第14話 転生した雀、みんなの力を糧にして


それは、もう少し先の未来の話だと思っていた。

アイドルになれたらカラーは赤がいい。

前世ですでに決めていた。

よく熟れて甘酸っぱいリンゴの色。どうしてか、あれと同じ色の衣装を身に纏った女の子たちが一番好きだった。

片思いを歌う曲。

胸元にちいさくハートを作って、画面の向こうの私に語りかけてくる。

好きだよ。

好きだから振り向いてって。


手渡された赤いシュシュが両の手のひらにコロンと収まる。

ほかの4人にも青、黄色、緑、ピンクと、色違いのシュシュが行き渡る。

「1週間後、アイドル好きの一般人100人の前で、5人にはミニライブをやって貰います。ライブの最後に誰を推したいか人気投票をおこない、その票数が規定に達した者をセキプロからデビューさせます」


投票。

まだ認知されてないズブの素人集団なのに、そのなかで人気順を競う。それまでの審査とは毛色が違う。いや、違うなんてもんじゃない。

運営側の気合いが滲み出ている。少数で粛々と行われてきたはずなのに、ここにきてスケールが飛躍して只事ではなくなってきている。

「ライブ……私たちが……?」

「曲は全部で三曲。振り付けはこっちで用意してあるわ。すぐにレッスンに入るわよ」

有無を言わさず、社長に導かれるまま私たちの猛特訓の日々が始まる。

つい数日前まで別のダンスで頭がいっぱいだったのに、一度リセットしてまた挑まねばならない。

虚しい気もしたけど、今までの経験が消えるわけじゃない。鏡越しにお互いの欠点やいいところを見つけ出しあったあの練習の成果はここにも生きてくる。

脱落してしまった人たちの分も、肩に乗ってる気がした。

みんなが私のいいとこ悪いとこぜんぶ見つけてくれたから、私はいま、ここに残れているのだと思った。


最高のパフォーマンスをしよう。

みんなに誇れる、最高のものを見せてやろう。

5人一致団結して、瞬く間に1週間を駆け抜けた。




ステージ上からの景色にゾッとする。

ファンとも言えないアイドル好きの烏合の衆が、おのおのペンライトを掲げている。

青色が圧倒的に多い。

それはナナちゃんのカラー。クールビューティーな彼女にぴったりの、大海原に反射する真夏の太陽のようだった。

黄色、緑、ピンクもますまず。

青い絨毯に彼女たちを推す応援の花が、誇らしげに咲き乱れる。

熱狂。興奮。

客席の荒い息遣い。

小さい箱だからすべてが一望できてすべてを聞き取れてしまう。

だからすぐにわかってしまった。

その花々のなかに、私がいないという事実に。

赤い花は、蕾のまま、咲くことを忘れたままひしゃげて花弁を落としていく。

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