第2話

名島城(現在の福岡県)から、伏見までの道のりはとても長かった。

「山口様……。顔色が優れませんよ?」

「……黙っておれ」

平蔵は注意を受けた。

というのも、名島城から本州に着くまで、船に乗る必要がある。

半分くらいの兵たちは、船酔いでぐったりとしていた。


「いつまで続くんじゃ……、この旅は……」

「うぅ……、気分が悪い……」

ぐったりとした兵たちからは、弱音ばかりが漏れてくる。


「殿は大丈夫でございますか?」

「ああ、ワシは問題ない」

彼は笑っている。

というより、笑いながら酒を飲んでいる有様である。

さすがに平蔵は指摘を入れるべきか悩んだ。


「しかし、こうも弱いものばかりとは思わなんだ」

「船に酔ってしまったようですな」

「左様か」

「殿は、船にも酒にも酔わぬようですな」

平蔵は思わず思ったことを言う。


ハッとして、口を閉じる。

「よいよい」

彼は笑って言うだけである。

「……本当のことじゃ」

彼は少し元気なく笑っている。

平蔵はその様子を見て、黙って傍にいる。


「平蔵」

「は、はい!」

「やはり、お主はワシの隣で護衛にまわらんか?」

「そ、それは……、私なぞを隣に置いていてよろしいのでしょうか?」

「ワシは平蔵の方が安心もできる。なにより、ワシの友だからこそ、近くにいて欲しいと思うのじゃが」

「ご意見は確かに。しかし、伏見に着くまで考える時間を下され」

「ああ、良いぞ」

平蔵の申し出に、彼は笑顔で応じた


伏見に行く道中、安芸の国へと立ち寄った。

彼は少しバツの悪い顔をする。


「おお、秀秋」

「輝元様……」

「また酒か?」

輝元は苦笑いしながら言う。

秀秋は実質毛利の血は一切引いていない。

輝元は、彼の母である尾崎局や妻から酒に関して厳しく管理されている。

というのも、毛利家はどうやら酒による病が発症しやすいという。

先々代当主であった、毛利元就は酒をたしなまなかった。

さらに、元就の父と兄は酒で体を壊し、若くして逝去している。


「まあ、酒をたしなむことは止めはせぬが……、ほどほどにしておくようにの」

輝元は苦笑いでそう告げる。

「は、はい……」

「隆景叔父上も結構気にしておったのう……」

その言葉に、秀秋は戸惑ったような顔をする。

「お主には、隆景叔父上同様、毛利を支えてもらう手伝いをしてもらいたいと思っておるじゃ」

輝元はそう言って笑っている。


輝元はその日、小早川秀秋の軍を快くもてなした。

「今日は長旅ご苦労じゃった!」

輝元がそう言って回るものだから、秀秋の兵たちも士気が上がっていた。


伏見まで、遠い道がまだ残っている。

だが、彼らは輝元の計らいでゆっくり休息を取ることができた。


「殿……、感謝申し上げます」

「水臭いことは言うな。わしらは、義理とはいえ従兄弟にあたるじゃろう?」

輝元は笑って言うのであった。

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