めちゃ可愛い幼馴染達が好きすぎて、もう限界です

千結

第1話 第一の幼馴染 早生硝子の章 〜幼馴染よ巨乳なれ〜

 幼馴染が大好きだからって 絶対に結婚しなきゃダメなもんなのか?


 納得できない数学の公式は覚えない方がいいなんて言葉があるらしいが、軽く言ってくれるよな。


 俺は角田正彦かくたまさひこ


 神経質で筋張った感じが名前にも出ていると言われる俺は今年、高校一年になったばかり。

 納得できない公式を覚えない事で勉学に遅れをとるなんてまっぴらごめんだ。


 どんな小さな事でも俺は納得したいんだ。

 納得は全てにおいて優先する、なんて言うやつもいるくらいだしな。


 だから納得できない公式を繰り返し、理解できるまで復習しているうちに朝方近くなっちまって気づいたらそのまま自室のベッドへヘッドダイビングだ。

 読みづらいかな?

 まぁ、特に字面は気にしないでいいよ。

 眠くなって寝ただけだから。


 だが、どんなに深夜活動、ならぬ勉強を続けたとしても俺の体内時計は正確だ。


 きっかり午前6時29分に目を覚まし、俺が目を開けた数十秒後に午前6時30分にタイマーセットしてあった目覚まし時計がけたたましく悲鳴?をあげる。


『起こせ起こせーー♪ マサヒコが起こしてくれないと遅刻しちゃうぞー! 早く起こしてー! 起こすと喜ぶぞー! 嬉しいぞー!』


 目覚まし目的のはずなのに、俺が起きてる前提に録音した音声が鳴り響く。

 令和の時代にアナログな作りをした目覚まし時計のスイッチを押して俺はまどろんだを眠気を少しずつ解いていく。


(相変わらず、 かわよ……じゃない、 毎朝けたたましいな……)


 幼馴染の早生硝子わせしょうこの声を録音した目覚まし時計というより拷問道具だ。

 なぜなら……いや、一旦目覚ましは時計の事は忘れよう。

 硝子しょうこは俺が起こさないと起きない、というか意識を取り戻す事がない。

 彼女の両親には感謝されまくりだが、幼馴染で気が置けないとはいえ一人娘の部屋に年頃の男の俺が毎朝訪れる事に疑問はないのだろうか。


硝子しょうこは眠いからしょうがないとか言うけど、別に俺だって眠くないわけじゃない、ただ、寝坊とかそういうのをしたとか、だらしなく見られるのが嫌なんだ)


 眠気を払うようにベッドにある毛布を勢いよくはぎ取る。

 両手両足を高速で突き出すと毛布が空中に浮かび上がる。


 深夜の勉強がたたっていつもより眠いせいか、起床行為すらオーバーリアクションになりがちだ。


 素早く身を起こし、空中に浮かび上がった毛布をなるべくホコリが舞わないようにベッドに戻そうとしたその時だ。

 異変というか緊急事態、頭の中でエマージェンシーコールが流れる。

 毛布はそのままベッドの外に飛んでっちまった。

 部屋を見回すと、ベッドの近くに散乱する俺のじゃない、なんかモコモコした素材のパジャマの上下たち。


(ち! 俺とした事が、 油断しちまったぜ……)


 いつもだったら気づく、そして、居間のソファかなんかで俺は眠るだろう。

 繰り返すが俺は納得できない公式に苦戦して深夜まで勉強だ。

 ここまではオーケー?

 さっきから誰に話してんのかは知らんが、俺は納得したいんだ。

 今の状況に。

 なにがって?

 幼馴染で美少女と言われる事の多い早生硝子わせしょうこが下着姿で俺のベッドに横たわっているこの現状だよ。

 これって一緒のベッドて寝てたって事じゃん。

 気づけ、俺。


「起きろ! 俺のベッドに勝手に入って来るなって何度言ったらわかるんだよ!」

 

 うぅんと寝返りを打つ硝子しょうこ、いや寝るな。

 彼女の肩までかかる長い黒髪はまるで太陽の光を浴びているかのように、いや、実際に朝日を浴びてんのか。

 黄金色を含んだ黒髪が彼女の吐息にあわせてさらりと揺れている。

 少し寝ぼけているのか、薄目を開けかけているその様は人によっては間抜けに見えるはずなのに彼女にとってはそれすら愛らしくて。

 実際にきちんと開いている時の彼女のパッチリ二重の瞳には吸い込まれそうな魅力がある。

 事実高校に入学して間もないのに硝子しょうこの魅力にやられた男子学生の告白が相次いでるらしい。


 少し冷静さを欠いていて、冷たく怒っちまったとは思うが構うもんか。

 幼馴染で気が置けなくてゲームとかの趣味でお互いウマがあって。

 少しくらい怒気をはらんでたって大目に見てくれるよなって、いや絶対に悪いの向こうだからね!?


「うぅーん。 マサヒコおはよぅー。 いつも起こしてくれて感謝してなくもないよぅ お詫びにこれからも起こされてあげるぅよぅ。 むにゃむにゃ」


「いや、そこは普通に感謝しろよ。 お詫びになっていないお詫びはやめろ。 眠そうな奴がむにゃむにゃつってんの初めて聞いたわ……じゃなくて! 裸同然の姿で俺のベッドで寝るな!」


「ふわーぁ。 なによぅ今さらマサヒコのベッドがあったかくて気持ちいいのが悪いんでしょう? そしたらそんなモコモコのパジャマ着てらんなかったのー」


 全く悪びれる事はない。

 むしろ悪いのは俺のベッドとモコモコのパジャマだと言い張る美少女幼馴染。

 俺のベッドもかわいそうだが、硝子しょうこに選ばれて着られたであろうモコモコのパジャマも不憫でならない。

 もしかしなくても俺はモコモコが好きなんだ。

 

「知るか! 早く服を着ろ!……じゃないと……!」


「じゃないと……なぁにい? 幼馴染でも……下着姿をみて興奮しちゃう……?」


 枕で胸元を隠してはいても、超絶美少女幼馴染の異名を持つ(?)硝子しょうこの装備品は上下の下着のみ。

 なんか高校生にしてはすこし大人びて派手な気はするが防御力は皆無だ。

 ウエストから胸にかけての突然隆起する急勾配。

 織りなす谷間は俺の枕なんかじゃ到底隠せない。

 そのなんとも甘美で悩ましい光景を直視せざるを得なかった俺が発した言葉はーー。


「お前の下着だろうと裸であろうと誰が今さら興奮するか! 俺は先にシャワー浴びてくるから、起きたんならお前も早く準備しろよ!」


 気のおけない幼馴染とはいえあまりに、傲岸不遜ごうがんふそんな態度に怒りをあらわにして隠せない。

 ……といった虚勢を精一杯で装い、俺は毛布を投げつけて超絶めちゃカワ幼馴染(なんか増えてく)の裸体を隠す。

 「二度寝するなよ!」と声をかけると同時に部屋を出た。

 

 部屋を出て自室のドアを閉めて、朝からの騒動に頭を抱える。


(興奮しない……だと……! どの口が……!)


 イソップ物語じゃ古井戸に向かって王様の秘密を叫んでいたが、家の付近にある誰も使っていない古井戸に向かって叫んだらバレバレだ。

 だって家隣同士だし。


(オロローーン! 最近色っぽくなりすぎだよーーーーん!ふとももていうか色々全部丸見えやん! 硝子しょうこはタイプじゃないけど色々劣情れつじょうもよおすねん! 朝っぱらからそんなんあきまへんでーーーーー!)

 

 エコーを効かせながらの胸中の叫びは関東だけでなく、関西にも伝わるような表現になっている。

 関東育ちで関西には行ったこともないので完全にエセだが。

 

 心の中でムンク以上の叫びを終えた後、行水の如く冷水シャワーを浴びて俺は冷静さを取り戻す予定だ。


 

 ーー冷水シャワー中ーー


「冷たっ!」


 俺の体表に触れた冷水シャワーを思わず一瞬で沸騰させて気化させちまった。

 体温が3000度程になっちまっていて、血液を沸騰させていた俺には冷水シャワーが冷たすぎる。

 


 超絶めちゃカワSSR幼馴染(当社比)が起きてきちまう前に状況を整理だ。

 何を隠そう、俺は硝子しょうこがとにかく大好きだ。

 一生いつまでも側にいたい。


 でも、それはなんつーか家族的な意味で男女とかそういう意味とは違うんだよなぁ。

 

 だって万が一そういう関係になっちまって、別れたら俺は生涯の友達を失っちまうわけだろ?

 そんなんリスク高すぎくんってわけよ。


 硝子しょうことゲームとか漫画の話をしてる時なんて俺にとっちゃ幸せの絶頂。

 まさしくそのために生まれてきたといっても過言では無いくらい至高アンド至福の時なんだよなぁ。

 俺の両親なんて幼馴染同士で結婚したのに離婚したせいで全然会ってないみたいだし、俺だったらそんなの絶対に耐えきれない。


 だから……隠さなきゃならない。

 硝子しょうこに劣情を催してるなんて、きっと男子高校生っていう時期だけの一時の気の迷いだ。

 だから……俺は耐えきって硝子しょうこと添い遂げる!(家族的な、友達的な意味で!)


 だけど……だけど!

 

〇〇バキューン!が好きすぎて、俺はもう限界なんだよーーーーー!」

 

「呼んだ?」

 

「わ!びっくりした! よ、よんでないよ! あ、朝の絶叫タイムなだけ!」


 シャワー室の半透明なドアの前、洗面所で顔でも洗っていたのか、至高の御方である幼馴染から発せられた、清らかで透明感のある声が俺の思考を妨げる。

 というかもう起きてたのか、びっくりしすぎていつも日課に変な事してる感じになっちゃった。

 あー危なかった、音声に放送規制入れといて良かったー。


 そんな俺の動揺など知らんとばかりに硝子しょうこがドア越しに話し続ける。


「そう? タオル借りるよー。 マサヒコが洗濯したタオルってふかふかで気持ちいいから好きなんだよねー」


「い、いや、 普通に柔軟剤入れて洗濯して乾燥機にかけてるだけだよ。 硝子しょうこだって同じようにやればできるって」

 

「でも、四隅よすみしっかり合わせて綺麗にたたむのなんて私には難しいもん」


 なんか、こっちが素っ裸なのに会話続けられると妙な気分だな。

 さすがに硝子しょうこは既にパジャマぐらいは着てるだろうが、先程の強烈な下着姿の印象からか、ドア越しのシルエットでそのまさかを想像してしまう。

 あくまで平静を装って会話を続ける。


「せっかく綺麗にたたんでも硝子しょうこが片っぱしからテキトーに使っちゃうからなぁ。 いい加減折りたたむくらいやってくれよ」

 

「まーくんが一生やってくれるから大丈夫だもーん。 頼んだぞ! 幼馴染!」


「ショーちゃんらしいよ…………はぁ……しょうが……」


 天真爛漫を打算的に、そして小悪魔的に出す幼馴染の言うセリフ。

 こっちだって元より生涯の付き合い(家族的な意味で)を考えてるんだ。

 子供の頃の呼び方に突然切り替えられて、こちらも童心に帰って呼び方が切り替わる

 結局いつも通り硝子しょうこのペース、「しょうがないな」と言いかけた時だった。


「……あ、今のナシ」


「ん?」


 俺の言葉は遮られる。

 硝子しょうこの声が何かを我慢をしているような感じを含んだ気がする。

 ほんのワンオクターブ、幼馴染だからわかるぐらいの。


「タオルくらい自分でたたむって事! じゃあ先に行くね! シャワー浴びすぎて風邪ひかないように!」


 違和感を感じて言葉を返さないでいると、硝子しょうこはいつもの調子に戻っていた。

 ドタドタと慌ただしく洗面所を出て行ったであろう事を確認し、とっくに体を洗い終えていた俺も風呂場から出る。

 洗面所の洗濯カゴの上には硝子しょうこが使い終わったタオルが折りたたまれていた。

 もう洗濯するから別に折りたたまないでもよかったのだが、四隅よすみバラバラに折りたたまれているタオルを見て先ほどの違和感が更に大きいものとなって俺の胸部を圧迫している気がした。


「ショー、ちゃん?……別にタオルぐらい、俺が一生たたんでもいいのに……」


 少し冷えすぎちまったのか「ブシッ!」と、くしゃみがでる。

 朝っぱらから悶々としていた劣情れつじょうは、違和感によってモヤモヤとしたものと変わっていた。


 ……と思ったけど、俺はすぐ悶々と劣情れつじょうを催す事になる。

 しょうがない、それが俺の宿命、生き様みたいなモンなんだろう。


 ーーシャワー後朝食中ーー


「あははーごめんねー。 深夜までマサヒコの家でYouつべユーツベのゲーム配信見てて、眠いなーと思ったらベッドに潜り込んでたみたい……マサヒコのベッドが寝心地良さそうなのがいけないんだよー」

 

 悪びれない、どころではない。

 天真爛漫を装い、朝っぱらからあんな二つの巨大なモンを見せられたやり場のないリビドーを解放させる暇もなく張本人が俺の家の食卓についている。

 モコモコのパジャマを着て。

 なんていうか全身が毛玉の可愛い生物みたいだ。


 突然だが、大ピンチだ。

 

(俺はモコモコしたもんを見るとめちゃくちゃ触りたくなっちまうんだよーーーーーーん!)


 ましてやそれが愛していると言っても過言ではない大好きな幼馴染。


 突然目の前に舞い降りた超A級難度ミッションだ。

 パジャマのモコモコの部分を触る、それでいて硝子しょうこ劣情れつじょうもよおさない。

 両方やらなくっちゃあならないってのが幼馴染の辛いところだな。

 

 食卓には俺が適当に焼いて出した食パンとスクランブルエッグだ。

 無論、適当と言っても自他共に神経質と認められる俺の焼き加減は完璧だ。

 硝子しょうこの食欲を持ってすれば、秒で大気中からは消え去るだろう。

 そしたら、人のベッドに勝手に潜り込む非常識幼馴染とはいえパジャマで登校するだろうか?

 答えはノーだ。

 誰だってそうする、俺だってそうする。


 制服に着替えるため一度家に帰っちまうんだよ。


 そうしたら一緒に登校して同じクラスだから一緒に勉強して一緒に下校して、つまり……モコモコに会うチャンスってのは今晩までないかもしれん(あれ?十分チャンス多いんじゃ?)


 テレビから流れる朝のニュースに気だるげに長いまつ毛をうつむかせてぼんやりと顔を傾けている硝子しょうこ

 

 小気味よい小さく整ったアゴに比例して小さな口なのに、みるみるうち硝子しょうこに取り込まれて、食パンは形を失っていく。


「ま、マズイ! (そういえば硝子しょうこ)」

 

「マズイ? さすがに私だってマサヒコが作ってくれたものにいきなりそんな事言わないし、おいしいよ?」


 世間話からのスキンシップを考えていたはずの俺は動揺して本音と建前が入れ替わってしまう。

 それを聞いた硝子しょうこはきょとんと目を丸くしていたが、優しげな様子が可愛らしい。

 危うくさらに狼狽しかけるが俺はなんとか平静さを保つ。


「い、いや、 そういえば最近、頭痛がするって言ってだけど大丈夫か?」


「ああ……最近なんか肩こりがひどくって……あ、そーだマサヒコ」


「はいはい」


 神経質そうで仏頂面と言われる事の多い俺だが幼馴染と話す時は主人に尻尾を振る子犬のようだと言われる程ニコニコと話す。


(くっくっく。 かかったな硝子。 そりゃあそんだけ成長してたら肩がこって頭痛もしてくるだろうよ。 そんでもってここにはお前が気兼ねなく肩揉みを頼める相手。 そう! 幼馴染がいるって寸法よ! 肩だったらなんかそんなにいやらしくないし多分だいじょうぶだろ……だろ? そのパジャマ全身の素材がモコモコだからこっちは肩だって十分モコモコを堪能できて、硝子は肩こり改善。 win-winってわけだ。 そりゃ孔◯も転生してパリピにならーな)


 完璧な調略に偉大な軍師と自らが同等に立ったような気分。

 そんな時だった。


「マッサージガン最近買ったんでしょ? あれ貸してよ。 家で使うから」

「うん。 いいよー」


 硝子しょうこの要求に秒どころか人間が持てる最大に近い反応速度で返事する俺。


(あっ! し、しまったーーーー!)


 硝子しょうことは子供の頃からゲームソフトから漫画の貸し借り、幾度となくおこなってきた。

 家が隣同士だし、貸した物に関しても最悪お互いの家に行けばあるから貸し借りの概念も結構曖昧あいまいになってしまう。


(つまり、硝子しょうこの事が大好きな俺は特定の理由がない限りは脊髄反射で持ってるもの貸しちゃうんだよーーーーーん! 不良品だったとか言えばよかったーー!)


 所詮、俺は日本にどこにでもいるただの高校生。

 中華の偉人と比べるべくもない。

 その結果。


「はいこれ。 肩凝り良くなるといいねー」


 朝食を終えて家に帰る硝子しょうこ

 デパートでもらった紙袋にマッサージガンを詰めて手渡してから俺は笑顔で見送った。

 左脳では大好きな幼馴染の肩こりが改善される事を祈り、右脳では血涙を流しながらーー



 ーー硝子しょうこ視点ーー


 突然だけど私には時間がないんだよ。

 マサヒコにはこれからも言えないし言うつもりもないかな。


 マサヒコのベッドに忍び込んだのも、シャワー浴びてる横でわざと話しかけたりとか、マサヒコが好きそうなパジャマでうろつくのはワケがあるの。


 私はマサヒコに女の子として意識して欲しいんだよ。

 それが私の目的だし、テーマかな。

 

 タイプじゃないけどマサヒコは意外とスラッとしててスタイルはいいと思う。

 几帳面というか、神経質というか、部屋の中にホコリ一つある事も許さないし、大人しそうに見える割に、表だって揉める方じゃないけど、納得できない事は先生に対しても一歩も引かなかったり。

 ズボラな私とは意外にもウマがあっちゃって友達としては上手くやれていると思う。

 ゲームを貸し借りしたり、勉強を教えてもらったり、どっか旅行に行ったり……お互いが好きになった人の話をしたりーー


 ずっとそうなんだと思ってた。

 そうしていきたかった。

 そうなればどんなに幸せだっただろうか。


 でも現実にはどんなに望んだってもうそんな未来ありえない。

 だから私はマサヒコを誘惑するの(?)


 誘惑して誘惑して世界で一番いい女は私だってマサヒコに思わせたいの。

 

 ぶっちゃけ私の事かわいいって思ってるの知ってるからね?

 今日だってスンって澄まして興味のないフリしてるのミエミエなんだからね。

 その仏頂面、絶対に剥がしてやるんだから!(私といる時は大体ニコニコしてるけど)


 

 ーー正彦まさひこ視点ーー


(なんだこのプレッシャーは?)

 

 突然、背筋に生じた波動を感じて俺は寒気を覚える。

 こういう時のやばい予感は当たるんだよな。

 幼馴染ニュータイプ同志だけが持つ特殊な感性。

 硝子しょうこだ。

 奴が、家に来る。


 既に時刻は21時を回り、俺は日課としていた炊事、洗濯、掃除、学生の本分である勉強の予習復習を終えて一息ついている所だ。


 硝子しょうこはそのタイミングでは家に来ない。

 ルーティンワークを崩される事を何よりも嫌う俺に対して、そのタイミングに誘惑できないからな。


 勘だが、あいつは最近なぜか俺に女の子として意識させようとしているフシがある(だって誰にでもあんなんしてたら普通に心配しちゃうんだけど)


 だがな硝子おさななじみ

 俺はお前の事が世界で一番大切だし愛してるが、お前の事は女の子として見ない。

 それが俺のテーマだ。


 決意を胸にリビングにあるテーブルに腰掛け、どこかの特務機関の指令ばりに顔の前で両手を組みながらテレビを見ている時だった。


 ガチャガチャと玄関の方から音がしたかと思うと同時にズカズカとリビングのドアを無遠慮に開ける人影ーーそう、硝子おさななじみ、合鍵ってわけさ。

 違和感を感じ俺はテーブルの上に置いたお茶に口をつけて冷静を保つ。


「おつかれーー! 暇だったから来たよー」

 

 沈んでしまった太陽の代わりに周囲を照らさんとばかりに、ニパっと笑みを浮かべた美少女、もとい硝子しょうこが現れた。

 その笑顔も破壊力抜群ではあったが、その下の格好に度肝を抜かれて「ブッ!」と俺は口から飲みかけたお茶を吐き出してしまう。

 それでも俺は努めて冷静に冷静さを務めた(?)


「お疲れーって……どうしたんだその格好? 今から新体操でもするのか?」


 ゲン◯ウスタイルで丁度、顔の前に両手を置いていた俺は口元がにやけてしまいそうなのを必死で隠し続ける。

 

 硝子は昔から新体操をやっている。

 その格好についての劣情は今後後述していく事になるだろうが、今は現状の整理が必要だ。

 現在着ている白のTシャツの丈は短く、スラッと筋の入った腹筋が見え隠れしている。

 しなやかに伸びた肢体をぴっちりと黒のスポーツレギンスで太ももを隠しているはずなのに。

 その姿は悩ましく、艶やかに成長した魅力をむしろ全面に押し出しているかのようだった。

 なんかイン◯タとかで見る筋トレ女子、劣情レベル128(Lv上限99)限界突破って感じだ。


「体操の練習はさすがにしないよう。 最近肩こりがひどいからヨガを始めたんだー。 家だと邪魔がられるからマサヒコの家だったら平気かと思って」


「平気なわけないだろ(ご褒美です) 母さんも家にいないからリビングも広いとはいえ、俺だって今はテレビ見てるし(へそばっか目にはいちゃって見れてねえよーん)」


「ええー! お願いだよー! ヘッドホンつけて静かにやるからさぁ! ね!ね! それにそのKYUーっていう映画はもうマサヒコ何回も見てるじゃん!」


「はぁ……わかったよ。 とりあえず俺はテレビ見てるから特に一緒にヨガやったりはしないからな」


「うん! 全然いいよ! ありがとうーやっぱマサヒコは優しいから大好き!」


 「大好き」という表現に胸中で感涙しながら激しく同意、そして俺は現在の状況を冷静に分析する。


(やはり、来たか。 なるほどね。 何か企んでるとは思ったがまさかエ◯ジムウェアを着た状態でのヨガとはね。 認めるよ硝子しょうこ確かに予想外の高劣情ハイ•エロポイントだ。 だがね……俺が何の対策もしてないとは思わな……ぐわーーー!ふっつーにこんなん劣情催れつじょうもよおすわ! なんやねんこれ、わ、わ、もう始めちゃった、Tシャツの裾から胸元のキャミ見えんのなんてバッカそんなんもう下着やん!)


 既に持参したタブレットで動画を見ながらリビングのフローリングの一部を陣取ってヨガを実践する硝子しょうこ

 冷静に分析しきれなかったが俺には武器がある。

 

(俺はモフモフした犬が大好きなんだよーーん!)


 今テレビで流れているのは映画『KYUー』

 主人公のゴールデンレトリバー犬KYUーが主人に先立たれた事を理解しているのかしていないのか、ずっと駅で主人を待ち続けるという忠犬とはかくありたい映画だ。(最後は主人が転生復活してハッピーエンド)


 俺はこの映画を見ると嗚咽入り混じって何度となく泣いてしまう。

 今はまだKYUーと主人は幸せに生活している冒頭段階だから泣きポイントが少なく、思わず劣情を催しちまったが、クライマックスならば俺は涙でそんな暇は無くなっちまうって寸法さ。

 甘かったな硝子しょうこ

 タイミングが悪いよ。

 心の中で高笑いを上げて決意する。


(さーて。 行くかね。 化け物退治)

 

 仏頂面と言われる俺だが、幼馴染には感情を揺さぶられる。

 最大限、スンっとした表情でテレビの視界の端に映る劣情モンスターに果敢に挑んでいくのだった。

 

(わああ、 あんなにぴっちりとしたレギンスでお尻突き出したポーズしちゃってるよおお。 なんか汗かいてるのがますます……うわわああ)


 ーー硝子しょうこ視点ーー

 

(ぷぷーーっ!全然取り繕えてないじゃん!マサヒコ!)


(さっきから視界の端で私の方をチラチラと見えてんのバレバレなんだから!)


 正直言って私もこの格好は恥ずかしい。

 普通に考えて、常識的に考えてこんなおへそ丸出しの状態でお尻を突き出したポーズを取ってアピールしたりするのは幼馴染じゃないよ。

 痴女だよ。


 そう思うと突然、自分自身の行動にいくつもの疑問が湧きあがってくるけど、動画に合わせて片足を天井に突き出しながら地面に両手を伸ばした状態のポーズを続ける。


(なんとしてもマサヒコを誘惑しなくちゃならないんだから)


 そう思い続けて、羞恥心をプライドでなんとか押し殺す。

 マサヒコは今お茶を飲んでるフリをして全部口から溢れている事に気づいてない程動揺している。

 だけどこの程度じゃ、最後のボーダーライン『映画に集中してたから全然気にならなかったよ』のスタンスが取れるくらいの動揺っぷりってところかな(?)

 つまり、まだ私の勝利条件(?)は整っていない。


 マサヒコの狙いはわかってる。

 この映画を見てボロボロに泣く事で、自身に起きた劣情をウヤムヤにする作戦、だって事くらい。

 伊達に生まれた時からほぼ一緒にいないんだよ。

 

 マサヒコが好きな映画、泣いちゃう映画(うっかり見ちゃうと私も泣いちゃうからヨガの画面に集中しないと)……そして!


(マサヒコはKYU-を見るのは4回目! そろそろ慣れてきちゃってボロボロに泣けるはずがないんだよ!)

 

 脳内の覚醒によってギラギラと目を輝かせている自覚はあるよ。

 それでも悩殺的なポーズは崩さずにチラリと視線をマサヒコに向けると疑問符めいた表情が窺える。

 

(マサヒコ。 『あれ?なんか思ったより泣けないな』 じゃないよ。可愛いかよ。 人はね。 どんなに好きな作品だとしても初回を超えられる感動は残念ながらないんだよ。 そして私はここで手を緩めない!)


 体温が上がり、汗で張り付き始めたTシャツをおもむろに脱ぎさって上半身は胸元部分だけを隠すキャミソール一枚だけとなっている。

 自分で言うのもなんだけど、肩や背中が丸見えの状態で汗が滲んでいる谷間なんてかなり劣情を催すはず。


(さぁマサヒコ!ドンとこい! その劣情れつじょう、受け止めてあげる!(?))


 必勝の確信を持って、微笑(半笑い)を浮かべて振り向いたその先に私が見たものそれはーー

 ボロボロに泣き崩れるマサヒコの姿だった。


(そんなバカな! 同じ映画で一体何回感動できるというの!? ピュアすぎる!)


 

 ーー正彦まさひこ視点ーー


 映画がクライマックスを迎え予定通り嗚咽混じりでボロボロに泣き崩れる俺。

 こうなってしまっては劣情を催すどころではない。


 硝子しょうこも不思議そうな表情を浮かべていても、ヨガを終えてTシャツを羽織り直し、家に帰る準備をし始めている。


 今頃硝子しょうこは『そんなバカな! 同じ映画で一体何回感動できるというの!? ピュアすぎる!』なんて考えてるんだろうな。

 ああ、そうさ。

 さすがにそこまでピュアじゃない。

 4回目ともなれば泣くのはキツかったさ。(いい映画だけど)

 だけどな硝子しょうこ

 お前がそろそろ俺が泣けなくなるタイミングを理解していたように。

 

 

 そう、俺たちは生粋の幼馴染。

 お互いが何を考えてるかなんて手に取るようにわかる。


 だが硝子しょうこが今日、このタイミングで来るのは分かっていたが何を企んでいるかまではわからなかった。

 俺の好みに合わせたのかは知らんが、Tシャツを脱がれてキャミソール姿になった時はブラジャ◯を見ちゃったと思える程のラッキースケベを感じたぜ。


(俺がだったらな……)


 俺は嗚咽混じって泣きながら、腹痛を耐える。

 というより俺はお腹に激痛が走るあまり泣くのを止められないのだ。

 食後に大量に飲んだ下剤によって活発化されている俺の腹部の反応に抗っているのだから。(薬剤は用法用量正しく守って飲みましょう)

 

(中々に劣情を催させてもらったが、今回は俺の勝ちのようだな硝子しょうこ。 いた、いた、いたたたたたた、痛い! ちょっとそろそろもう限界! ショーちゃん悪いけど早く帰ってくんねぇかな!? また明日起こしにいくからさ!? あああああ!)


 感情の波ではない、腹痛という絶え間なく押し寄せてくる大洪水に人類が作り出した尻という防波堤は頼りなすぎる、決壊寸前って奴だ。


「……マサヒコ……えっと、 ありがとね。 私そろそろ帰るね夜遅いし……」


「うん……ぅえぇ……うええん。 お、送ろうか?(む、無理ー、だ、だってもう、もう……) びえええん」

 

「いや、 隣だし大丈夫だよー。 悲しい時は無理せずに泣いていいんだからね……それじゃおやすみ」


「うん、うん。 びええんおやすみー」


 リビングのドアを閉めて、玄関から硝子しょうこが出ていったのを確認すると一目散に俺はトイレへ駆け込み、流れるような動きでズボンを下ろして便座に腰掛ける。


(間に合った……のか?)

 

 神経質な俺の事だ。

 この後ズボンやら、さっきリビングで座ってたイスとかは入念に洗うだろう。

 何か、何か大切な物を失った気がする。

 それが俺の最も大事な存在でない事を祈るばかりだ。


(やっぱり……漏れちゃってんの気づいてたから帰ったんだよね……いつもより早く帰ったし……)


 だが俺は虚空へ向かって拳を振り上げガッツポーズを決める。


(九死に一生……いや、百回やって一回勝てるかどうかのキワどい勝負だった……だが……)


(勝ったのは……俺だ!)


 電気をつける暇もなく駆けつけたトイレだ。

 冷たく薄暗い密室にブリ音こだまする中、俺は涙を流しながら勝利の美酒に酔いしれていた。


 だから、この後も俺の高校生活で繰り広げられるであろう劣情バトルなんざ今の俺には些細な事だった(はースッキリ!マジでお腹痛かったー)

 

 ちなみに俺が大好きな幼馴染ライバルはあと二人いる。


 神から賜った三つの至宝を賜った俺。

 それを守り抜くために、今後一度たりとも劣情に負ける事は許されない。


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