本当の愛

いつも通り私は真弥翔と学校へ行くために待ち合わせ場所で待っていた。


あ、来た。


「おはよう真弥翔!」


私は真弥翔にそう声をかける。真弥翔は眠たそうな目で私を確認した後


「おはよう…美奈」


そう言ってきた。ふふ、ほんとに眠たそう。


「眠そうだねー」


私は少し微笑みながらそう言った。真弥翔を前にするだけで鼓動が速まる。彼の名前を呼ぶだけで幸せな気持ちになれる。私は真弥翔が好き。大好き。本当は告白したい。でも女の子なら告白されたい。だから待っているのに真弥翔は一向に私に告白してくる様子がない。


真弥翔とは小さい頃からずっと一緒に育ってきたいわゆる幼馴染という関係だ。だからお互いのことはお互いが1番分かっている。そう確信している。


だから真弥翔も私のことをなんとも思っていないなんてことはないと思う。


「…目が覚めたよ」

「え?なんで?」


訳が分からずコテンと顔を傾ける。…我ながらこんな動作をしているなんて恥ずかしい。でも男の子はこうい動きが好きだとネットの記事に書いていた。好きな人に少しでも好かれるように信憑性のない話でも試していかないと。


「いや、なんでもないよ」

「え!な、なになに?」


本気で意味が分からず慌ててしまう。真弥翔は私を見て笑っているだけだった。…笑顔が素敵だな。


いつまでも話している訳にはいかず、私たちは学校を目指して歩き出した。その最中に話すことは他愛もないことばかり。でもその時間が私にとってとても大切な時間だった。


こんな時間がずっと続けばいいのに。そんなことを思っていたのだが、気づくと学校の前まで来ていた。


「あ、ついたね」


私は名残惜しさを感じながら真弥翔にそう声をかけた。


「じゃ、また放課後ね」


私はまだ真弥翔と居たかったが、我慢してそう声をかけた。


「あぁ、またな」


真弥翔がそう言った。それが合図かのように私たちはそれぞれ違う教室へ向かった。


教室に入ると私の席に友達の葉由はゆが座っていた。


「おはよう葉由」


私は葉由に挨拶しながら荷物を机の横にかけた。


「おはよう美奈」


それに葉由も返してくる。


「今日も彼氏と一緒に登校してきたの?」


藪から棒に葉由がそう聞いてきた。


「か、彼氏って…真弥翔はそんなんじゃないよ」

「え…あんたらまだ付き合ってなかったの?」


葉由は信じられないようなものを見るように私を見てきた。その視線が痛い。


「だ、だから真弥翔は…」

「じゃあ私が貰ってもいいの?」


葉由が突然そんなことを言った。その言葉を聞いた瞬間、自分の中の黒い感情が全て表面に出てしまった。


「は?」


無意識でそんな声が出る。すると由美は慌てたように言葉を発した。


「じょ、冗談だよ!だからそんな怖い顔しないでよ…」


葉由は怯えたような表情をしていた。


「でもやっぱり彩乃のこと好きなんでしょ?」

「…うん」


それは紛れもない本音。恥ずかしいけど葉由になら言っても大丈夫。この子は信用できるから。


「でも告白する勇気が無いと…」


それは少し違う。


「なんて言うか…その…女の子なら告白されたいじゃん」


顔が熱くなるのを感じながらそう言う。


「あー、わかるわー」

「でしょ?」


やっぱり女の子は告白されたいものだ。


「じゃあ告白させれば?」


葉由が当たり前のことのようにそう言った。


「どうやって?」


必然、その質問に行き着く。


「彩乃に嫉妬でもしてもらえばいいんじゃない?」

「嫉妬…」


そんな会話が今朝のこと。放課後になって真弥翔を待とうかと思っていたところに声をかけられた。


「下宮さん。ちょっといいかな?」


その人は学校で有名らしい先輩だった。なんでも容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧人間だという噂だ。


「はい?何でしょうか?」


私は名前も知らないその先輩に聞き返した。


「…校舎裏まで来てくれないかな。そこで話したいことがあるんだ」


あー、またか。どうせ告白でもしてくるのだろう。でも私はその告白を断る。なぜなら好きな人がいるから。告白を受かる前から結果は決まっているのだ。はぁ、ガッカリしながら帰っていく姿を見るのは良心が痛む。どうにか優しく断…ちょっと待って?そこで私は今朝葉由とした会話を思い出していた。真弥翔を嫉妬させる。そのためにはこの先輩の告白を利用すればいいのではないか?でもさすがにそれは…


道徳の問題だ。だが私は決意を固めた。好きな人に好きになってもらうために私は道徳を捨てた。


「突然呼び出してごめん」


名前も知らない先輩がそう切り出してくる。


「俺は…君のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」


私は今からこの告白を受ける。だがそれは一時的なものだ。一時的なものだと言っても真弥翔以外からの告白を受けるなんて胃に穴が開きそうな程にストレスだ。早く真弥翔に嫉妬してもらって名前の知らない先輩と別れよう。


「…わかりました。よろしくお願いします」


私は渋々そう言った。


「…え?」


途端、愛おしい声が聞こえてきた。私は瞬時に後ろを振り返った。そこには絶望したような顔をした真弥翔が立っていた。見られた!違うんだと弁明しなければ。


「っ!真弥翔!?ち、違う!これは違うの!」


だが見られたという焦りからか弁明の言葉が出てこない。


「…は、はは。なんだよ。俺だけかよ…俺だけが好きだったのかよ」


真弥翔が何かをボソボソと言っている。私にはその言葉が聞こえない。


「よ、よかったな!美奈!じゃあ俺は用事があるから先帰るな!」


真弥翔は見せかけの笑顔でそう言った。確かに笑顔ではある。だが目が全く笑っていない。むしろ悲痛に歪んでいる。


「待って真弥翔!」


私の呼びかけ虚しく、真弥翔は走り去ってしまった。


最悪だ。最悪だ。最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ。


私は失意のどん底にいながら目の前の名前も知らない男を睨みつける。


「し、下宮さん?」

「お前が…」

「え?」

「お前が告白なんてしてこなければこんなことにならなかった!お前が余計なことをしなければ!ああああぁ…最悪…」


名前も知らない男が私のことを驚愕したような目で見ていた。その視線が癪に障る。


「何見てんのよ!私の前からさっさと消えて!あんたの顔なんて二度と見たくない!」


名前の知らない男は呆然としていたが私はそんなことどうでもよかった。考えろ。ここから真弥翔の誤解を解く方法を考えろ。


どうすれば真弥翔と恋人になれる?どうすれば真弥翔からの愛を一身に受けられる?


「あ、そうだ。真弥翔に私が居ないと生きていけないって思わせればいいんだ」


真弥翔が私を求めて来るまで依存させればいい。私が居ないと生きていけないと強く思わせればいい。それは真弥翔の人生には私という存在が必要不可欠になるということだ。一心同体、以心伝心、一蓮托生。


きっとそれこそが愛なんだ。それこそ















本当の愛なんだ。



【あとがき】


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