第3話第三の幼馴染 戸成燐火の章 〜メスガキ幼馴染は常識改変にてわからせられる〜

「ざーこ! ざーこ! ザコ彦! キャハハハ!」


 戸成燐火となり りんか

 俺の最後の幼馴染だ。(硝子しょうことは反対方向の隣の家に住んでる)

 そろそろ構ってやらないと機嫌がめちゃくちゃ悪くなるからとバスケットリングのある地元の公園で俺たちは1on1を実施していた。

 

 バスケット部にエースとして在籍しているリンカに俺はボロ負けしている状況だ。

 体育ぐらいでしか運動しない俺は疲れてバスケットコートに仰向けにぶっ倒れてしまっている。


「くそー! リンカは強いなー」


「ぷーダッサ! 男のくせに女の私に手も足もでないなんて、ザコ彦って……ぷぷ……あ……ごめん。 お名前伺ってもいい? ダサ彦とザコ彦どっちかわかんなくなっちゃったー」


 「やっぱり私は最高に可愛いくて最強だわ」と自己陶酔に浸る事の多いリンカは生意気そうに俺をけなす。

 そんな風に思えるくらいに確かにリンカは可愛い。


 身長は俺よりも低いのにダンクを決めてくるその超絶身体能力からなせる引き締まった健康的な脚線美(そろそろ正彦の幼馴染の褒めタイムが始まります)


 キツ目のつり目に八重歯が生意気さを象徴し、金髪をツインテールにまとめあげる事で、どこに出しても恥ずかしくないメスガキの誕生だ(?)

 ダボっとした大きめのロングTシャツの隙間から見えるキャミソールにショーパン。(Tシャツの裾が長くてショーパンが隠れてると、履いてないんじゃないかとびっくりする時あるだろ?アレだ)

 Tシャツを着ていてもわかる、しなやかなウエストとくびれたヒップが魅力的で決して大きくない胸元から見える谷間には、少し汗ばんだ肌が美しくエロく輝いているように見えた。


「そんなだから友達一人もいないんじゃない? ぷぷっ! その年で友達いないとか……あっごめーん! もしかして気にしてた? うそうそ! ザコ彦くんは自分の意思で友達つくってないんだよねー! すごいすごい! すごい才能だよ!? アタシには絶対むりー!」


 いつも通り、というより幼稚園の頃に隣に越してきて、出会って5秒でけなされ続けてきた俺。

 ましてやイバラによって新たな境地に達した俺だ。

 日常化している、こんなけなし程度ではーー


「……!……………!」


 普通にヘコむ。


 ヘコみすぎて何も言い返せない。

 小骨どころか神剣エクスカリバーが喉に、魔剣レーヴァンテインが心臓に突き刺さっているかの如く俺の心を圧迫する。


「やーだぁ! ヘコんじゃったのぉ! キャハハ、ダサっ! バスケも弱くてメンタルも弱いとか……大丈夫だよ! ザコ彦くんにもきっといい所一つぐらいあるよ! 悪い所は一億から二億個くらいあるけどね!」


 悪いところ多すぎだろ。(端数切る感覚で一億個も悪いところ増えてんじゃん)

 ……帰ろうかな。

 なんか悲しくなってきちゃった。

 俺はこんなにもリンカが大好きなのに、リンカには全然伝わらないみたいだし。


 遊びに行く前はリンカに会える(家から数秒程度で会える)からニッコニコで家を出たのに今の俺は捨てられた子犬よりも悲惨な顔をしているだろう。


「……ちょっと疲れちゃった……帰ろうかなリンちゃん」


 一匹狼ローン・ウルフを気取るつもりもなく普通に友達ができない俺は丸まった牙で最後の反撃にでる。

 というより大好きな幼馴染にずっと馬鹿にされ続けるのが普通に辛いから帰宅を匂わせただけだ。(本当は生涯一緒にいたい)


「え……?」


 小生意気に天使で高慢で傲慢で、それでいてたまらない魅力のあったリンカの笑みがサーッと冷えていく。


「なん……で?……リンカのせい?」


「いや……リンちゃんのせいなわけないだろ。 俺に友達ができないのは本当の事だしな……(幼馴染は魂の一部としてカウント。友達としてはノーカン) そろそろ夕飯の支度しようと思って……(本当はカレーをリンちゃんにも作ろうと思ってたけど疲れちゃった)」


 さっきまでは楽しそうにブンブン尻尾を振っている幻覚すら見えていたのに今は尻尾がしなだれている幻覚がみえる(注:現実です)

 ヨロリと体を起こして帰路につこうとする俺にリンカが詰め寄る。


「うそ! マサはリンカに怒ってるから帰ろうとしてるんだ! なんで!? リンカが悪い子だから!?……ねぇ待ってよマサ!」


「リンカに悪いところなんて一つもないよ……それどころか君にはいい所が一億から二億、場合によっては星の数よりも多いじゃないか(計測不能)……人気者のリンちゃんの休日にぼっちの俺なんかと遊んでくれてありがとう。 とりあえず……またね」

 

「そんな事言って本当はイバラと遊ぶんでしょ! やだやだ! 久しぶりにマサと遊べるのに!……待って!まってったら!」


 半べそならぬ全べそをかいていてもリンカの可愛さは1mmも損なわれる事はない。


「お願いだから……嫌いにならなぃでぇ……うぇぇーん」


 ロングTシャツを萌え袖にして、袖で涙を拭きながらリンカが懇願してくる。

 

(俺がリンカを嫌いになる? 一体何の心配をしているんだ? 忘れたのかリンカ? 俺とお前は魂の一部を共有おさななじみしていてお前がいないと俺は生きていけない……生きていたくないんだ(正彦の愛は重すぎてストーカーの才能があります) リンちゃん……)


「リンちゃんごめん……ホントはリンちゃんとカレー食べたい……仲直りしよ?(小学生感)」


「ぃーぃーよ!(怒り声) うぇーん! マサー!」


 リンカが俺に全力疾走とばかりに、ちょっパヤなスピードで抱きついてくる。

 俺のTシャツに顔をうずめて泣き続けるリンカの小さな頭を撫でる。

 幼馴染同士が喧嘩して仲直りするこの世で最も美しい光景さ。


 


 唾棄すべき悪魔の如き所業だ。(結構普通では?)

 そう、俺は幼馴染のリンカに向けていけない邪悪な(?)感情を抱いている。

 その証拠にリンカのちっぱいばきゅーん!が当たる俺のお腹部分に全神経を移行していてその全てを堪能している。

 

(なで心地のよいツインテールから漂うシャンプーの香り、ちっぱいひんぬーは正義全てが愛おしい……今この時が永久に止まってしまえばいいのに)


 とりあえず美しいセリフで誤魔化してみたけど俺は劣情を催しているだけだった。


 ーー帰宅後ーー


「リンカーー! カレーできたぞー! 手洗ってリビングまでおいでー!」


 仲直りした後、俺の家でご飯を食べる事にしたリンカ。

 俺には炊事だけでなく、掃除(ちりも残さん!)、洗濯というルーティンがあるのでリンカには2階の俺の部屋で(リビングは1階)漫画でも読んでもらっていた。


 降りてきたリンカは促されるまま食卓につく。

 俺は自信作のカレーを二人分よそってテーブルにつく。


「いただきまーす(幼稚園生感) さ、リンカも食べて食べて」


 食事を促してもリンカはうつむいて一向に食べ始めない。

 

「? どうした? 食べないのか? お前に合わせて甘口にしておいたぞ(リンカはトマトが嫌いだから克服させようとみじん切りにして混ぜたのがバレたか?)」


 トマトを入れるとカレーはうまい。

 これは真理だ。

 リンカにも知って欲しいんだけどな。


 などと益体ない事を考えているとイバラの肩が震え始める。


「……ぷっ! アハハ! もうダメーー耐えらんなーい!」


 メスガキ特有の「キャハハ」という笑い方も忘れて突然爆笑するリンカ。

 設定を忘れてしまったのかと思って俺は心配になる。(正彦はメスガキもタイプ)


「ザコ彦! あんたクローゼットの中、綺麗にまとめすぎー! 通販サイトの本屋より見やすく配置されてたんだけどー! 思わず購買意欲あがっちゃいそうだったわ!」


 クローゼット、そう聞いて俺は血の気が引く。

 

「アハハ! なんで……なんで自分しか見ない用なのに他人が見てもわかるようにジャンル別けされてんの!? アハハ……アハ……アーーハッハッハ! ゲホっゲホっ!うー」


 設定がぶっ壊れてしまうほど爆笑を続けるリンカ。

 リンカが言っているのは、俺の秘密の花園コーナーの事だろう。

 神経質で几帳面で臆病な俺に18禁ものは買えない。(正彦は高一)

 ちょっとエッチな描写がある文献を幼少の頃から集めて丁寧に保管してきていたのだ。

 

「あわわ……み、みたのか?」


「別に見たくて見たわけじゃないわよ? 漫画探そうと思ってクローゼット開けたらすっごい見やすく配置されてただけだから。」


 几帳面で神経質で臆病で、そして合理的な俺は瞬間的なリビドーに対応できるように、なるべく見やすくわかりやすく配置してしまっていたのがアダになっちまったようだ。

 硝子しょうこあたりならそっとしておいてくれそうだが相手はリンカ。

 俺をけなすことには余念がない。


「ギャルものに、N◯Rもの(注:全て一般誌です)メスガキもの(注:リンカは自分をメスガキと認識してません)どんだけ拗らせてんのよー? ぷぷっ 極めつけは……!」


「……やめろ……」


 言わないでくれ。

 俺だって、俺だって悩んでるんだ。

 そんな感情、持ちたくないんだよ。

 

「極めつけは幼馴染ものーー! きゃー!もしかしてアタシみて興奮してるのお!? きもきもーっ! やだーザコ彦に襲われちゃうーー!」


 教科書のようなメスガキっぷりで俺を罵倒するリンカ。

 大したもんだよ全く。

 うっかり興奮しちまいそうだ。


 俺のもっとも触れられたくない部分じゃなかったらな。


「ぷぷ! ザコ彦はこれでアタシの奴隷けってーい! 硝子しょうこにバラされたくなかったらーー」


「……ぃだ……!」


「え?」


「リンちゃんなんて……だいっきらいだーーーー!(小学生感)」


「え……え? あ……ご、ごめ」


 俺が怒った事であたふたと慌て始めるけど、俺はもう既にリビングを飛び出して、家を飛び出して、地球を飛び出す所だったが、一旦やめて硝子しょうこの家にむかった。


 慌てるリンカの姿がまぶたに焼きついてしまい、怒ってしまった事を0.0001秒後に後悔。

 大嫌いなどと大嘘つきも甚だしいがどうしても許せない。

 リンちゃんを傷つけたであろう自分も許せない。


「おじゃましまーす!」


 履いてきた靴を玄関で揃えて硝子しょうこの家のリビングに入る。

 硝子しょうこは友達と遊ぶと言っていたからまだ帰ってないみたいだ。


「おお正彦くんどう……どうした!? 全身から血液が飛び出てるじゃないか!? か、母さん! きゅうきゅう!救急車だ!」


「おじさん……救急車は大丈夫です……これは俺の原罪……リンカに『だいっきらい』なんて嘘をついた事で……俺の全身が俺自身を納得できなくて……許せなくて拒否反応をだしているだけなんです……」


 休日だったのかリビングでくつろいでいた中、俺を出迎えてくれたのは至高の御方。(硝子しょうこを生み出して育てたから。ルックスもイケメンだ)

 俺のリンカラブはおじさんにももちろん認識されている。

 おじさんも「そうだったのか」と納得してくれたようだ。


「そこまで拒否反応を起こすなら、リンカちゃんに謝るわけにはいかないのかい?」


「……できません……今は……どうしても……許せません……(血液さらにビュー)」


「わー! ごめんごめん! うんうん……そういう時もあるよね……話したら気が楽になるかもよ。 一体どうして喧嘩しちゃったんだい?」


「それも……言えません……(あなたの娘とリンカに劣情を催しているんです)」


 さすがに俺だって分別はある。

 幼馴染に劣情を催していることを悩んでいるなんて、催している先の親にそれを相談なんてサイコパスすぎる。


 でも俺はこんな時に友達がいないから(イク男は友達なんだろうか?)甘えられる相手がいない。

 とりあえず悩み相談はせずに甘える事にした。

 おじさんは少しだけ寂しそうに「そうか」と言ってタオルとシャンプー、ボディソープを用意してくれた。


「これは……お風呂セット?」


「うん。 まずはその血液を洗い流しに銭湯に行こう。 裸の付き合いだ。 その時、話したくなったら話してくれればいい」


「おじさん……(銭湯は行くけど、マジで話したくないんだけど)」


 ありがた迷惑だが本人はウッキウキで俺と銭湯に行く気満々だ。

 おじさんは一人娘の硝子しょうこをものすごく可愛がっているが実は息子も欲しかったらしい。

 家をあける事の多い俺の母親の代わりに結構世話をやいてくれている。


「母さーん! 正彦くんとちょっと銭湯いってくるー! ご飯先に食べててー!」


「あらあら正彦くんの事ホントに大好きねー。 はーい。 いってらっしゃーい!」


 リビングから台所の硝子しょうこママに声をかける。

 仲睦まじい光景は見慣れたと思っていたが、気落ちしているからか少しだけ鼻の奥にツンとくるものがあった。


 玄関を出ると家の前にリンカが泣きながら立っていた。

 

「あ、あの……ま、マサ、ごめん……アタシ……」


「…………」


 いつも通り「ぃーぃーよ」と言って仲直りしたい。

 それにリンカが謝る必要なんてない。

 だって幼馴染に劣情を抱いてるのは本当なんだから。


「あ、アタシ……ま、マサ……を……怒らせる事ばっかりして……ぅぇぇ……泣きたいのはマサの方なのに……こうやって泣いて……マサの気を引こうとして……本当に最低で……最悪で……アタシもアタシのことだいっきらいだけど……」


 萌え袖で涙を拭いてはいるが、どんどん溢れてしまって全く間に合っていない。

 

「お願いだから……マサだけはリンカの事きらいにならないでぇ……」


 消え入りそうな声だった。

 俺がリンカを嫌いになる事なんてあり得ない。

 余計な杞憂だと言ってやりたい。

 一生側にいると誓った幼馴染に対して劣情を催してしまう自分勝手な人間でもある俺には今感情の整理ができない。


 俺が押し黙っているとおじさんが(いたのか)リンカに声をかける。


「リンカちゃん。 正彦くんも今は興奮していて感情の整理ができないんだよ。 少しだけ時間をおいてあげよう? リンカちゃんの家に後でショウちゃんを向かわせるから」


 おじさんはそういって俺ん家を挟んで隣にあるリンカの家に送っていく。

 俺の方は俺の方でリンカの泣き顔に興奮していたのがバレたかと思って身体を一瞬硬直させたが、おじさんは別の意味で言ったことに気づいて安堵する。


 感情の整理ができていないのは本当だ。

 こんな邪悪な感情を抱いている俺がリンカのそばにいていいのかわからなくなってしまった。


 だから……何も言えなくなってしまった。


 リンカを家に送りとどけた後におじさんと銭湯へ行った。

 おじさんは何も聞かなかったけど、顔面に「話して話して」と書いてあったので辛かった。


 ーー翌日ーー


 昨日もよく眠れなかったが今日は学校があるので俺はきっかり午前6時29分に目覚める。

 

『起こせ起こせーー♪ マサヒコが起こしてくれないと遅刻しちゃうぞー! 早く起こしてー! 起こすと喜ぶぞー! 嬉しいぞー!』

 

 何度聞いてもけたたましく、ひとすじの劣情を催してしまう目覚まし時計のスイッチを押して止める。(朝から硝子しょうこの声が聞けるので)

 

 そこで気づく。

 ベッドで俺の隣に誰かいる事に。

 毛布に包まれていて誰であるかは目視では判別できないが、いい加減このパターンは誰もが読める展開だろう。


(まったく硝子しょうこの奴、懲りずに劣情バトルを申し込もうってわけか。 いいぜ。 何度でも、死が二人を分つまでだって受けてやる(やったーまた硝子の下着姿が見れる)だがな……!)

 

(勝つのはこの俺、 角田正彦だ!(イイヤッホー!))


 勢いよく毛布を剥ぎ取るとそこにはベッドの上で平伏、いや敗北のベストオブベスト、土下座しているリンカがいた。

 格好はメイドさんという奇妙な状態であったが。


「どげ……ざ?……なんで……メイ、 ド?」


 状況が読み取れず素っ頓狂な声あげる俺に対してリンカは構わないとばかりに挨拶をしてくる。


「おはようございます。 正彦様」


「は?……正彦様ってリンカ何言ってんの?」


 面をあげたリンカは焦点定まらないジト目をこちらに向けてくる。


「幼馴染の殿方をお呼びする際には名前に様付けするのが幼馴染メイドの常識でございます」


「何言ってんだリンカ? 幼馴染でメイドなんてエロ漫画じゃないんだから……(まぁ、アリだな。その設定) やっぱり俺が謝らなかったの怒ってるのか?」


 リンカと喧嘩は結構するけど、どっちかが基本すぐ謝って仲直りするのがセオリーだ。

 それができなかったから怒っているんだろう。

 執念深い俺は本気で怒ると長い。

 納得できていない事はとことんまで突き詰めちゃう方だしな。

 様子の変なリンカに疑問は感じつつも部屋を出ようとする。


 俺が立ち上がると同時にリンカも立ち上がり、ぴったりと俺の後ろにくっついてくる。


「あの……リンカさん……? ちょっと小用をたしたいんで離れてくれない?」


「いいえ離れません。 幼馴染の殿方が小用をたされる際には殿方が股間に携える懐刀の鞘を外して差し上げるのが幼馴染メイドの常識です」


「!? なななに言ってんだよリンカ! 人を火星人テラフォーマーみたいに! じゃなくていいよ! そんな事しなくて! それにそんな事されたら……」


「劣情を……催しますでしょうか?」


「!」


 俺が幼馴染を邪な目で見ていたのは誰にも言っていない(バレバレ)

 なんだ?

 一体いつからこの女性をリンカだと錯覚していた?

 こいつは、違う。

 幼馴染きょうかすいげつの俺にはわかる。

 いや、俺にしかわからないだろう。


 俺はリンカっぽい人の腕を握って凄んでみせる。


「お前……リンカじゃねぇな……?」


 俺の質問を受けて、リンカを中心に空気が急速に冷えていくのを感じる。

 

「リンカですよ」


 リンカだった。

 うん。

 この細いのにぷにぷにしてる感じはリンカだ。

 ミニスカメイド服ニーハイソックス+金髪ツインテール(この条件にあらず幼馴染メイドにあらず、だ)

 めっちゃ似合ってるし可愛いけど一体全体どうしちゃったんだ?

 頭でもぶつたのかな?

 喧嘩したけど普通に心配だな。


「ですが、正彦様の疑問はごもっとも。 ママに催眠術をかけてもらい、元のリンカの精神には眠ってもらっています」


「! なんだって!?」


「ママに催眠術をかけてもらい、元のリンカの精神には眠ってもらっています」


「い、いや……ごめん聞こえなかったわけじゃなくて驚いた時にでたセリフなだけなんだ」

 

 様々な疑問符立ち込める中でリンカのキュートな唇から発せられたのは意外な真実だった。


「なぜ……そんな事を?(そろそろおしっこしたい)」


「リンカは自分が嫌いなのですよ。 大切な存在である幼馴染のあなたを傷つけるだけの自分なんていなくなってしまいたかった。 そしてその時に作られたのがわたくし幼馴染メイドというわけです」


「! なんだって!?」


「リンカは自分が嫌いなのーー」

「もういい! わかった!」


 ノリでもう一回やってくれるか試したくなってしまったフシはあるが驚いた事は事実だ。

 俺はそろそろ尿意の限界を迎えつつも一応戻し方を尋ねる。


「どうやったら元のリンカに戻ってくれるんだ……ちょっと待って一回オシッコしたい。 その後おしえて」

  

 そろそろ本当に限界だった。

 最も大事な存在であるリンカの安否がおざなりになってしまうくらいには。


「でしたらわたくしめが正彦様の懐刀の鞘をーー」

「俺に鞘などない!! 大体は抜き身だ!!」


 あくまで俺と共にトイレへ向かおうとするリンカを制止する。


 俺の火星ランカーマーズランキングは49位(中学での修学旅行の温泉調べによる)

 可もなく不可もなくってところだが人に見られたいもんでもない。


「正彦様……劣情を催さないか心配なのですね。 ご安心ください……あなた様の今朝の劣情は既に終えられております」


「どういう意味だ?(もうーホントにオシッコしたいんだってば!)」


「お気づきになられませんでしたか?……今朝のあなたが普段と違う事に」


「普段と違う……まさか!?」


 焦点の濁ったジト目のまま話し続けるリンカ。

 そして今日の俺は確かに普段と違っていた。

 気づいて絶句する。

 今朝は俺の股間がシティ◯ハンターもっ◯りしていなかった事に!


「はい。 寝ている間に幼馴染の殿方の劣情を処理するのも幼馴染メイドの常識でございます」


「バカな!? 一体どうやって!?」


「はい。 まずは正彦様の懐刀を鞘から取り出しーー」

「わかった!もういい!」


 これ以上幼馴染メイドバージョンのリンカと話していると処理されたとはいえ危うく劣情を催してしまう。

 そんなシティーハ◯ターもっこ◯な状態ではおしっこがしづらい。

 どこまでもついてきそうな雰囲気のリンカを置いて俺はダッシュでトイレに駆け込もうとするが、リンカも負けじとぴったりと俺のすぐ後ろを追いかけてくる。

 

(はえええ!ーーこれが幼馴染メイド、女の脚力かァァーァァ!(リンカは元々正彦より全然速い))

 

 だがここはフローリングで俺は素足に対して、リンカは太ももを最大限にエロく見せるニーハイ着用状態だ。

 滑りづらいから地の理は完全に俺にある。(劣情的には既に敗北)

 

 なんとかトイレに辿り着いてドアと鍵を閉めてパジャマのズボンとパンツを下ろして便座に腰かける(座りション派)


 ドアをドンドンと叩いて解錠を要求してくるリンカ。


「正彦様! 正彦様! 開けてください! まだ今なら間に合います!(?)…………開けなさい!!!!」(ドゴー!)


 ヒェーー!

 完全にビビっちまって小便チャリオッツを出すのも忘れていた。

 俺はただでさえも朝の放尿には時間がかかる(ゆっくり落ち着いてしたい派)


 神経質な俺に落ち着かないこんな状態での朝ションはもはや地獄と同義、無理だ出ない。

 そしてリンカのパワーなら家のトイレのドアを蹴破る事も可能だろう(母さんさすがに怒るかな?)


 さーて俺が落ち着いて朝ションするためにここで3択だ。


 答え①ハンサムなマサヒコくんは突如神経質が解除されて出る

 答え②硝子幼馴染がきて助けてくれる

 答え③出ない。現実は非情である。 鞘を外される。


 俺が期待したいのは②だが硝子しょうこは俺が起こさないといつまでベッドと永久に添い遂げちまう(羨)

 助けにくる可能性は低いだろう。

 

(やはり答えは……………①しかねえようだ! )


「開けな……さい!!!!(バッキャーーーン!!)」(ドアめっちゃ揺れる)


 あ、無理だこれ。

 怖くて縮み上がっちゃってるもん。


 幼馴染とはいえ、人の家のトイレのドアを平気で破壊しようとする事のできるその精神性に俺は完全に怯えきっていた。


 長いようで短い、永遠に続いてしまう葛藤が続いていた時だった。

 

 ドゴーーーーン!


 凄まじい衝撃音と共にトイレのドアを蹴破って現れるリンカ。

 蹴破る際にニーハイと太ももの間の絶対領域が一瞬強調されたのも見逃さない。

 劣情ポイントも十分ってわけだ。

 

「正彦様……懐刀……鞘を……」

 

 焦点の定まらないジト目をこちらに向けてユラユラと身体揺らしながらとトイレへ侵入してくる幼馴染メイド。

 あまりの恐怖に俺の視覚は全て色を失い白黒の光景しか映らなくなる。

 つまりこの状況は……

 

「答え-ー③ 答え③ 答え③」


 絶望!突きつけられた答えは③ッ!現実は非情なりッ!!

 

「間に合いました……まだ小用は済まされていないご様子。 それでは失礼させて頂きます」


 バスケット部のエースで無骨な印象だったが、リンカのしなやかで細長い指先。

 まるでピアニストのような繊細な印象の指先がゆっくりと俺の股間に迫ってくる。

 恐怖に身を縮こませた草食動物は肉食動物に襲われる際には走馬灯のように己の生を振り返るのだろうか。

 俺にも今この瞬間がスローモーションのように感じられているから、俺は振り返る事ができる。

 たった3話だけの劣情バトルの歴史を。


(く、来るな! 無理だ。 あんな指先で鞘を外されたら劣情を催しちまう)


(そんな風にお前に触れられたら……そんな関係になったなら)


(二度と俺はお前を……)


(他人からみたら笑われるかもしれないけど頑張ったんだぜ? 俺はこれでも。)


(もう間も無く俺は劣情を催す。 さーてこの物語は終了だ。タイトルだって『限界です』から『限界突破リミットブレイク』に変更だけじゃ対応できないかもしれない」


「……? スローモーションなだけか? それとも……これは……?」


 スローモーションだと思っていたが、リンカの指先は俺の股間に届く直前で止まっている。

 そしてどこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 いや、俺はこの声を間違いなく知っている。


『やめて……マサ……が……困ってる……』


(リンちゃん……?……ずっと……ずっとすぐそばにいたんだね……)


 寂しがり屋なくせに意地っ張りで、俺の事をけなすことにかけては天下一品で。

 いつもナチュラルに見下してくるお前に俺は興奮していたんだ。


 でも、そんな上辺みたいな設定メスガキは関係ない。

 だって俺たちは魂の一部を共有おさななじみしているんだから。

 どんなにバカにされても俺はリンカがいないと生きていけないし……生きていたくないんだ。

 だからーー


「リンちゃん。 意地張っちゃってすぐに謝らなくてごめん。 お願いだからかえってきてよ」 


 俺の世界に、色が戻ってくる。

 そう、俺の世界を白黒にしていたのは魂の一部を共有していたリンカが悲しんでいたんだ。

 

 すまなかった。

 本当に俺の本音だ。

 本音で話すから傷つくし、傷つけてしまうけど。

 だって俺はリンちゃんが好きなんだ(家族として)

 

 俺の本音を受けて動きの止まっていた幼馴染メイドバージョンのリンカが口を開く。

 

「リンカはあなたをすぐにまた傷つけますよ? 何がいいんですか?」


「知ってる。 けど俺にとっては彼女より大事な存在なんてないんだ。


「私だったら劣情を催されて事後っても、私の記憶改ざんとかして健全な関係を保ったフリもできるので催し放題ですよ? 一生幼馴染でも劣情関係でもいられます」


 魅力的な提案にシーソーばりに秒で心が傾きかけたが、俺の決意は固い。


「頼むよ……俺の大事な人を……返してくれ」


 それが幼馴染メイドバージョンリンカとした最後の会話だった。

 焦点の合わなかったジト目に光が宿るとリンカは優しくふっと口角を上げた。


 そしてその場に倒れ込む。(トイレの床も正彦が掃除していつも綺麗でピッカピカ!)


 きっと……いや……間違いなくこれで良かったんだ。

 幼馴染とふしだらな劣情関係なんてあってはならない事なんだ。(後ろ髪ひっぱられー)

 

 ややもすると(もやもや?)リンカが目を覚まして、その可愛らしい顔を俺に向ける。


「マサ……アタシ……アタシ……」


「リンカ……何も言うな……全部わかってる……」


 そう、ここはトイレで俺は便座に腰掛けている。

 ずっと我慢していたんだ。

 リンカが元に戻った安心感から膀胱にために溜めた小水を排出するのを止められない。

 

 じょろじょろと狭い室内に鳴り響く排出音。

 見つめ合う二人。

 そして。


「きっしょ!」


「しょうがないじゃん! 起きんの早いよ!」


 いつも通りの関係に戻れた事と膀胱が解放される二重の多幸感に俺は包まれていた。


 だが、この時の俺は気づいていなかった。

 今後も高校生活で幼馴染に劣情を催してはいけないバトルが過酷さを極めていく事になるなんて。

 

 ーー劣情バトル戦績ーー


vs早生硝子  1勝0敗

vs高嶺茨   0勝1敗

vs戸成燐火  0勝1敗

 敗因  睡眠中に処理される


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