第一章 はじまり

一章 序

 人類の前にホロゥが初めて姿を見せたのは、二十一世紀最初の夏、場所はカナダのトロントだった。

 その日、人類は突然現れた正体不明の敵との終わりなき悪夢の戦いの日々に、何の準備もなく放り込まれることとなったのである。

 その正体について、様々な憶測が飛び交った。

 エイリアン。どこかの国の生物兵器。自然発生した新種の生物。増えすぎた人類に対する自然の調和による産物。

 地球上の動植物の姿を模している奴らの姿から、エイリアン説はすぐに消えていたが、その正体は今でもほとんどが謎に包まれている。

 出現する際に渦のようなものを伴うことから、別世界の生物、というなんとも非科学的な説が最も有力という世も末な現状ではあるが、実際に地球は滅びようとしているのだからそのような説も正しく思えてしまう。が、奴らの正体についての論議がこの文書の主目的ではないため、ここでは割愛させてもらおう。※1

 いずれにせよ、この時代、ホロゥなどという化け物が出現するなど想像もしなかった世代の人たちの声がほとんどだ。

 だが……ある意味、この章の証言は幸福だと言えるだろう。

 この時代の人類にとって、ホロゥとはまだ対処可能な存在だったからだ。

 たしかに、初期はホロゥへの対抗策は存在せず、世界人口は急速な減少を見せた。

 しかし、シグルドリーヴァの登場を節目に、世界中でワルキューレたちが覚醒して段々とホロゥは絶対的な恐怖の対象から、対処可能な怪物という立ち位置に引きずり下ろされていったのだから。

 人類はまだ一枚岩ではなかったが、それでもいつかは一つとなって再び地球を自分たちが安心して暮らすことができる星に戻すことができると信じられていたからだ。

 なぜなら。

 人類は、まだ奴らを知らなかったから。

 ウルトラ級ホロゥという、どうしようもない理不尽と絶望に出会っていなかったから。


 ――この章では、人類がホロゥと遭遇した悪夢の始まり、そして真の絶望を知らない幸福な時代を生きた人々の証言をまとめて紹介しようと思う。


※1・ホロゥの正体についての仮説や生物学的調査結果については、政府発行の公式教本である『新式生物学概論』を参照してほしい。


(中央議会検閲済み)

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