第2話 給湯室
「♪ケッ!貧乳でご~め~んっ 女子力低くてご~め~んっ!♪ットクリャア~」
超絶下らない替え歌を歌いながら給湯室へ行くと先客が居た。
「あっ、軍曹…じゃなかった、さささ、坂口さん、おおお、疲れさまですっ」
システム担当の前原康夫クン。去年入社した新人さんで、色白で痩せていてちょっと猫背の彼は、どこからどう見ても完璧なオタク。
彼を「キモい」と言って毛嫌いしている女子社員も居るが、私は別に彼の事が嫌いじゃない。
勤務態度は真面目だし、礼儀正しくて頭もいい。でもいつもどこかオドオドしていて自信無さげで、
社内でゲームの話が出来るのは彼くらいしかいないので、私にとって彼は結構貴重な存在だ。
でも…彼は私の事を怖がっているような気がしてならない。
前原クンはそそくさと私の横をすり抜けて給湯室から出て行った。何だよ、別に襲ったりしないよ!って、まあいっか…
給湯室の奥には非常階段への扉があり、その扉を開けるとビルの壁に張り付くように設置された非常階段の踊り場になっている。
でもここは三階なので景色がいいわけでも無く、目の前は隣の雑居ビルの壁。
こんな場所でも、気分転換したい時や、今日みたいに眠くなった時は、手っ取り早くリフレッシュできる格好の場所だ。
とは言っても、ここは大都会東京の四谷。きれいな空気が吸えるワケじゃないんだけれど…
私はインスタントコーヒーをマグカップに入れ、ポットのお湯を注いだ。
安っぽいコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
給湯室の壁に掛かっているデジタル時計を見ると14:00。
この後気合入れて資料を作れば、夕方の打ち合わせには何とか間に合いそうだ。
「さ~てと、ビルの壁でも眺めながらまっずいコーヒー飲んで気合入れっか!」
非常階段の金属製の重いドアを開けると…
ドアの向こうには完璧な青空と綿菓子みたいな白い雲。
はるか遠くに見えるのはテッペン付近に白い雪がかかった連なる山々。
そして赤や茶色の屋根の背の低い建物が、延々と連なっている。
「チチチチ…」と小鳥の
「はぁ?」
私はビックリしてドアを閉めた。
ああ、とうとうヤバいヤツが来ちまったか?
こんなに鮮明な幻覚を見るなんて。しかも真っ昼間だし。
大丈夫か?アタシ?
コーヒーを一口飲んでみる。
ん~まずい!OK!
胸を掴んでみる。
掴めない。よし、OK!
正気に戻った。
再度非常階段の金属製の重いドアを開けると…
ドアの向こうには完璧な青空と綿菓子みたいな白い雲。
はるか遠くに見えるのはテッペン付近に白い雪がかかった連なる山々。
そして赤や茶色の屋根の背の低い建物が、延々と連なっている。
「チチチチ…」と小鳥の
「え?」
私はまたもビックリしてドアを閉めた。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!
どうじよ゛う゛…
まだ27歳なのに、まだ結婚だってしてないのに!オシャレなラブホだって行ってみたいし、あんなコトやこんなコトだってしてみたいし。
「よし、今度こそ…」
今度はそ~っとドアを開けてみた。
僅かに開いたドアの隙間から見えたのは、
ドアの向こうには完璧な青空と綿菓子みたいな白い雲。
はるか遠くに見えるのは(以下略)
もうね、ワケ分かんない。
ドアの向こうはビルの壁があるハズじゃん、でもってエアコンの室外機の音がするハズじゃん!
ナニコレ?
私はドアを開け、非常階段へ出てみた。
清々しい景色と新鮮な空気。
ここは軽井沢か?
振り返ってドアを開けてみる。
給湯室。
前を向いてみる。
軽井沢。(みたいな景色)
なんだこれは!?
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