第4話早生硝子との休日 〜幼馴染よスカートをはけ〜

 ーー硝子目線ーー


「まだ買うのか硝子? そろそろ映画始まっちゃわないか?」


 映画の時間までは後1時間以上もあるのに正彦は既にソワソワし始めてる。


「んー? 荷物持ちくんは今日は私の言う事聞いてくれるんじゃなかったの?」


「そうだけど、 そうだけど予定より早めに行動してないとなんかドキドキしちゃわないか? 映画行く前に買い物袋もコインロッカーにしまわなきゃいけないし」


 正彦と今日は大型ショッピングモール内での買い物中。

 施設内に映画館もあるんだから、一体何をそんなに慌てているかはわからない。

 

 でもマサヒコと一緒はホントに気が楽。

 休日の過ごし方の中で私にとって一番気を使わないし、正直楽しい瞬間だよ。

 

「それって幼馴染の私にドキドキしちゃうって事?」


「(ドッキーーン!) あぶだ!(違うよ)ビダ!(映画に間に合わないかが心配になっちゃうだけだってば)」


 なんてからかってみたりしても反応がいちいちおもしろいし。

 こんなに慌てるくせに私の事全然タイプじゃないのはムカつくけど。(正彦はギャルが好き:原点回帰)

 

 りんちゃんと喧嘩しちゃった時にマサヒコが全身から血液を噴射。

 母の日プレゼントを友達と選び終わって帰宅したら現場(自宅)は壮絶を極めてたよ。

 玄関からリビングにかけて壁やらに飛び立ったおびただしい量の血痕。

 ちょうどホラー映画(スプラッタ物)を直近に見ていたせいもあって、なにかとんでもないことに超常現象に巻き込まれたのではないかと本気で恐怖しちゃったよ。

 びっくりして買ってきたギフトを血溜まり(こわっ)に落としてしまったら、血まみれになっちゃうし。

 なので、買い直すために今日は正彦を付き合わせている。


「あばば(でも買い直すだけならすぐに終わるんじゃないか?)」


「前買ったやつはなんか友達と雰囲気にのまれて買っちゃって実はあんまり気に入ってなかったんだよね。 今日はマサヒコが相手だから気兼ねしなくていいし」


「うほほ(そんなもんかね)うほ(だから自分の服も買ってるのか)」


「そうそう。 まーくんには荷物持ちとして頑張ってもらうよ。 玄関に入った時ホントに怖かったんだから!」


「うほほ(とほほ)」


 なんて、困らせてみるけど本音は私もマサヒコと遊びたかったから、連れ出せる理由ができたなんて思ってるのは内緒。


「さ! まだまだ買うよ マサヒコ次はあっちのお店だよ!」


 既に紙袋を両手に持って歩きづらそうな正彦の背中を押して応援してみる。

 

 マサヒコは映画の時間が心配なのか少し困った顔したけど、いつも通り私のしたい事に付き合ってくれた。


 ーー映画終了後喫茶店にてーー


「マサヒコ、コーヒー飲めるようになったんだ? おっとなー」

 

 私はオレンジジュース。

 友達の前やマサヒコ以外の男の子と来たら多分頼まない。

 なんか少しカッコつけちゃってロイヤルミルクティーとか頼んじゃうかも。


「ああ、 勉強の眠気ざましに飲んでたらなんか最近飲めるようになってきたな。 昔は何がいいのかわかんなかったんだけど」


「カッコつけてブラックで飲んでるのかと思ったよ」


「今さらショーちゃんの前ではカッコつけないよ。 知ってるだろ? 俺は無理するぐらいなら人付き合いしない」


「とかなんだとか言って、ぼっちなのが本当は寂しいマサヒコくんなのであったー」


「(ドッキーーン!)いいじゃんか! ショーちゃんがいるから俺はいいんだよ!」

 

「ん……?……うん……」


 そう言われて言葉を返すことができなくなった。

 マサヒコも最近気づいたのかこの手の話題をあえて振ってきてる気がする。

 はぐらかして適当に答える事はできる。

 でも、そんな事していいんだろうか。

 

 マサヒコは多分、本当に私とずっと一緒にいたいんだろうな。

 生まれた頃からほぼ一緒にいて。

 幼稚園の遠足も、お父さん達とキャンプ行くのも、小中の修学旅行。

 私の新体操の大会の時は必ず応援に来てくれて。

 幼馴染同士でプールや海にいったり、子供だけで旅行を初めてしたのも。


 全部私のそばにはマサヒコがいた。

 マサヒコは私がそばにいるのが当たり前で。

 私はマサヒコがそばにいるのが当たり前で。

 

「……なぁ。 最近……さ」


「ん?」


「なんで俺の前でスカートはくんだ?」


「そういうの彼女ができた時には言っちゃだめだよ。 ほめてあげなきゃ」


 そう、季節的に暖かくなってきたのでトップスは薄いニット、そして膝上より数センチ丈が短いスカートをはいてる。


 いつもはもっとラフな格好でスカートなんかはかないもんね。


「そういう気分なだけ。 似合ってるでしょ?」


「まぁ、ね(劣情を催す程度にはね)」


 冷静を装ってるけどわかってるよ。

 残像が黒目に見えるだけで、視線が右左に高速で動いてるくらい動揺してることくらい。

 スカートの中みたいんでしょ?


 精一杯虚勢を張る幼馴染のプライドには付き合って気づかないふりしてあげる。


 だからかわりに。


「似合ってるって言え」


「え?」


「スカート似合ってるって言えって言ってるのー!」


「似合ってる前提!? いや似合ってるけどさ! 第一、席を挟んでるからよく見えねぇよ!(嘘だよーん! なんとかスカートの中が見えないかさっきからわざとおしぼり落としたりしてるよーーん!)」


 言わせてやった。

 マサヒコと私の関係にはずっと性別がなかったんだもんね。

 それでよかったんだけどね。


「もっと言え」


「? もっと?」

 

 一度言わせてみたけど、なんだか逆に足りない。

 催促を重ねてみる。


「そういうのって自分から催促するもんなの?」


「いいから! もっと言えー!」

 

 駄々っ子のように一番気がおけない存在に甘えてみる。


「……はぁ……ショーちゃんも年頃なのかな」

 

 同い年だろ。

 

 それでもマサヒコは、私の事を大好きで絶対に否定しない。


「スカート。 似合ってるよ」


「私が一番?」


「それはわかんないな。イバラの方が似合いそうだし(巨乳ニットは序列1位だけど)」


 訂正。

 例外もあるらしい。

 

 それでも言わせてやった。


「ショーちゃん。 うれしそうだね」


「そ? 普通は別の女の子と比べちゃダメだよ? あ、そーだマサヒコ! ゲーセンも行こうよ! クレーンゲームしたい!」


硝子しょうこ今日お金使いすぎじゃないか? 大丈夫なのか(今後俺と遊ぶ分を使い果たされたら困る)」


「幼馴染超えて親みたいになってるよマサヒコ。 心配性だなー バイトもしてるから大丈夫だって! さ、行くよ!」


「えー、せめてコーヒー飲んでもう少しゆっくりしたいよ」

 

「いいから! いくよ!」


 マサヒコの腕を無理くり引っ張って会計を済ませる。

 やれやれと言った様子だけど本気で嫌がってるわけじゃないみたい。


 喫茶店とかは今後危ないな。

 なんか場が改まっちゃって何かを話さなきゃいけない空気になるもんね。


 その後もマサヒコとの休日は楽しかった。

 少し不安そうにしているマサヒコを見ていると、罪悪感もあったけど。

 

 安心してマサヒコ。

 今日は気分じゃなかったけど、これからも誘惑は続けるから!

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