第7話 神様
「はーい、ほんじゃ会社のコト説明すっからー。ちょっちメンディーだけどテン上げでヨロ~」
相変わらずイマイチ何言ってんのか良く分からないが、シエラが会社の事を説明してくれた。
その説明によると―――
この会社は色々な食材を外国から買い付けて来て、船などを手配して輸入して国内で売る、食品専門の商社みたいな事をやっており、この類の会社では国内で一番大きな会社らしい。
しかし、二年前に前国王が死去した後、現国王が王位に就いてからは業績が振るわず、経営状態が悪いそうだ。
そして一番驚いたのがこの国の税金。
こちらにも日本の消費税と同じような”付加価値税(value added tax)”があるのだが、その税率が何と40%!
そしてもっと驚いたのが、その付加価値税と一緒に徴収される【王様
併せて50%の税率!
前国王の時は付加価値税の税率は3%で、王様尊崇税なんて物は無かったのだが、現国王が即位した途端にいきなり税率が3%から50%に上がったものだから、経済は大混乱し、バタバタ会社が潰れたらしい。
この会社は何とか持ち
「でもさぁ、そんなにいきなり税率上げたら国民がブーブー言うんじゃないの?もし私の国でそんな事になったら暴動が起きるよ。みんな黙って従ってるの?」
私は不思議に思い、シエラに聞いてみた。
するとシエラは辺りを注意深く見回して他の者が傍に居ない事を確認してから、小声でこう言った。
「あのさ、ウチらから搾り取った税金ってのがさ、軍部や警察に流れてるらしいんだよね。だから軍も警察も王様の言う事は何でも聞いちゃうみたいなー。これまでに何回か反王室派の人達が反対運動とか起こしたんだけどさー、すぐに軍がやって来て捕まっちゃうんだよねー。そんで、捕まった後は裁判とかも無しで牢屋にぶち込まれるみたいなー。でさ、ウワサによるとさ、捕まった人達って全員処刑されちゃったとかでー。そんなんショッキングピーポーマックスっしょ?だからみんなガクブル~みたいなー、言いたい事も言えないんだよねー、こんな世の中じゃ。ポイズン」
「ポイズン?…まあいいや…じゃあさ、みんな王様の事好きじゃないワケ?」
「好きなわけねーじゃん!あんなクソ王!もう、なしよりのなしーみたいな。ヤツが王様になってから、ウチらガチでメンブレ&テン下げ。つーかさ、王様さりげヤバくね?まあなんつーかあれだね、ウチらマジ病みっつーか、超MMCでムカ着火ファイヤーAKBみたいなー」
本当に後半何言ってんのか良く分からんが、とりあえず今の王様が国民から嫌われているって事は何となく理解できた。
「は~い、どうかなぁ~、ちゃんと教えてもらってるかなぁ~?リンコさ~ん、どう?大丈夫ぅ?」
社長さんがニコニコしながら私達の所へやって来た。
「え?あ、はい、えーっと、それでさっき言いそびれちゃったんですけど、私、ここで働くとかってのはちょっと…」
ここでハッキリと言っておかなきゃんらん!この会社で働くとか、就職とか、ぜってー無理だ。明晰夢の中で就職とかあり得ない。
「あ~、まだちゃんとしたお仕事はいいからね、まずこの国の事とか覚えてからでいいからね!焦らないでゆっくりやってこうね!はい、今日のお給料!」
社長さんは私の言葉には耳を貸さず、私に封筒を差し出した。
その封筒を開けてみると、中には数枚の硬貨が入っていた。
「え?これは…」
「今日のお給金ね!面接の時に言った通り、臨時採用の間は日払いなのよね。でね、正社員になったら月給制になるから。正社員になったらお給料も上がっちゃうよ~!じゃね、また明日ね!」
「あ…」
社長さんはそう言って部屋を出て行ってしまった。
マズいな…お金貰っちゃたら引くに引けないよ…
「ね~、りこぴー、いくらもらったのぉ~?ちょっと見せてみ」
シエラが興味津々だ。
こっちのお金の価値なんて良く分からないから、私はシエラに封筒ごとお給料を渡した。
「えっとぉ、いち、にい、さん…うわっ!275マサラもあるし!りこぴーメッチャ貰ってんじゃん!ヤベー、ちょーヤベー!ガチめでやばたにえん!いいなあ美人は」
「そ、そうかな…」
「じゃあさ、明日昼メシおごってよ!こんなに貰ってるんだしぃ~、りこぴーのおごりで昼メシ行くしかないっしょ!ね!」
「え……ま、まあいいけど」
「うぇ~い!あざまし~!バイブス上げ~!んじゃあ明日はとりま早めに来てね~!つーことで、ウチはソクサリするわ~、じゃね~!」
「・・・・・」
何だか良く分からないうちに、明日昼ご飯を奢る事になってしまった。
私はこのまま、毎日ここへ来て仕事をせにゃならんのか?
困ったなあ…
悩んでいても仕方ない、今日は取り合えず帰ろう。
私は会社を出て元来た道を引き返した。
大通りから路地に入り、しばらく歩くと見えて来る帽子屋の露店。
その後ろにあるバーの扉を開くと…
「イラーシャーセー!(いらっしゃいませー)オキャーサーナンメーサーッスカー!(お客様何名様ですか)」
またかよ…
誰も居ない店内に響き渡るハゲの元気な声。
つーかさ、何でそれやるの?こだわりか?
「…一名でーす。つーかさ、アンタ何で私が入って来るとそうやって叫ぶのさ?おかしいじゃん!ここってバーでしょ?それじゃ居酒屋みたいじゃん!」
「え?ダメ?この方が元気出そうで良くね?」
「意味わかんないよ…まあいいけどさ…」
私がカウンターの昨日と同じ席に座ると、ハゲもカウンターの中に入って私の目の前に立ってニヤニヤしている。
気持ち悪いヤツだなあ。
そもそもお前は何なんだ?こんな目立たない場所で場末のバーなんかやって…いつも客居ないし。
「あのさ、アンタって一体何者なの?こんなところで真っ昼間から飲み屋なんて開いてさ」
「あん?オレか?俺は神様だし」
「は?」
「俺は神様」
「かみさまァ?ハァ?マジ?マジで言ってんの?マジで自分の事”神様”って思ってるの?わははははは~!ヤベぇ!コイツヤベぇ!うははは~!」
「何がおかしいんだ?」
「いや、だって、ぷっ…自分で自分の事【俺は神様】とか…大丈夫ですかぁ?お薬の量、増やしてもらった方がいいんじゃないですかぁ?」
「信じねえんか、まあいい…ねえちゃんよ…ねえちゃん名前は何て言うんだ?」
「私?私は坂口凛子って名前ですよーだ」
「そうか……凛子ちゃん… ――― 力が欲しいか?」
「え?」
「―― 力が、欲しいか?」
ハゲはそう言うといきなり厳しい目つきで私の目を見つめてきた。
カウンターに両手をつき、さっきまでとはまるで別人のような雰囲気で私を見つめるハゲ。
力(ちから)って…
あれ?こう言う場面って異世界モノとかの鉄板だよね?
そんで神様から魔法を使える力とか貰って、異世界で無双するとか…だよね?
だよね、だよね!?これってそれ系のパターンだよね!
夢の中とは言え、そうなったらスゲーぞ!
でもって、魔物とか出て来て戦闘になって、もちろん神様から与えられた【力】で私が勝って村人とかを救って、そんでその噂を聞き付けた王子様とかがやって来て、紆余曲折を経てその王子様と結ばれるとか、うひゃー!
うへへへ、いいじゃんいいじゃん!異世界サイコーじゃん!ちょーテンション上がるじゃん!なんつったっけ?こーゆー場合の事、シエラは何て言ってたっけ?あ、そうだ、『バイブス爆上げ』だ!
マジ~?ちょーヤバくね?テン上げなんですけどぉ~!
「凛子… ――― 力が欲しいか?」
「はい…欲しいです…」
「よし、分かった。じゃあ両掌をカウンターの上に置いて目を閉じてみろ」
私はハゲに言われるまま、掌を上にしてカウンターの上に置き、両目を瞑った。
すると手の中に何かの子袋のような物が乗せられた感覚があり、それはだんだんと熱を帯びて温かくなっていく。
その熱が手から腕へ、そして全身へと少しづつ広がり、身体中がぽかぽかと火照ってきて何とも言えないリラックスした気分になってきた。
気持ちいい。
この手の中にある温かい物は何だろう?
気持ち良くてちょっと眠くなって来そうだよ…
もう何分くらこうしているだろう?
まだ終わらないのかな?
「よし、凛子、終わったから目を開けていいぞ」
私はハゲの言葉に促されてゆっくりと瞼を開いた。
私の手の中にあったモノは…
ホッカイロ。
「いや~、ここってよ、朝晩は結構冷え込むんだわ。だからよ、携帯カイロあると便利なんだわ、うん」
「……」
「クックックッ…うひゃひゃひゃひゃ!信じた?凛子ちゃんさっきの言葉信じちゃった?マジで信じた?ビリーブしちゃった? ば~~~~~か!ぶわ~か!そんなモンねぇよ~~~だ!力なんてありませんよ~だ!うひゃひゃひゃひゃ!あー」
「……」
「あ、ひょっとして、俺が凛子ちゃんに魔法を使える能力とかを授けて、その力で魔物とかをバンバン倒してどっかの村とかを救って、でもってどこからかイケメンの王子様とかが現れてイイ感じになってウハウハ~!とか思ってたんちゃうの?え?そう思ってたんちゃうの?うははは!ねーよねーよ!そんなコトねーって!あるワケねーだろ!アニメやゲームじゃあるまいしよ!バーカ!」
「て、て、テメェ!表出ろっ!今すぐ表へ出ろ~!ぶっ殺してやる!ハゲの分際で人をおちょくりやがって!ぶっ殺してやるから表へ出ろっ!」
「ハゲは関係ねぇだろ!まあいいか…つーかまぁまぁ、そうカッカすんなって!冗談だよジョーダン。だから彼氏ができねぇんだぞ!だだでさえド貧乳ってハンデ背負ってるのに、それじゃいつまで経っても結婚出来ねぇぞ」
「うるさいっ!このハゲ!ぶん殴ってやる~#@?&!%$!!!」
「あーはいはい、分かった分かった!悪かった悪かった、ワタシが悪ぅござんした!じゃあよ、お詫びのシルシにひとつイイ事教えてやるけんの」
「な、何よ、イイ事って」
「凛子ちゃんよぅ、街中を歩いていて何か気になった事ねぇか?」
「気になった事?…何だろ?何もかも珍しくて全部気になってるけど…」
「あのな、こっちの世界の女の人ってよ、凛子ちゃんの世界の女性とどこか違くね?」
「え?女の人?違うトコ?え~?何だろうなぁ?……あ!こっちの女の人ってみんなおっぱい大きいよね?」
「そうそうそれそれ!さすがド貧乳、さすがだねえ!」
「いやぁ、それほどでも…って、さりげなくディスってんじゃねえよ!それがどうかしたのかよ!おっぱい大きいのがどうかしたのかよ!あームカつく」
「でな、こっちの女性って九割がた巨乳なんだな。巨乳が普通なのよ。だからよ、凛子ちゃんみたいな貧乳、それもド貧乳ってすげー珍しいワケだ」
「ふーん、って、バカにされてんのか褒められてんのかよく分かんないぞ」
「まあ聞け。だからよ、こっちの世界じゃ貧乳であればあるほどセクシーでイイ感じなんだわ。でもってよ、こっちの女の人ってぽっちゃりした人が多いのな。凛子ちゃんみてえにスリム体型の女性ってあんまり居ないのよ。だからよ、貧乳でスリムな凛子ちゃんみたいな女の子ってよ、かなり希少なんだな。ほんでよ、俺が言うのもナンだけどよ、凛子ちゃんって結構ベッピンじゃんか?だからよ、こっちの世界じゃ凛子ちゃんメッチャもてるぞ。こっちの人間にとっちゃ、凛子ちゃんってモデルや芸能人みたいに見えてるハズだぞ。…どうだ?街中を歩いていてジロジロ見られなかったか?」
あー、そうか、だからみんな私の事をチラチラ見てたんだ。そう言えばあの会社の社長さんも『美人だから採用!』みたいな事を言ってたな。
「あとな、凛子ちゃんが昨日、こっちから元の世界へ帰った時にほとんど時間が経ってなかっただろ?あれな、こっちの世界の1時間が凛子ちゃんの世界の1分なんだな。だからよ、こっちの世界で2日半過ごしても元の世界へ帰った時には1時間しか経ってない事になるんだわ」
ああ、そうだったのか。だから昨日、面接やら何やらやったのに、給湯室の時計が3分しか経ってなかったんだ。
じゃあこっちの世界に一週間居ても、元の世界に帰ったら3時間弱しか経ってない事になるよね?
つーことは、こっちに一ヶ月居ても、元の世界では11時間か。
でも何でこんな事をハゲが知ってるんだ?
「あんた、何でそんなに色んな事知ってるのさ?」
「だから言ったろ!俺は神様だって!この世界は俺が造ったんだから知ってて当然だっつーの!」
「はあ?アンタがこの世界を造ったぁ?なにイカれた事言ってんのよ!ほんっとにアタマ大丈夫か?じゃあさ、どうやってこの世界を造ったのよ!」
「異世界ツクールで造った」
「はあ?」
オマエさぁ、マジで病院行った方がいいぞ。
ロボトミー手術でもしてもらってこい。
多分今よりマシだと思うよ。
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