第7話 転生した雀、恐れ慄く!

一次審査は6人一組ずつ行われる。

名前を呼ばれた人から部屋に案内され、審査員の前で自己紹介を含めたパフォーマンスをするのだという。

エントリーした女の子たちが集められた大部屋で、三郎さんがテキパキと説明してくれた。

さっきのフランクな感じとは一転、出来る大人の風格。

落ち着いた印象、クールさに、周りの子たちが色めき立つのがわかる。仕事に向き合ってる時の三郎さんは、相当にかっこいい。

おっといけない。

今はオーディションに集中せねば。気合いを入れ直し、大きく深呼吸する。

幸い、このオーディションは素人が多い印象だ。

募集要項にも、芸能活動歴一年未満とあった。主催者側のお望みは、清純で素朴な逸材。私にとっては渡りに船、魅力的なオーディションだった。


「えーでは、早速審査と参りたいところですが、本日5人の審査員の他に、特別審査員枠を設けました。直接には審査に関わりませんが、ご意見番という位置付けで皆さんのパフォーマンスを見させていただきます。それでは、この場で簡単に挨拶を。社長」

三郎さんが部屋の後方へ呼びかけると、ヒールの音がカツンと鳴った。

全員が振り返る。

そこかしこで「あっ」とか「もしかして」とか声が上がる。

先ほど、トイレの前で遭遇した女性が胸を張って私たちの正面までやってきた。


「こんにちは、皆さん。セキプロダクション代表取締役社長の関麗子です。今日は特別審査員として審査に参加します。まぁ私がいるからって気張らず、おのおの、自分の精一杯の気持ち、熱量をまっすぐ私たちに伝えてきてくださいね!」


「えーーーーーーー!!!」

思わず立ち上がって叫んでしまった。

社長?あの人が、社長?

確かに、セキプロの代表は女性と聞いたことあったけど、えっまじか。

審査員のひとりと思いきや、もっと凄かった。

いや、それよりもだ。さっき、だいぶ失礼なことしたのでは?私。

挨拶もせずに、三郎さんにあんな、おじさんとか気軽に話しかけて……

「えーごほんっ、エントリーナンバー52番。羽山すずさん、言いたいことわかるが座りなさい」

三郎さんが、あくまで司会として私を注意する。

ひゅるひゅる〜と空気が抜けた風船みたいに着席する。赤面通り越して顔面蒼白だ。

「ひゃい……すみません……」

それにしたって、先に言って欲しかった。

俯きながら関社長に目配せすると、えへっ☆と愛らしくウインクされた。

あ。この人、確信犯だ。

いい大人の全力のサプライズに心をかき乱され、もう心臓はバクバク。こんなんで大丈夫か?私。

出来ることならば、もう一回朝からやり直したい気分だ。


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