第2話第二の幼馴染 高嶺茨の章 〜無口系幼馴染はダブルピースでかく語りき〜
ーーもう一人の幼馴染
小学生時代。
夕焼けで校舎全体、風景全てが赤色に染め上げられた放課後。
校舎脇の隅にうずくまっている、僕にとって世界で一番大切な存在。
幼馴染のイバラだ。
「イバラみーっけ!」
「……!」
「あーー! やっぱり泣いてると思ったよ! ほら、一緒に帰ろう?」
「!…………」(ぶんぶん首を振る)
「えー? もう暗くなってきたし、お腹も空いてきたし帰ろうよー」
「…………」
「うんうん。 イバラが怪奇!バター犬ワンワンに全身を舐められてアンアン大パニック女子!の犯人じゃないなんてもちろん僕は知ってるよ」
「…………」
「え?『私が怪奇!バター犬ワンワンに全身を舐められてアンアン大パニック女子なわけない、ましてやバター犬が何なのかすら知らない。 でも多分下ネタ系なのがつらい』って? あはは! みんなだってイバラがそんな事しないのわかってるよ」
「………………」
「……『私は絶対にやってない。怪奇!バター犬ワンワン……』もういいよ!ずるいぞイバラ! 結局僕が通訳するから僕が言うハメになるじゃないか! さすがに3回目……いや本当は1回目から辛かったんだぞ!」
「……」
「……『何て?』 だって?……だから怪奇!バター犬ワンワンアンアン大パニック……やめろ! 元気そうだな! 帰るぞ!」
「……」
「……はぁ。 『帰りたくない』 ね。
「…………」
「ん?『その呼び方も嫌い。 でも、クラスのみんなに勘違いされたり、疑われたのも悲しいし、勘違いされやすい自分も大嫌い』 か。(イバラの奴、その呼び方"も"ってつける事によってさっきのセリフを想定させてまた言わせようとしてるな。 抜け目ないやつ)」
「…………!……」
「『しゃべらないのにわかってくれる
「……」
「イバラが自分の事をどんな風に思っているとか、僕の事で悩んじゃう事は僕には止められないし、変えられない。(僕が浮いてるのは幼馴染に超絶美少女が3人もいるから男子にやっかまれてるだけなんだよーん) それがイバラだしね」
「……」
「でも、僕は何があってもイバラの側にいて、イバラと添い遂げるよ(家族的な意味で)だって僕は……」
「〜〜!……」
「僕はそのために生まれてきたんだから」
「〜〜!〜〜!〜〜!〜〜!!!!……
「ん?(あ、久しぶりにしゃべった。 なんて美しい音色なんだ)
「私ね……」
「うん。(まるでアポロン神が竪琴で奏でるメロディ、 いやそれ以上だ)」
「私も……」
ーー
俺が愛する幼馴染の一人だ。
無口であまり人と打ち解ける事のない彼女には異名がある。
曰わく『高嶺の
先に言っておくが、今から俺が読まなくていいという部分まで読まなくていい。
めっちゃ金持ちの家庭に生まれた才色兼備、ロングスカート、腰まで伸びたロングヘアの黒髪、少し吊り目で無口な美少女をより緻密に、繊細にそして優雅に、彼女を表現したいだけだ。
いや、言葉なんて不粋か。
彼女の美しさを表せる言葉なんて存在しないんだから。(もう読まなくていいです)
以下に、彼女を表す旧約、新約バイブル全66巻の一部を記す。(注:本当に読まなくていい)
彼女は女神が集う山々に咲く美しい薔薇のようだ。名前も茨だしな。誰もが彼女の魅力に囚われて手を伸ばしても届かないような、はるか彼方、次元が一つ、いや一億高い場所に存在するような美しさを持っている。彼女の美しい顔立ちはまるで彫刻のように緻密に彫られており、完璧に整ったプロポーションはまさに芸術品。すらりと伸びた長い手足には男女問わず魅了されて、彼女の存在自体が周りの景色を一層、失礼、一億層美しく鮮やかに見せていると言っても過言ではない。だけど彼女のその長い手足は制服と膝下のロングスカートとデニールの濃い黒タイツによって誰も拝める事はない。つまり、それだけ尊すぎるという事さ。決して高身長とは言えないけど、誰もが彼女を見上げ彼女の美しさに息を飲む。高嶺の花と呼ばれるだけあって、彼女の美しさはまさに高みにあるものだった。すまない、全てが尊すぎて言葉が足りない。彼女の髪にも触れねばなるまい。まるで黒い糸のように艶やかでその光沢はまるでブラックオニキス(ちなみに比べられたブラックオニキスは恐縮してしまい、その身が5cm程小さくなり、量子サイズまでその身を縮めてもなお平伏していたとか。これは量子力学の根幹すら覆す事象、女神のみが行う遊びであったがその所作すら美しい)のように輝いていた。風になびくその動きはまるで美しい音楽、女神達が演奏しているようだ(演奏している女神達は茨の美しさに嫉妬しちゃう、かわいそうだねー)そして彼女の瞳は碧く、まるで闇の中に浮かぶ星のようだった。(後にその碧き星をめぐって神々の戦争が勃発。世に言う
以下この後も5.302章彼女を讃える本文。
※ここから読み始めましょう
一旦、今回の本題に戻る(バイブル内0.0001部のみ抜粋、語り足りない)
なんで彼女を語り始めたかって?
幼馴染として彼女の現状が心配でしょうがないからさ。
放課後の校舎裏に男子生徒の呼び出しを受けている
いわゆる告白の真っ最中。
俺は|放課後一緒に帰ろうと思ってイバラを探していたら偶然見つけてしまって木の影から絶賛スニーキングミッション中ってわけだ。
愛する幼馴染が選ぶ男なら、どんなにひどい男でも血涙しながらも納得するしかないのが幼馴染の辛いとこだな。(俺自身は付き合う気はないんで)
ただの幼馴染にイバラへの告白を邪魔する権利などない。
胸中では思いつつも、どうせいつも通りイバラの棘に刺されて撃沈するのは目に見えている。
俺が恐れているのは、にべもなく振られてしまったそいつが暴徒化してイバラを傷つけてしまわないかの心配だ。
そう考えてから聞き耳を立てているが、いつもの告白とは毛色が違う。
イバラに今告白しようとしている男はなんていうか、俺自身経験がないんでよくわからないが。
金髪で長身イケメン、なのにニヤニヤと下品な笑み、色黒で筋骨隆々とした体躯、流し目を見るだけで吐き気を催す邪悪な存在だとわかる。
N◯R物とかでめっちゃ寝取ってきそうなイヤらしい雰囲気の男子高校生だった。
「正彦くんはそこまでイバラちゃんに愛されて幸せだねぇ。 だけど、肝心の正彦くんはどう思ってるのかなぁ」
「……」
放って置いたら行くとこまで行ってしまいそうな雰囲気の男、イク男(命名:正彦)が下衆の極みを極みに極めた(?)邪悪な笑みを浮かべながら話し続ける。
イバラは極端に無口だから相変わらず言葉はない。
無言で返答する(無言なのに返答とは?)イバラをよそにイク男が言葉を続ける。
「あんたには関係ないって面に書いてあるぜ。 相変わらず釣れないねぇ。 見知らぬ間柄でもないのに」
「……」
「けっ! まぁいい。 今日の所は退散するがイバラちゃんは俺を認める事になるぜ。 必ずな」
「……キッ(にらみ返す音)」
「ハハっ! キツイ顔も可愛いらしいねぇ。 そんじゃあまたな!」
春先とはいえ、まだ肌寒さの残る季節なのにイク男はタンクトップ姿だ。
太い二の腕をひらひらと振りながらその場を去っていった。
(知り合いだったのか? 意外とイバラと会話も噛み合っていたし……)
いつもは告白されたのを振るとか以前の問題だ。
イバラが無口すぎて返答にあぐねているのを見た相手が勝手に玉砕してしまったと勘違いするのがセオリー。
校舎裏に立ち尽くし、何か大切なことを決意しようとしても踏ん切りがつかない。
そんな印象のイバラに俺は声をかける。
「イバラ!」
少し驚いた様子で俺の方は振り返るイバラ。
さっきのシーン、見られたくなかったのか?
「……」
「『帰ったんじゃなかったの?』 って? いやだって今日一緒に帰ろうって約束してたから(小学生感) 忘れてたのか?」
「!……(ぶんぶんと首を振る)」
イバラが俺との約束を忘れるなんて珍しい、というより初めての事だ。
でも、俺たちは所詮幼馴染。
あんまりプライベートな問題に立ち入るのも良くないよな(血涙、血尿じょばじょばダダ漏れ)
「別に無理しなくても大丈夫だぞ? 一緒に帰るのはまた今度でも……(うっそぶーー! 超イヤだよーーん! 今日はイバラと遊ぶ気分スイッチ入っちゃってんだよぅ! 駅前のたこ焼き一緒に食べよーよぉ!)」
「!!!?……(ぶんぶんぶんぶん)」
張子の虎よりも脆い、俺の虚勢を受けてほぼ半泣き状態のイバラが駄々っ子のように首を振り続けて止まらない。
俺の方もイバラに約束を忘れられたのがショックすぎてつい意地の悪いことを言ってしまう。
ぶんぶんぶんぶんぶん。
そろそろ勢いよく振りすぎてポッキリと細い首が折れてしまうという別の懸念が生まれて、神漏美の寵愛を賜り、美しくも儚いその尊い頭を「ガッ」と両手で掴み首振りをとめる。
「!!!!!!????」
「落ち着けよイバラ。 うそうそ! 俺も超一緒に帰りたいよーん!」
「……!……!……!!!」
「『離して! 離さないで! やっぱり離して! でもやっぱり離さないで! でもでもそれでも、だってやっぱり、だって私たち……』 落ち着けイバラ!なんかの歌詞か!? どっちだイバラ! 俺は、俺はどうしたらいいんだ!?(俺も落ち着け)」
「……!……!」
「『なんでそんなどうでもいい事はわかるのに!?』 何言ってんだ! 俺にとってイバラのどうでもいい事なんて一つもない!」
「……ぅぅ」
「?(イバラがしゃべった? いや、 違うな……俺とした事があまりの美しさに気が動転しちまってたのか? なんだ単純にこの場に女神、それより高次元の存在が降臨された余波が与えし音色ってわけか)」
「……ぅぅ……ちゅき……
「?(認識阻害? いや美しい音色に正常じゃいられなかったてわけか? 安心してくれイバラ。 お前の一挙一動何一つ見逃すわけないだろ)……ああ……俺も好きだぞイバラ(ただし家族として)」
「ぅぅぅぅぅ!……ちがっ!……私……
「?(何言ってんだ? 俺の方がずっとずっと) ああ、 俺もイバラを愛している(来世も一緒にいようねーん) 100歳までお互い相手ができなかったら結婚しよう。イバラは料理が苦手だからな。 そん時は俺が作ってやる」
100歳まで生きたら価値観の違いで離婚しても同時に俺の寿命が尽きるだろうから大往生だ。
イバラと共に生きて、そして死んでいける。
そんな感動スペクタクル大巨編を夢想した事で俺の頬を伝う
が、そんな矮小な卍◯などありはしない。
俺のは涙ですらないのだ。
イバラの頬をボロボロと伝う美しい宝石たちと比べたら。
闇値で販売すれば数億はくだらないだろう。
頭を掴み続けていた俺の手を無理やり引きはがすとイバラは走り去っていった。
「イバラ……」
一人残された俺は意味もわからず立ち尽くす事しかできなかった。
(わからない。 俺にはそれが大切だと、どうしても思えない)
だって俺には納得できないんだよ。
「愛よりも大事な"恋"なんてもんは」
誰に言ったかも、そもそも俺の口から出てきた言葉なのかすらわからない。
一過性に過ぎない、後生大事にもできないその感情をなぜ重宝するんだ?
『父さんと母さんな……友達同士に戻ろうと思うんだ……』
……戻れなかったじゃないか。
どうでもいい。
俺はその事については納得している。
恋愛至上主義なんてクソ食らえだ、と。(個人の意見です。この作品のジャンルはラブコメで検索できます)
それから数日間イバラが学校に来る事もなく連絡もでてくれなかった。
俺自身イバラがいないと数日だけでも心にぽっかりと半径6378Km(地球の半径)ほどのブラックホールを作り出してしまい太陽系を滅亡させてしまう所だったが、久しぶりに学校にきたイバラを見た全校生徒、いや宇宙の根源すらも驚愕する事になる。
イバラの髪が金髪になっていたからだ。
元々彼女の髪は黒く艶とハリのある糸がナチュラルに光沢を放ち神々ですら首を垂らして平伏(以下略)
めっちゃ綺麗だった黒髪が染髪どころかブリーチでまっキンキンになっていた。
眠気ただよう午前中だが、居ても立っても居られず俺は学校の廊下でイバラに話しかける。
「イバラ! その神の色は!?(?) いや! どうした!? どうしたんだよその神の色は!?」
何度聞き直しても俺が最も崇拝しているであろう女神が何色なのか聞いてしまう始末だ。(今は金です)
それほどまでに俺の精神は混迷を極めていた。
カオスと融合を果たした俺にイバラは無言で返答する。
「……」
「い、イメチェンだとぉ!? それだけの変化を気分の問題ですますつもりか!? そんな……そんな事、神が許しても幼馴染の俺だけは……」
「許さねえ!」と天に唾吐く勢いで言いかけたけどやめた。
よくよく見たら普通に似合ってるし。
品行方正に見えるイバラもいわゆる花の女子高生。
イメチェンぐらいするんだろう。
「……」
「うそうそ! ちょっとイメージと違ったからびっくりしちゃったけどめっちゃ似合ってる! 天使が下界に降臨したのかと思ったもん!」
俺が剣幕に詰め寄るもんだからイバラは不安そうに俺の様子を伺う。
まずったな。
普通に考えてイメチェンして最初の登校日なんてめちゃくちゃ緊張しただろうに、あろう事か最大の理解者であるつもりの俺が初っ端から責め立てちまった。
とにかく俺は全66巻あるイバラバイブルに記されている美辞麗句を並び立ててご機嫌取りに回っていた。
その時だ。
すこぶる邪悪で醜悪な声が俺の讃美歌を遮る。
「いよぅイバラちゃん。 早速
「き、貴様は……イク男!?」
少し肌寒い春先なのにタンクトップを着こなし、筋骨隆々の肉体を惜しげもなく披露し、顔面に邪悪そのものを貼り付けながら笑みを浮かべるイク男が現れた。
「ありゃあ? 名乗ったことあったけか? 確かに俺は
そう言ってイク男は決裂を意味する左手を俺の前に差し出して握手を求めた。
それでも男友達の少ない(通算0人)俺には握手を求めてくる相手を無碍にできない。(友達欲しいよー)
握り交わされる左手。
(な、なんだこの感覚は? なんというか男、いやオスとして格の違いをわからせられてしまっているような……)
ギュっと力強く、一回り大きな手に握られて俺は不覚にも敗北感を味あわされる。
「イク男……まさかお前がイバラに無理やりイメチェンを促したのか?」
握手を続ける事に不快感を感じて、俺は手を離しながらイク男に問いかける。
「おいおい人聞きの悪い事を言うなよ。 イバラちゃんが自ら望んだ事さ。 なぁイバラちゃん?」
「……」(こくり)
幼馴染の俺にはわかる、嘘は言っていない。(うなずいてたのでイク男、ていうか誰でもわかる)
イバラは自分でイメチェンを選んだようだ。
「ところでイバラ……今日一緒に帰らない? その、この前はたこ焼き食べれなかったし」
結構人見知りな俺にとって余り仲良くない男と会話を続けるのは辛い。
悪いとは思いつつも気のおけない幼馴染に話題を振ってみる。(なんとなくイバラが怒ってる気がするから仲直りしたいし)
俺の誘いを受けてイバラは少し悩んだ表情を見せた後。
「……」(ふるふる)
「え……イク男と……予定が……?」
「悪ぃねえ
その瞬間、始業の鐘が鳴り始めてイバラとイク男が同時に歩き始める。
「それじゃあ、俺たちはクラス一緒だから。 ああ、 正彦くんは違うんだっけ? まぁまた今度クラスや、それ以外でのイバラちゃんの様子でもゆっくり話そうぜ(ニチャニチャア)」
(それ以外?)
疑問を抱く俺に優越感を振りかざすようなイク男の笑みに吐き気を催す俺。(今回は今んとこ劣情は催してないなぁ)
なんだか、そのまま見送ったらイバラが遠いところに行ってしまう気がして無意識のうちにイバラの名前を呼ぶ。
「イバラ!」
「……」
振り返ったイバラに何を伝えたかったのなんてわからない。
だから、神経質で考えすぎな俺が感情のまま伝えたんだ。
「その……髪の色似合ってるよ。 すごく綺麗だ」
いつもの美辞麗句なんて全然出てこない。
イバラは俺の言葉を受けて儚げに笑みを浮かべただけだ。
その笑みを受けて俺は絶句する。
イバラが今なんて言ったのか全然わからなかったからだ。
ーー帰宅後ーー
いつものルーティンでの炊事、洗濯、掃除まではなんとかこなせたが、どうにも勉強まではやる気になれない。
作った夕飯も喉を通らずに、自室のベッドで寝そべっていた。
(今ごろイバラはイク男と……)
所詮俺はただの幼馴染。
イバラがどこの誰と遊んでたって嫌がる権利なんてない。
それでも俺自身が下卑た妄想にとらわれて思考の渦にハマっていく。
ヒュポッ!
メッセージアプリの通知音が鳴り、億劫だがスマホを手にとった、瞬間にめっちゃ早くメッセージを開く。
イバラからのメッセージだったからだ。
『正彦はジャンボフランク好き?』
ジャンボフランク?
一体なんの話だ? 下ネタか?
怪訝に思って返信できないと次のメッセージが受信される。
『私はね……だぁい好き、、、特にぶっとーいのが』
下ネタだ。
間違いない下ネタだ。
疑問符は3%あるがイバラからの下ネタに15.000パーセントの興奮を覚えて0.01秒(人類の反応速度以上)で返信する。
『俺も好き!(ん?この返信だいじょうぶか?)』
まったくイバラのやつ相変わらず抜け目のないやつだな。
俺が下ネタを話すの大好きだと知ってて仲直りしようとこんなメッセージを。
かわいいところが1億個くらいしかないと思っていたが、1億1個目がみつかった。
やっぱりかわいいじゃないか。
イバラの既読がついてからしばらく経てメッセージ通知音が連なる。
『正彦も好きでよかったぁ。 あのね』
『イク男くんが作るジャンボフランクがすごいの』
『私 すっかりハマっちゃって」
『最近、毎日食べてるのに全然飽きないの』
パッカーーーん!!
瞬間俺はスマホを空中に放り投げた後にサマーソルトを叩き込む。
スマホは粉々に粉砕されて俺が最後に見たメッセージ、証拠は隠滅された。
あやうく脳が破壊されるのをかろうじて防ぐ。
脳死一歩手前の俺が考えれる事はただ一つ。
(イバラ……一体なんの話を……?)
とりあえず、とぼけてみた。
ーーさらに数十分後ーー
「マサヒコー。 入るよー」
「うわぁ! ちょ、今は駄目!」
自室に鍵をかけているのに、ドアノブをガチャガチャと無神経に回す
「いっちゃんから電話だよー。 マサヒコから返信がないから心配だって」
急ぎ着衣を整え、そしらぬ顔でドアノブを回す。
「イバラから?」
「うん。 正彦に電話したみたいだけど電源入ってないから私にかけてきたみたい。 いっちゃん? マサヒコいたよー」
俺のスマホは原型どころかこの世に存在したいう証拠が無くなるまで原始配列もろとも崩壊させている。
だから家が隣の
「イバラなんて?」
「んー? なんか話したい事あるみたいだよ。 ストレッチでもしてるのか、なんか呼吸が荒くて変な感じだったけど」
呼吸が荒い、だと?
嫌な予感はするがとりあえず
硝子はテレビを見たいからと俺ん家のリビングの方に向かって行った。
「……」
「あ、 イバラ? 悪いな。 スマホは興奮した魔人(つまり俺だ)に襲われて突然原子もろとも粉々になってしまったんだ。 それで用ってなんだ?」
「……(ガサゴソ)」
「イバラ? な、何してんだ?」
「……ふ……っ……はぁ……っ」
いつもは電話でもイバラが何を言いたいかわかるのに、今日はさっぱりだ。
俺の頭の中でこれ以上電話を続けてはいけないと警鐘が鳴り続ける。
ていうかなんだ!?
なぜイバラから艶っぽい吐息が時たま聞こえるんだ!?
ん?な、なんだこの音は?
「っ……ぱん……ぱん」
「イバラ? さ、さっきからなんか変な音してないか?『ぱん、ぱん』って、 なんの音なんだよ!?」
まったく状況が掴めずに動揺していると突然ビデオ通話の着信が入る。
俺は恐る恐るビデオ通話に切り替える。
スマホ画面にイバラの美しい顔面がアップで映しだされる。
なんだか顔が紅潮しているような気もするし、妙にイバラの顔面が上下に動いている気がする。
「イバラ!? おい! お前今一体なにやってんだ!?」
「……はぁ……ぱん……ぱん……ぱん」
なんだ!?
一体俺は何を見させられているんだ?
スマホ画面いっぱいに写し出されるイバラの顔面。
時折聞こえるパンパンとうい衝撃音。
そしてイバラが突然、画面越しに笑顔でダブルピースを決める。
「えええ!? それどうやって撮影してんの!? ちょな、何してんの!? ねぇそれホント今何してんの!?」
あまりの衝撃にオンドゥ◯語ばりの早口と吃音でイバラに問いかける。
それでも全く状況が掴めない。
今は全くわからなくなってしまったイバラの感情を読みとる事に集中してみる。
(幼馴染を舐めるなよ!! ええと? イバラが今言いたい事は?)
ダブルピースを決めつづけるイバラにニューロン全てを駆使して言葉を読み取る
「……(イク男くん。 これでいいの?)」
「おい!!? そこにイク男いるのか!!? ねぇこれ何!? それ何してんの!?」
薄々というかほぼ確信していた内容に証拠すら叩き付けられた俺は冷静でいられなくなっていた。(元々)
そこに追い打ちをかけるが如く衝撃音がこだまのように鳴り響く。
「ぱんぱんばばぱぱばばぱはばばばぱん!」
「や、やめろおおおーーー!!!(そんなにしたらイバラが壊れてしまう!!(?))」
そこで俺の記憶は途切れる。
ニューロンとシナプスはオーバーヒートを起こし俺は意識を手放した……
ニューロンが完全に焼き切れる直前に俺の脳裏をよぎった一つの記憶。
『私も正彦に会いたくて……正彦と添い遂げるために生まれてきたの……』
今よりももっと泣き虫だった子供の頃のイバラの姿だった。
ーー翌日ーー
「うわあああああ!ああ!ああ!あーーー!」
「うぅーん? うるさいなぁマサヒコ? どうしたの怖い夢でも見た?」
72時間以上も刀に刺され続けるより辛い夢を見ていた気がする。
飛び起きたのは俺の部屋のベッド、隣には下着姿で寝ている硝子の姿。
既に朝日は上り始めている時間だ。
「怖い……夢……だと? あぁ、あぁ。 とてもおそろしい夢だったさ。 イバラのやつが突然金髪になって……それで……」
「ふわーぁ。 むにゃむにゃ……いっちゃん金髪も可愛いよねー。 ああいうのも似合うんだねー」
「なん……だと……? 今なんて言った?」
現実を受け入れられず、俺はとりあえず師匠ばりの様式美、並びにハリウッド映画の吹き替えばりの驚きを表してみる。
「? だから、いっちゃん金髪も可愛いよねーって」
「その前だ!」
「? 怖い夢でもみたってヤツ?」
「その後だ!」
「もーー!だから!いっちゃんの金髪可愛いよねって事じゃん! さっきからなんなのマサヒコ!(ん?私の下着姿みても無反応じゃない?)」
「嘘……だろ?……なんて事だ……』
イバラが金髪。
つまり昨日のスマホ事件は現実だって事だ。
硝子のやつは呑気に構えてるが、事の重大性をまったく理解できていない。
焼き切れたニューロンが少しずつ再生し始めて俺は現実を認識する。
「硝子……今から話す事は……全て真実。 実際にあったことなんだ……どうか落ち着いて聞いてほしい」
「朝っぱらから落ち着いてないのはマサヒコだよ。 いっちゃんの事でマサヒコが勘違いするのはいつもの事だし(私が下着姿なの気づいてないくらいに)」
イバラのことで俺が勘違いするわけなどない。
俺は事の顛末を雄弁に語る。
なぜか硝子は幼馴染の性癖を暴露されたような表情をしている。
「……というわけさ(こいつなんで下着姿で俺のベッドで寝てるんだ?)」
「マサヒコ……その話……絶対にいっちゃんに言わない方がいいよ。 すごく傷つくと思うから……」
どんなに俺がわかりやすく熱弁しても硝子はドン引きしているようだった。
一体なぜだ?
「なんだよ! ちゃんと聞いてくれよ!」
「聞いてるってば! 朝っぱらから幼馴染の性癖暴露されてる気分でドン引きしてるの!」
全く噛み合ってないように思えて、つい俺も声を荒げてしまう。
「はあ!? じゃあ昨日のビデオ通話でのイバラはなんだったんだよ!? あんなにはぁはぁ吐息をもらして!
「マサヒコじゃないんだから人前でそんな事するわけないでしょ!」
「!?
「
「硝子まで……
やり場のない怒りに肩を震わせることしかできない俺は叫ぶ。
「
「マサヒコ付き合う気ないじゃん」
怒りと喪失感に苛まれて、胸中がいそがしく入り乱れた俺は部屋から飛び出てドアを閉じる。
そして。
(あーー!もう! 硝子のやつなんで下着姿なんだよ!
とにかく忙しかった。
ーー数日後ーー
あれ以来なにもやる気が起きない。
学校も休んでいる。
スマホも粉砕してるから誰とも連絡をとっていない。
腹が減ったら何か食べて、排泄する。
そんな生ける屍状態の俺に一つの小包が郵送されてくる。
何気なくそれを開いてみると。
「ん? でぃー……ぶい、でぃー? なんだこれは?」
初めてデジタル機器を見た原始人の様な反応をする俺に送られてきたDVD。
悲痛な気持ちとひと筋の劣情を感じて俺はそのDVDを再生する。
「いぇーーい! 正彦くーーん! 見えてるぅ? くくっ。 早速だけど今からぁ! イバラちゃんと一緒にぃ!」
そこに映っていたのはイバラとイク男だった。
下衆を極みに極まり極めきった笑みを浮かべるイク男とエプロンをかけて恥ずかしそうに映るイバラ。
「ジャンボフランクと付け合わせのポップコーンを作りまーす!」
一切の光を失い、視力すら失いかけていた俺に映し出される動画内容。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「俺ん家って精肉店なんだけどぉ! イバラちゃんにはなんとぉ、 肉あんをこねて羊の腸詰までやってぶぅっといジャンボフランクを作ってもらいまーす! 結構大変だけど正彦くんにも食べさせたいって頑張って練習してるんだぜー!」
現在、未来、過去、一切を認識できなくなっている俺にはその映像の意味が理解できない。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「肉あんをこねて作るのって結構大変なんだぜー! ほらイバラちゃん! 頑張ってこねなよー! 正彦くんが見てるぜー!」
大量の肉あんを銀のボールに詰めてこねはじめるイバラ。
全身が上下に揺れている。
イク男の言うとおり大変なのか艶っぽい吐息をもらしながら、健気に肉あんをこねている。
映像の意味は全く理解できない。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「ポップコーンも同時に作ってまーす! これがフランクと合うんだわ! 作る時にちょーっとぱんぱんうるさいけど我慢してねー!」
推理物の映画で謎解きをされていくような感覚。
なのに理解が追いつかない。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「いぇーい! イバラちゃんがんばってるねーこっち見てー! ちょっと休憩! そうそう恥ずかしがらずに! ダブルピース決めてみようぜぇ!」
画面いっぱいに映し出される美しき幼馴染のダブルピース顔。
動画を取られるのが恥ずかしいのかイバラの頬は艶っぽく紅潮している。
とりあえず理解が追いつかない。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「いいねいいねー! 幼馴染のギャップ萌え! 突然金髪になったりしたら萌えポイント高いよなー! 正彦くーん! 硝子ちゃんに聞いて正彦くんの好み聞いたみたいだよー!」
そういえば俺はギャル好きだった。
でももっと黒い方がエロくてタイプかなー。
自分の性癖なのに理解が追いつかない。
それでも俺はその動画から目を逸らす事ができない。
「あーっと! ポップコーンができはじめてきたわ! ぱんぱんうるさいけど気にしないでねーー!」
ぱんぱんばばぱぱばばぱはばばばぱん!
チンチンに熱されたフライパンの中で爆ぜていくポップなコーン。
その炸裂音はイク男の言う通り凄まじいものだった。
なんだかんだで理解が追いつかない。
それでも俺はその動画から目を逸らすことが(以下略)
「これから肉あんを腸詰めしてぶぅっといフランク作ってくけどマジでうまいから食べてねーー! 料理(?)女子最高! てね!」
小包を開いてみると冷凍パックされたジャンボフランクが入っていた。
無気力だった俺には目に入らず(普通気づく)、劣情を感じて先にDVDを見つけてしまったってわけだ。
その後も和気あいあいとジャンボフランクを作る工程をイバラに丁寧にレクチャーしながらも画面越しに俺を楽しませようとするイク男(いい奴)
「それじゃーまた学校でねーー!」
ひらひらとぶっとい二の腕を振るイク男。
その画角の奥で慎ましく片手を小さく振るイバラ。
動画はそこで終了だ。
全て見終えて俺はその時気づく。
天啓を得たって奴だ。
喪失感、敗北感、それら全てを合わせた罪深い甘美な背徳感。
(幼馴染には劣情を催さないだと……? 第2話にして完敗だ……)
(俺は
認めるよイバラ。
劣情において、やはりお前こそが俺の最大の
こりゃ
お腹が空いてきたのでジャンボフランクは焼いて美味しく食べました。
俺の
ーー劣情バトル戦績ーー
vs早生硝子 1勝0敗
勝因 う◯こ漏らす事でドン引きさせる
vs高嶺茨 0勝1敗
敗因 新しい性癖への自認
----------
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