名もなき光の声
蒼(あおい)
第1話
月の見えない夜だった。
空一面が雲に覆われ、闇が広がっている。
そんな世界で僕は、僅かな光を探し求めて、空を見上げていた。
一生懸命に自身の輝きを放っている星達の光も、
残念ながら、僕の目には届かない。
自然からの情報を得ようと耳を澄ますも、
まるで時間が止まっているかのように、無音が鼓膜を通過する。
僕は、光を探し求めて歩き出す。
すると、1本の街灯を見つけた。
自分の意思とは関係なく、感情を持たないその光は、
辺りを照らしてくれてはいるが、僕が探している光ではない。
僕には眩しすぎるし、
そこまで強くもない。
優しく包み込んでくれるかのような
……そんな光を探しているんだ。
ふと、また空を見上げるが、
まだ月が見えない夜が続いていた。
雲は、月を頑なに見せようとしてくれない。
まるで、独り占めされているかのような感覚……。
うっすらと、僕の心にも雲が漂い始めた。
このままだと、僕もこの闇の中に飲み込まれてしまう…。
そうなる前に、
はやく、
はやく……。
光を探さなくては……。
自然と足は速くなっていた。
探すために走っているはずなのに、いつの間にか、
闇から逃げるために走っているかのような感覚に陥ってしまっていた。
背中を伝う汗が、じわじわと、
蛇のように絡みついてくる。
荒くなった呼吸が、だんだんと、
血の色を帯びてくる。
僕は、必死になって走った。
すると、クイッと、何かに服の裾を掴まれたような気がした。
立ち止まり、大きく息を吸って呼吸を整え、僕は振り返った。
そこには、小さな星の精霊がポツンと立っていた。
何かを訴えるかのように、ピョンピョンと飛び跳ねている。
僕は、しゃがみ込んで同じ視線になる。
星の精霊は、そっと、僕の頬に手を当て、指で何かをなぞった。
気づかぬ内に、泣いていたらしい。
涙を拭った星の精霊は、ニコッと笑い、空へと飛んでいった。
見送るように空を見上げる。
星の精霊が雲の中へ消えていくと、
その隙間から、僅かに月の光が零れた。
そして、ゆっくりと、
覆われていた雲が霧散していく。
空一面に柔らかな光が広がった。
月の微笑みにつられて、僕も微笑んだ。
いつの間にか、僕の心の雲も消え去っていた。
その隣で、見覚えのある光が飛び跳ねているのが見えた。
僕の涙を拭ったせいなのか、
周りの光を反射するかのような、
不思議な輝き方をしている。
そんな事は気にも留めず、
こちらに向かって元気に手を振っている。
それが少し、くすぐったかった。
名もなき光の声 蒼(あおい) @aoi_voice
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