不敵
「お、おい!もういいだろ?」
そう言って俺は島百合を止めた。
「…うん。そろそろいいかな」
そこは人気のない屋上に向かう階段だった。
「どうしたんだよ島百合」
俺は素直に感じた疑問を島百合にぶつける。
「うん…こうすればあの女…下宮さんに後悔を植え付けられると思って…」
「どうしてそんなことしたんだ?」
正直言って今の島百合は俺の知っているような島百合では無い。
「それは…彩乃君があの人に傷つけられたから」
「島百合…前も言っただろ?美奈は何も悪くないんだ。俺がただ失恋しただけだ。だからあんなことしなくていい」
島百合の目を見てそう伝える。
「どうしてあの女を庇うの?どうして?そうか、真弥翔君はおかしくされちゃったんだ。私が治してあげなきゃ。真弥翔君を救ってあげられるのは私だけ。そうだよ。私だけなんだ」
「し、島百合?」
島百合は聞こえないくらいの声でブツブツと何かを言っている。
「あぁ、やっぱりあの女は邪魔だな。どうしようかな。どうすれば真弥翔君の前に二度と現れないかな。殺す?いや、リスクが高すぎる。監禁する?やっぱりそれもバレる可能性が高い。…真弥翔君が私の彼氏だと思い込ませるしか無いか。それにもしかしたら真弥翔君も私のことを好きになってくれるかもしれないし」
「お、おい?島百合?」
「え、あ、な、何?」
再び呼びかけることで島百合は俺に声をかけられていた事に気づいた。
「大丈夫…か?」
「うん。私は大丈夫だよ?」
「な、ならいいんだけど…」
なんだか今の島百合を放置しておいたら大きな問題を起こしてしまうような気がする。…ここは少しキツく言っておかなければならない。
「なぁ、島百合」
「何?」
「もしかしてお前、前俺に言った復讐ってやつをしてるのか?」
そう言うと島百合の目が見開かれた。
「…そんなことしてないよ」
「なら俺の目を見て言ってくれ」
島百合は後ろめたいことがあるかのように俺から目を逸らした。
「……」
島百合は何も答えない。
「なぁ島百合。俺は本当に美奈のことに関しては仕方ないって割り切ってるんだ。だから今更この話を掘り返さないでくれないか?」
「…あの女のことに関・し・て・は・?なら家族は憎いんだ。そっか。そうだよね。やっぱりそうなんだ。当たり前だよね。…そっかぁ、ならその人たちになら…いいよね」
その時、島百合の顔が酷く歪な笑顔になったように見えた。
「うん。分かった。もう何もしない」(今はね)
「分かってくれて良かったよ。じゃあ俺は教室に戻るから」
そう言ってその場を離れた。分かってくれて良かった。
「待っててね。真弥翔君。私があなたを苦しめたクズを…ふふふ」
【あとがき】
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