか催す。


 この世で最も純潔が似合うイバラが、劣情を抱く前提で作られたであろう布地を身に纏っている。

 そしてイバラが恥ずかしそうに視線をこちらに向けると。


『私の事だけをみてよ!……正彦……』


 俺は、俺は涙が止まらなかった。

 てっきりエロ目的以外の意味でさっきは言われたのかと思いかけたが違ったらしい。


(だ、駄目だ! これ以上見続けたら明日からイバラを見ただけで劣情を催してしまう!(元々)しかも……しかもこの後に劣情の大御所(?)、ア◯顔が残ってるなんて……」


 動画は続いていく。

 イバラはアヘ顔ダブルピースの準備(?)を進めるべく、大股を開いてしゃがみかけている

 M字開脚ってやつだな。

 だけど動画を撮影しているのは目隠ししているイク男だ。

 いつのまにか顔がアップで肝心の部分が見えない。


(ああ! もう! イク男らしくもない! だが……! 顔面さえ見れれば!)


 既に俺の劣情はマックス。

 これ以上見たら俺の人生はここで終わるかもしれない(憤死)

 俺の目が充血していく。

 これ以上見てはいけないと頭の中で警鐘(以下略)


 次の瞬間、俺のスマホがイバラからの着信を告げ、俺は電話に出る。

 電話にでるとイク男だった。


「あー正彦くん。 動画止めてもらっていい?」


 促されるまま、俺は動画を止める。


「イバラちゃん。 やっぱりア◯顔みられるの嫌だって。 もう見ちゃった?」


「……まだだけど」


「そしたらイバラちゃん家まで来てもらってもいいかな? イバラちゃんが嫌だって言うなら動画とか削除したいし。」


 動画の中のイバラは既にダブルピースは決めているが今んとこア◯顔になる前。

 その美しい容姿が自らの意思によって歪められよう(ア◯顔)とする一歩手前って感じだ。(逆にエロい。いいとこで止めたかも)

 その表情から読み取れるイバラからは間違いなくーー


『私の事だけをみてよ!……正彦……』


 動画の中のイバラは間違いなく見てと言っている。

 だが、イバラの名を語るイク男は見られたくないという。

 

 どっちの言を信じるかなんて明白だ。

 この幼馴染の名を語る間男め!(普通にいいやつ)


 俺は目を見開き、意思を固めてイク男に伝える。


「……うん……わかった。 すぐ行く」


 見れなかった。


 その後心配してたから硝子も連れてイバラの家に行ったら普通のパジャマだった。

 パジャマの下がもしやと思って悶々としてたら、イク男が今日もジャンボフランクを持ってきてくれたので焼いて食べた。

 イク男が笑顔だとなんか俺も嬉しかった。

 初めて男友達(?)と食べるご飯はおいしかった。

 イバラだけじゃ不便だとイク男とも連絡先も交換しました。


 ーー劣情バトル戦績ーー


vs早生硝子  1勝0敗

vs高嶺茨   0勝2敗

 敗因 劣情に負けて実は動画をクラウドに保管したため

vs戸成燐火  0勝1敗

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