第2話 転生した雀、ものの見事に撃沈する


出遅れた。

間違いなく、私は出遅れている。


目まぐるしく過ぎた3年間。

家の手伝いをしながらも、まぁまぁな青春を謳歌したと我ながら思う。

3年間同じクラスの同級生と毎日飽きもせず好きな歌やアイドルの話をした。

文化祭の出し物では、大好きな唯亜ちゃんのモノマネを披露したところ、激似だとみんなに驚かれ一躍時の人となった。

ダンス部の練習は相変わらず休みがちだったけど、優しい先輩と後輩たちのおかげで、最後の年だけ選抜メンバーに選ばれ東日本地区大会に出場することが出来た。

あぁ、なんて充実していて楽しい人生だろう。

生まれ変わってよかったぁ、なんてまるで人生クライマックスな感情が芽生え始めていた。


パパのリハビリが終わって職場復帰が叶ったのは私が高校生になるのとほぼ同時。

今まで休んでた分働くから気にしなくていいとパパが頼もしく言ってくれたおかげで、晴れて私は高校進学に至った。

奨学金制度を活用したギリギリの生活だ。

家庭のためならバイトをした方がいいのだろうけど、散々置いてけぼりにした夢をこのまま放置するなんて私にはもう出来ない。

私は意を決して、レコード会社主体で大々的に募集していたアイドル企画に応募した。


「だーーーーーやっぱりだめかー!」

初オーディション。結果は散々だった。

当たり前だ。わかりきっていたのでそこは割り切る。

次だ、次。

私は続け様に芸能事務所や音楽事務所の募集に応募した。

「また不合格か……」

郵送されてきた書類を掲げながら、ベッドに倒れ込む。厳選な審査の結果と前置きした上で、今回はご縁がありませんでしたと遠回しに断りと慰めの言葉が並んでいた。

書類すら通らず、得意のダンスを披露する場も与えられないままあえなく終了。

対面だったのは人生初のあのオーディションだけだった。その時は名前を言ってワンコーラスだけ歌唱するのみ。

実力を発揮できないまま、不完全燃焼で不合格通知を突きつけられた。

一度だけ肌身をもって体感したそのオーディションでは、某有名ダンス教室やミュージカル劇団出身など、意識高い系中高生たちが一堂に介していた。

ちょっと歌とダンスが出来る私とは雲泥の差。

明白に『君は出遅れている』と突きつけられたのだ。


「ままならないなぁ」

ぼそっと呟いて、膝を抱え込む。

茨の道だとわかってはいた。けれど、もっと食らいつけると思っていた。

甘かったんだ、考えが。

ようやく理解して辛くなって、ここから逃げ出したくなった。


でも!と、私は自分の顔をパチンとはたいてふぅーっと大きく深呼吸をした。

「いかんいかん、何めげてるの!私!まだまだじゃん。たった6回……いや7回かな。そりゃ、書類すら通らなかったけど……でも、私のダンスを見てもらえればわかってもらえるって!きっとそうだよ!そうだって!」

自信はある。思いは人生2回分ある。

努力が足りないというのなら、もっと努力をしよう。

うじうじしてはいられない。

ならば、早く練習をしないと。周りの子達に追いついて、さらに追い抜かしていくんだから。

「そうと決まれば!」

時計は夜の9時を回っていたけれど、練習着に素早く腕を通してウチを飛び出した。

坂を下って駅前に出れば公園がある。ブランコと滑り台、申し訳ない程度の砂場だけある質素な憩いの場。

昼間は子供の笑い声と雀の囀りが聞こえるところ、夜はしんと静まり返って誰もいない。

チカチカと街灯のあかりが不安定に揺れるので、なおのこと心細さを演出させるけれど、今の私はやる気に満ち溢れてるので何も怖くはなかった。

駅前なので多少音を出しても騒音にはならない。

スマホの音量をぐんとあげて曲を流す。

もちろん、大好きなクリアエイトのダンスナンバーだ。

アップテンポで難しい振りもあるけれど、最後まで通して踊れると最高に気持ちいい。

唯亜ちゃんのパートを口ずさむ。新たな挑戦に尻込みする人達の背中を押す応援ソング。今の私にぴったりすぎて、感極まって泣きそうだ。


「フン!フン!」


あぁ、なんかいま超エモいのに、野太い声が後ろから聞こえる。

もしかしてクリアエイトファンの人かな。オタ芸を打ってるのか、長い棒みたいなものを振り回す音も一緒にしている。

嬉しいけれど、真剣に練習してる手前テンポを崩されてしまうからご遠慮願いたい。

注意するのは気が引ける。ましてこんな夜の公園で、こっちはひとりだし。

悩みつつも、振りの途中でそっと後ろを振り返ってみる。


視線の端。風にキコキコ揺れるブランコのあたり。

柵を挟んだ向かいの暗闇に、想像とは異なる人影が鎮座していた。


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