第3話 見慣れぬ街

私は非常階段の手すりから身を乗り出し、恐る恐る下を見た。

本来なら、そこは車一台がやっと通れるくらいの幅の小さな路地なんだけど…


私が見下ろしているのは幅10メートルくらいの道で、そこを民族衣装のような服を着た人々が行き交う光景だった。

ななな、何?いったい何っ!?

テレビか?テレビドラマのロケとかやってるの?


非常階段を降り、路地に出てみる。

道は舗装されておらず、石畳になっている。

道の両脇にポツポツと立ち並ぶ屋台。

その屋台で何かを買っている年配の女性。

ゴトゴトと音を立てながら私の前を過ぎて行く馬車。

大きな荷物を背負って汗を流しながら歩いている男性。

歓声を上げながら走り回る子供たち。


ドラマのロケにしては大げさすぎる。それに照明やカメラの姿も見当たらない。


(この道を左に進んで、大通りに出れば四ツ谷駅が見えるハズだよね?)


私は意を決して四ツ谷駅方面と思しきへ歩き出した。

道の両脇には、色とりどりの果物や野菜らしき物が並べられている屋台や、串焼きのような物を売っている屋台、はたまた服を売っている屋台など、まるでお祭りの縁日みたいな光景が続いている。

どこかで見たような光景だなあ?と思っていたのだが…思い出した!去年、京香と行ったタイの風景に似ているんだ!


歩いているとものすごい違和感。と言うか、みんな私の事を怪訝そうな目つきでジロジロ見ている。

人々の服装は粗末な民族衣装のような服装と言うか、男性は足首の部分がキュッと縛ってあるダボダボのズボンに、上はいかにも安っぽい生地で作られたようなシャツとベストを着ており、トルコ帽のような帽子を被っている人もいる。

女性はほぼ全員ロングスカートを穿いていて、上はレース素材のような生地のシャツに派手な色のベストを着ている。


(そりゃ見られるよね、だってアタシの恰好、黒のタイトスカートにノースリーブのシャツだもん)


一分ほど歩いて大通りへ出ると……私は自分の目を疑った。


そこは確かに大きな通りだったが、車やオートバイは一台も走っておらず、見渡す限り人、人、人、人の波。

ま、祭りか!?フェスティバルか!?

そして四ツ谷駅があると思った方向を見ると、そこには駅ビルなんて物は無く、大きな城のような建物がドーンとそびえ立っている。


愕然とした。


ここはどこだ?

私は何をしている?

いや、私は私か?

もうワケ分かんない。


胸を掴んでみる。

掴めない。よし、OK!

私は私だ。


大通りの両脇には、三階建てくらいの石造りと思われる建物がずらっと並んでいる。

私が立っているすぐ横の建物も、ベージュ色をした石造りの建物だった。

一階の入り口の上に看板らしきものが掲げられているのだが、文字がサッパリ読めない。

〇や△、□を組み合わせたような変な文字と数字…あ、数字だけは読めるな…


「ちょっと!そこのアンタ!こっちだよこっち、早く!こっちこっち!」


ん?何?と思って声のする方を見ると、横の建物のドアの所で、小太りの中年男性がこちらを見て大声で叫んでいる。


「何してんの!こっちだって!早くしないと終わっちゃうよ、早く来なさいよ!」


中年男性と目が合った。

彼は手招きして私を呼んでいる。

ん?私か?私、呼ばれてるの?


「そうだよ、アンタ!早くこっち来なさい!」


いやいやいや、知らねーよ!おっさん私にいったい何の用だ?

無視してダッシュで逃げようかと思ったが、彼があまりにも一生懸命私を呼ぶので、取り合えずドアの前まで行ってみた。


「あ~もう!遅いから道に迷ったのかと思ったよ!早くしないと面接始まっちゃうよ!早く早く!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る