第3話

輝元は笑顔で秀秋、そして秀秋が隣へと呼んだ平蔵をもてなす。

「ささ、平蔵殿。お主も酒を飲むか?」

「え……、ええ、たしなむ程度でございまするが」

平蔵はそう恐縮しながら言う。

「そう恐縮することはないぞ」

輝元は朗らかに笑っている。


宴が進み、平蔵も少し酒が回って来た。

彼……もとい秀秋は上機嫌に平蔵へと酒を進めたせいである。


「ところで輝元様……」

「おう、いかがなさった?」

「……恐縮ながらこの平蔵、学がございませぬ。その為お聞き申し上げたく」

「……学がない、とは誠か?」

「はい。ずっと家のことに従事しておりましたゆえ」

「そうかの? 言葉遣いに品を感じるのう」

輝元は首をかしげる。

「実を申しますと……、その、宗永様に教育をしていただき……」

平蔵は恥ずかしそうに赤面している。

「だが、それは努力をしてきた証拠でないか」

輝元は笑顔で平蔵を褒めた。


「ところで、聞きたいこととはなんじゃ?」

「ええと、義理のいとことは一体、どういった意味でございましょう?」

「ああ、そのことか」

秀秋と輝元は頷く。


「それはの……」

「はい……」

「そのままの意味であるが」

秀秋がバッサリと言う。

平蔵は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「まあ、正確に言うと、ワシは義父上に育てられたことは知っておるか?」

「はい……、先代の……隆景様のことでございますな?」

平蔵はしっかりとした口調で答える。

「その通りじゃ」

「隆景叔父上は、秀秋を養子として育て、今に至る。一方で、ワシの父上と隆景叔父上は実の兄弟だったんじゃ。毛利の血の存続の為に、小早川家に養子に入ったのが、三男坊であった隆景叔父上でのう」

「だから、義理のいとこということになるのでございますね?」

「そういうことじゃ」

輝元は上機嫌で言った。


「もっとも、戦上手だったのはじじ上様が主で、父上は内政が得意じゃったが、ワシが十歳の時に急逝してのう……」

「そういえば、隆元様は早逝だったとは聞いておりましたが……」

「そうじゃ。隆元叔父上は食中毒と聞いておる」

「ああ、会食の直後にのう……」

輝元は少し寂しそうな顔をしていることに平蔵は気が付いた。


「そういえば、十歳ということは……」

「そうじゃ、元服前の話じゃ。父上ともっと過ごしておきたかった、と今更思うんじゃ。父上は遠征なども多かったし……」

輝元は苦笑いしながら吐露する。


平蔵は少し輝元の気持ちが分かる気がした。

平蔵自身、父親は母親が妹を妊娠中に戦で戦死したのである。


「そういえば、平蔵。お主の父上はいかがした?」

秀秋は酔った勢いもあり、少し笑いながら言う。


「父は……、その、戦で……」

平蔵はそれだけしか言えずにいた。

「さようか……」

秀秋の口を手で押さえながら、輝元は言う。

「すまんのう、平蔵。秀秋も悪気はないんじゃ」

「ああ、いえ。大丈夫です、お気になさらず」

平蔵は苦笑いで両手を振る。

その様子を、輝元は心配そうに見ていた。

そう言ったところは、何となく隆景や隆元の気遣いと重ねてしまったからである。

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