提案
「━!━て!」
真っ暗闇の意識の中、遠くから声が聞こえてくる。なんだよ…もう寝かせてくれよ…
そんなことを思っていたが一向に声は収まらない。それどころか大きくなっていく。
「━て!起きて!」
「っ!」
そこで俺の意識は覚醒した。
「こ、ここは?」
そんな呆けた声を出した瞬間「パチン!」という乾いた音が辺りに鳴り響いた。
「え?」
右頬に鋭い痛みが走る。
「馬鹿なことしないで!本当に…心配したんだから」
声のする方に顔を向けるとそこには水を全身に滴らせた島百合がいた。
「し、島百合?どうしてここに…ぁ」
そして思い出した。島百合と会話した後に俺がこの川に飛び込んだということを。
「…まさか島百合が俺を助けたのか?」
今隣にいる島百合は水浸しになっている。つまりこの川に浸かったことになる。そこから自然に導かれる答えは俺を助けようとした、という答えだろう。
「…」
島百合は答えない。だがこの推理は確実にあっているだろう。でなければ俺は今頃水面に浮いていたはずだ。
「どうしてそこまで…」
「言った…でしょ?私は彩乃君に話しかけられて嬉しかったって…。それと同時に助けて貰ったの」
「助けた?…俺が?」
島百合の発言に疑問を持つ。俺がいつ島百合を助けた?俺が島百合を助けた場面なんて無かった。あったのは薄汚い同情心だけだ。
「そう…だよ。私はずっと1人だった。別に1人が好き…って訳じゃなかった。本当は人と話したかったけど…そのきっかけが無かった。でもそのキッカケを作ってくれたのは…彩乃君だから。話しかけられて嬉しかった。話しかけられて心が救われた。だから…助かったの」
…なんだよ。なんだよそれ。
「そんなの誰でも良かっただろ。俺じゃなくても良かった。いや、むしろ俺じゃない方が良かった。きっと心から友達になりたいと思って話しかけてくれる人がいたはずだ。それを潰してしまったかもしれないんだ。俺は」
そうだ。きっと俺があの時話しかけていなければもっと島百合と楽しく過ごせる人がいたはずだ。それなのに俺はちっぽけな同情心だけでそれを潰した。悪いのは全部俺だ。
「確かに…そんな未来もあったかもしれない」
あぁ、きっとあった。
「でも最初に話しかけてくれたのは…彩乃君だった」
「…結果論だ」
「たとえそうだとしても私は…あなたに救われた。だから…今度は私にあなたを救わせて欲しい」
「…なんなんだよ。なんなんだよそれ…俺は…俺は何もしてない。何もしてやれてない。それなのに俺を助けたいだなんて…お前は変だよ…」
「そう。私は変。だからあなたを助けるの」
俺は羞恥心など感じず泣き叫んだ。ありえないほどに涙が溢れだしてくる。そんな俺を島百合は優しく抱きしめてくれた。
「もう…大丈夫?」
「あ、あぁ。悪い。みっともない姿見せて…」
島百合に抱かれて号泣してしまった。今はとても島百合の顔を見れるような状況では無い。
「なら…何があったのか聞かせて欲しい」
「…」
俺は橋から飛び降りたのだ。それほどまでに追い込まれている。そう感じたからこそのこの質問なのだろう。
「無理にとは…」
「実は…さ」
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俺は島百合に今まであったことを全て話してしまった。
「何…それ…冗談で言っている…わけではなさそう…だね」
「…冗談だったら良かったんだけどな」
これは本心だ。これまでの出来事が冗談であったのならどれほど良かっただろうか。
「…ねぇ、彩乃君」
「なんだ?」
「あなた…その人たちのこと憎くないの?」
その質問をした島百合の目はこちらを全て見透かしているような目立った。きっとここで嘘をついても何の意味もないのだろう。
「…憎い。そりゃ憎いよ」
「そう…」
そして島百合は抑揚のない底冷えするような声でこう言った。
「なら復讐しない?」
【あとがき】
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