花の心情

私は今、全身を水浸しにしながら彩乃君と向き合っていた。全身が水浸しになってしまったのは川に飛び込んだ彩乃君を引きずり出したからだ。


何故飛び込んだのかは彩乃君が話してくれた内容で理解した。むしろよくここまで耐えられたものだと思った。それほどまでに聞いた内容は醜悪で吐き気を催すものばかりだった。幼馴染さんの話に関しては彩乃君も仕方ないと言っていたが…だがそれ以外は違う。彩乃君の心を踏みにじる行為ばかりだ。


だから私は1つの提案をした。


「なら復讐しない?」


普段の私なら絶対に言わないであろう言葉。でも私はどうしてもその人たちを許せなかった。私の好きな人にそんな扱いをして…正直殺してやりたいくらいに憎い。


「ふ、復讐?」


目の前の彩乃君は戸惑ったような表情をしている。当たり前だよね。私、彩乃君の前ではそんなこと言うような子じゃなかったもんね。


「うん…復讐。したくない?」


私はもう一度聞き返した。すると彩乃君は悩むように顔を俯けた。


「…正直、憎くないと言えば嘘になる」


そうだよね。憎いよね。


「でも…それでも今まで俺の大切な人たちだったんだ。その人たちに復讐なんていうのは…なんて言うか違う気がするんだよ」


…優しいね彩乃君は。ううん。優しすぎるんだよ彩乃君は。


「…そっか。でも復讐したくなったら何時でも言ってね?その時は絶対に協力するから」

「多分そんなことないと思うけど…ありがとな。島百合」


彩乃君はそう言って弱々しくはにかんだ。あぁ、愛おしい。そんな彩乃君を自殺未遂にまで追い込むなんて…許せない。彩乃君が復讐に乗り気じゃなくても私が行動を起こしてやる。


この時、真弥翔は気づいていなかった。花の目の奥に宿る黒い感情に。その目は目的のためなら手段を問わない人間と同じ目をしていた。


そしてここで1つの疑問が浮かぶ。


「あの…彩乃君。今日はどこで寝るの?」


彩乃君の家族はもうダメだ。腐りきっている。あんなところに彩乃君を返してしまってはまたいつ自殺しようとするか分からない。


「あー…ネットカフェにでも泊まるよ」

「…そ、それなら」


そこまで言って私は言葉を止めた。まだ私と彩乃君の仲はそれほどいいとは言えない。この状態で彼を私の家に誘ったら軽い女だと思われてしまう。そんなのは絶対に嫌。私の目には彩乃君しか映っていないのだから。


「…気をつけてね」

「あぁ、ありがとう。それじゃあ島百合も気をつけて帰れよ」


彩乃君が私のことを心配してくれている。それだけで心臓が鼓動を速める。嬉しい。


「うん」


私は彩乃君の言葉をしっかりと噛み締めるように返事をした。


彩乃君の背中が見えなくなった。


「彩乃君。あぁ、彩乃君。好き。大好き。いつもの少し申し訳なさそうに話しかけてくれる彩乃もいじらしくて可愛いけど、弱っている姿はもっと可愛かった。はぁ、彩乃君を独り占めにしたい。…なのにあの女」


あの女というのは彩乃君の幼馴染のこと。彩乃君は仕方ないことだと言っていたけどやっぱり許せない。彩乃君から愛情を向けられているのに…憎い憎い憎い。私はどれだけ愛されたいと感じてもそんな目を向けてくれることはなかったのに幼馴染

いうだけで特別な存在になっているあの女が憎い。


「…あの女にはどれだけ彩乃君が大切な存在だったのかを思い知らせてやる」


そこにあったのは恋する乙女のような純粋な想いではなく、憎き相手に向ける言いようもない憎悪だった。


「ふふっ、ふふふふっ。彩乃君。あなたは何もしなくていいからね。私が全てを終わらせてあげるから」


私はずっと本を読んでいた。そのおかげで知識は沢山ある。今がその知識の使い所だ。












「待っててね」



【あとがき】


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