選択を間違えた馬鹿な女
私は高校に入学した時、まったくクラスに馴染めていなかった。登下校も独りだしクラスで会話をするような友達もいなかった。
その日も1人でご飯を食べていた。そこは普段人が来るような場所では無い校舎裏のベンチだった。
1人で黙々とご飯を食べていると私に声をかけてくる人がいた。
「お前もここでご飯食べるのか?」
いきなりそんなことを言われた。名札の色で上級生であるということが分かる。
「まぁ、はい。そうです」
なんなんだいきなり。1人で食べてるんだからそっとしておいて欲しい。私はそんなことを思いながらまたご飯を食べ始めた。
すると先輩は私の横に腰かけた。…なんで隣に座るの?
そして私の事なんて気にしていないかのようにご飯を食べ始めた。この人よくそんなことできるな。
「…なんで隣でご飯食べるんですか?」
「なんでって、ベンチがひとつしかないから」
確かにここにはベンチがひとつしかない。なら違うところでご飯を食べればいいのでは?
「ならここで食べなくてもいいじゃないですか」
私は少しイラつきながらそう言った。
「俺だってここでたまにご飯食べてんだからいいだろ?それにここは公共の施設だ。誰かにそんなことを言われる筋合いは無い」
私はもう諦めた。この人には何を言っても無駄だと感じたから。
「お前、名前は?」
先輩が急にそんなことを聞いてきた。
「…宮川 鈴音です」
「そうか。俺は彩乃 真弥翔だ」
いや聞いてないし。
「お前なんで1人でご飯食べてるんだ?」
っ、この人にはデリカシーというものがないのか?少し考えれば分かるだろう。
「…一緒に食べる友達がいないからですよ」
自分で言っていて惨めになる。
「ふーん」
ふーん、って。人の話聞いてなんなのその態度。
私は彩乃と名乗った先輩に憤りを覚えていた。
「まぁ無理に友達を作ることもないだろ」
そして私の中で何かが切れた。
「あ、あなたに何がわかるんですか?!何も知らないくせに!知ったような口きかないでください!」
私は生まれて初めてこんなに大声を出したかもしれない。それほど大きな声を出した。
息を荒くして肩を上下させていると先輩が口を開いた。
「分かるよ。俺だって友達なんてほとんどいないからな。だからここでご飯食べてるわけだし」
「っ、それは…」
私はなんと言っていいか分からなくなった。
「あぁ、別に気を使わなくていいぞ。俺だってお前に気を使ってないからな」
「…ぷっ!なんですかそれ」
先程まで怒っていたのが馬鹿らしく思えてしまった。なんなんだこの先輩は。
「まぁぼっち同士仲良くしようぜ」
「嫌ですよそんなの」
それが彩乃先輩と初めて話した日のことだった。
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「んん?お?彩乃先輩じゃないですか!」
私は夕方、散歩をしていると見知った人物を見かけた。彩乃 真弥翔先輩。
「…宮川か」
彩乃先輩は明らかに元気が無い。一体どうしたんだろうか。心配になってしまう。
「どうしたんですか?そんな死にそうな顔して」
本当はとても心配だ。でも私は真剣に心配するようなキャラじゃない。これが私と先輩の関わり方なんだ。
いつもなら先輩も軽く話してくる。
「…あぁ、ちょっとな」
でも今はそんな雰囲気じゃなかった。
「…そうですか。聞きますよ?話」
だから私もいつものキャラをやめた。今はきっと真剣な場面なはずだから。
すると先輩は少し間を開けて話し始めた。
「…俺、さ。好きな人に恋人ができたところを見たんだよ」
私はその話を聞いた瞬間、顔が強ばってしまうことを自覚した。なぜ強ばってしまったのか。それは先輩に好きな人がいたという苦しさとその人には既に恋人がいるという安心感から。
そう。私は先輩が好き。付き合いたい。恋人になりたい。
「それは…辛いですね」
私は複雑な気持ちでそう言った。
「…悪い。こんな話して。もう帰るよ」
先輩がそう言って立ち上がろうとした時
「…先輩。私じゃ、ダメですか?」
私は自然とそう言っていた。
「…は?」
先輩は呆けたような声を出していた。
っ!?私は何を言っているんだ。
「私じゃ、ダメですか?」
でももう後に引けなくなってしまった。私はもう一度同じことを言った。もう何も考えられない。顔が熱くて死んでしまいそうだ。
「俺なんかで…いいのか?」
だから私は先輩が言った言葉を聞き逃してしまった。
「…な、なーんてね!じょ、冗談ですよ」
一気に不安になった私はその言葉を無理やり冗談だとすることにした。
そうすることでこの発言を一旦リセットすることにしたのだ。でもこれがいけなかった。
「そうか」
「あ…」
先輩は先程までとは違う抑揚のない声でそう言った。その瞬間悟った。私は間違えてしまったのだと。
「話聞いてくれてありがとな。帰るよ」
先輩はやはり抑揚のない声で淡々とそう言う。
「先輩!ま、待って!」
焦った私は必死になって先輩を呼び止める。
「じゃあな」
でも先輩は1度も立ち止まることなく、1度も振り返ることなく去ってしまった。
「先輩!」
私のその声だけが空に響いた。
どうして。どうして私はあの時、自分の発言を冗談なんかにしてしまったのだろう?考えればわかる話だ。先輩は好きな人に恋人ができるという辛すぎる現場を見てしまったのだ。そこで私のあの冗談。絶対にしてはいけない選択肢だった。
「あぁ…ああぁぁぁ!!」
とめどなく涙が溢れてくる。自分のとった行動に激しく後悔する。どうして、どうして私は空気が読めなかったんだ。
先輩にあんな顔させて…私は一体何がしたかったの?これほどまでに自分を嫌いになったことは無い。最低だ。こんな女見限られて当然なんだ。
そう頭では分かっている。でもどうしても先輩に対する気持ちが収まらない。見限られたというのに先輩に対する思いは収まるどころか大きくなっている。
なんで?なんで私はこんなにも馬鹿なの?
「せん、ぱい…彩乃、先輩…」
私はただただ泣くことしか出来なかった。
本当に私は馬鹿な女。
【あとがき】
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