異世界OL

サバ太郎

第1話 午後のひととき

お花畑なのよ…

お花畑でね、お日様の光がちょっと眩しいんだけど、でもすっごく気持ちイイの。

このお花、何て名前かな?黄色くてカワイイな…

あ、チョウチョが飛んでるよ。白い蝶々…

私の目の前を、ヒラヒラ、ヒラヒラって、飛んでるの…

それを見てるとね、頭がポワ~ンってしてきちゃうの。ポワ~ンって…

そんでね、景色がユ~ラユラ、ユ~ラユラって揺れて来てね、もっと気持ち良くなって来るの…

ユ~ラユラ…ユ~ラユラ…


<ビクッ!>


「ンぐぇ、ひえっ!?」


目が醒めた。

いきなりビクッ!として目が醒めた。

変な汗がこめかみの辺りを伝ってパソコンのキーボードの上に落ちた。


「ねぇ、ちょっと、凛子!」


「っんふ?えっ!?あ、ん?アタシ、寝てないよっ!」


「はぁ?…アンタ何言ってんのよ?また居眠りしてたんでしょ!ヨダレ拭きなよ、ほら」


隣の席に座っている京香が、”やれやれ”と言った表情で私を見ながらティッシュの箱を差し出す。


だって眠いんだもん。しょうがないじゃん。

昼めし食った後のデスクワークなんてさ、五時限目の水泳の後の古文の授業くらい眠い。


「凛子さぁ、またアンタまた遅くまでゲームやってたんでしょ?もうイイ歳なんだからさあ、ゲームとか子供みたいな事やってないで早く寝れば?」


京香きょうかさとすように言う。


はいはい、わーってるよ!分かってますとも。でもね、わたしゃアンタと違ってゲームくらいしかストレスを発散できるコトがねぇんだよ!

アンタみたいにさ、優しくてイケメンな公務員の彼氏が居てさ、実家は老舗しにせのうなぎ屋でさ、営業部、いや、社内ナンバーワンって噂されるほどの美人で、おまけにばぃんばぃんのGカップだったら、アタシだって毎晩ストゼロ飲んで寝落ちするまで座椅子に座ってテーブルに脚乗っけてゲームなんかしてねぇよ!悪かったな、Bカップで!

あ、Bカップは関係ねぇか。そうか。


あ゛ー。


私は坂口さかぐち凛子りんこ、27歳。

都内にある小さな広告代理店の営業部に勤務している。

地方の高校を卒業して東京の四年生三流大学に進み、そのまま東京で就職した。

毎日仕事に追われ…って程じゃないが、ダラダラ仕事をしているといつの間にか会社を出るのが21時とか、たまに終電で帰ったりする。

荻窪のボロアパートに着くのは日付が変わる寸前。

私、こんな毎日で何が楽しいんだろう?

って、思ってみたり。


こんな私でも、大学を卒業してこの会社に入った当時はそれなりにやる気マンマンで燃えていた。

中学からずっと陸上部だった私は、女ながらもバリバリ体育会系のノリが染みついていて、入社したての頃はがむしゃらに頑張っていた。

もう、ホントに頑張ってた。思い出すと恥ずかしくなるほど頑張ってた。


そんな私に付いたあだ名が「熱血二等兵」。

そして五年の月日が流れた今、私は社内で「軍曹ぐんそう」と呼ばれるようになっていた。

母さん!自分は昇進したでありますっ!


でもこの会社では私ももう中堅どころ、いつまでも熱血社員ってワケにも行かない。

まあそれなりに仕事はやってるつもりだけどさ、なんだかねぇ……


ここ最近は特に浮いた話も無く、気が付けば高校や大学の友人達から、ちらほら結婚式の招待状が届く歳になった。


そりゃまあ、アタシだって彼氏の一人や二人居る事は居た。最後の彼氏は一年半ほど同棲してた。

でもアタシのガサツな性格に嫌気が差したのか、いとも簡単にその彼氏は私を捨てて、会社の巨乳の後輩とくっついて結婚した。


いやね、別に早く結婚したいわけじゃないけどさ、やっぱりさ、なんかこう、寂しいのよ。

会社帰りにコンビニで買った焼肉弁当をアパートの部屋で酎ハイ飲みながら食ってるとさ、まぁ、何となく寂しいのよ。


別にいいのよ、焼肉弁当でも。

でもさ、誰かと二人で食いたいの、焼肉弁当。

二人で飲みたいの、缶酎ハイ。

コンビニ弁当でもイオンで特売の缶酎ハイでもいいよ、彼氏とさ、二人でさ……


なんつってな!

な~んつってな!!


ええよええよ、お独り様上等!

会社から帰ってな、アパートのドアをバーン!って開けてな、バッグをその辺に放り投げてな、シャツもスカートも脱いでな、ブラも外してテキトーにどっかぶん投げてな、襟首がヨレヨレになったTシャツ着てな、缶酎ハイをプシュッと開けてな、一気に半分くらい飲んでな、TVとゲーム機のスイッチ入れてな、ボロボロの座椅子に座ってな、焼肉弁当食いながらな、パンツ一丁、ノーブラTシャツで寝落ちするまでな、


ゲームすんだよ!


汚部屋で。

27歳の独身OLが!うひゃひゃひゃ~!


あ゛ー。


とまあ、お花畑で蝶々を見たり、こんな事をボーっと考えたり、その合間に仕事したりして過ぎてゆく私のアフタヌ~ン。


そう言えば今日の夕方、新規案件の打ち合わせがあるんだよなあ。それまでに広告の撮影スケジュールや何やらをまとめておかないとならないんだっけ。


あーめんどくせ。鼻くそほじってる場合じゃねぇか。


しゃーない。いっちょ気合入れるかぁ!

まずいインスタントコーヒーでも飲みながら外の新鮮な空気でも吸って、目を醒ますかぁ!



「京香、アタシ非常階段で気分転換してくるけど、京香も行く?」


「私これから竹ノ内出版へ行かなきゃならないんだよね、だからパス。あ、帰りにさ、柳家のタイ焼き買ってこよっか?凛子食べる?」


「うん!食べる食べる!じゃあ二つ買って来てよ、いくらだっけ?」


「いいよいいよ、タイ焼きくらい奢るって」


京香はそそくさと支度をしてオフィスを出て行った。


颯爽とした後姿。

さりげなく着こなしているOLD ENGLANDのライトグレーのスーツ(あれ、高いんだよねえ)

イスから立ち上がった時、ちょっとウェーブのかかったロングの髪からフワッと香るイイ匂い…

12時の方向にばい~んと突き出たロケットおっぱい…

京香さんよ、そりゃアンタ、モテるわけだよ…


実を言うと、京香と私はすごく仲が良い。

同期入社で同い年って事もあるが、性格がまったく正反対なのにも関わらず、なぜか気が合うのだ。

休日には一緒に買い物に出掛けたり、お互いのアパートにお泊りに行ったり、去年のゴールデンウィークには海外旅行にも行った。

京香は、女らしくて楚々としていて、思慮深くて大人っぽい。おまけに料理上手でGカップ。恐らくかなり床上手に違いない。

それに比べて私はガサツで男勝り、考える前にまず行動!って感じの性格で、常に行き当たりばったり。計画性ゼロ。流しそうめんもマッハの勢いで滑り落ちる限りなくAに近いBカップ。うるせぇ、ほっとけ。

こんな私の事を、京香はいつもお姉さんのような感じであーだこーだ世話を焼いてくれる。

大好きだよ、京香💛


「よ~いこらせいっとぉ!あ~あっとくりゃぁっしょぉ~ぃうぇぃ!」


オヤジばりの掛け声と共に椅子から立ち上がって給湯室へ向かう貧乳バカOL。

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