第6話 転生した雀、オーディションに行く


「やっぱりおじさんだ!」

安心した。なんだか雰囲気が違うから間違えたかと思った。

あの時と同じ真っ黒いスーツの三郎さんも、私が誰だかわかったみたい。

爽やかな笑顔はそのままに、こめかみがピクピクと脈打ち始めた。

「……き、きみ、ここで一体を何してる……?」

「なにって、決まってます!私、オーディション受けに来たんです!アイドルになりたくて!名刺もくれたじゃないですか!」

「……あ、あぁ、たしかに渡したな。渡したが、まさか、君はダンサー志望じゃなかったのか……???」

「違いますよー!そりゃダンスも大好きですけど、私は生まれた時からずっとずーーーっとアイドルになるって決めてたんです!」

たしかにあの公園では私のダンス姿しか見せてないが、それにしたってクリアエイトの楽曲を流していたのに、気が付いてもらえなかったとはちょっと心外かも。

抗議の意味も込めて、あからさまに頬を膨らませてみる。

すると-


「あらあら〜?これはどういうことかしらぁ三郎くん?」

そんな私たちのやり取りを横で見ていた女の人が、ニヤニヤしながら割って入ってきた。

「いつもの不真面目な三郎くんが一丁前にスカウト?あらあら、ちゃっかりやることはやってるんじゃないのぉ〜〜〜」

「あーいや、スカウトじゃなくて、これは何というか、身の潔白を証明するために致し方なくて……」

「まぁ、流石私の見込んだ男なだけあるわぁ。一年足らずでここまで成長するなんて、あぁ育てた雛の巣立ちみたいで泣けてきちゃうわね」

「聞けよ、人の話ぃ!」

なんだか夫婦漫才みたい。

髪も化粧も派手だけど、同じくスーツ姿だから同僚さん?芸能事務所ともなると、やっぱり一般企業と違って個性の自己主張が強いんだなぁ。

なんて、今にも魔法が使えそうな出立ちの業界人を前に見惚れていると、吸い込まれそうな瞳と目が合った。

「ふんふん。なるほど、そうくるかぁ」

「へ?」

品定め、とも違う。けれど、頭の上から下までスキャンされたような心地。

私はハッとする。

ここはオーディション会場で、この人もセキプロの関係者ならば、審査員の可能性は大いにある。

なんとも間抜けな所を見られてしまった。

ことの重大性に今更ながら気がついたが、後の祭りだ。

「ウチの三郎エースが選んだとしても、私はこの業界長いし、目利きのプロだからね。そこは厳正に審査させて貰うよ。だから貴女は貴女のベストを尽くしなさい。小さな挑戦者さん」

「……は、はいっ!」


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