第9回『愛されるペットモンスター・岩ヒトデとエアフィッシュ』
この世界にはさまざまな生き物――モンスターが存在しています。山と見紛うほどに巨大なドラゴンをはじめとして、陸海空を問わず人間よりもはるかに広大な範囲に生息するモンスター達。
しかしその生態を知っている人は、意外と多くありません。私たちにとって身近な存在でありながら最も遠い存在。
そんなモンスター達の生態に、迫っていきましょう。
第9回では趣向を変えて、街中でも見かけることができるペットとして飼われるモンスターを紹介していきましょう。
モンスターと言えば結界の外にいるもの、街中には入れないものというイメージがあります。しかし一部のモンスター、特にまったく殺傷能力がなく、危険な生態でもないと判断されたモンスターは街中へ持ち込むことが許されています。
今回はそんな珍しいモンスターの中でも、特にポピュラーな岩ヒトデとエアフィッシュを紹介していこうと思います。
どちらも殺傷能力が皆無であり、餌の調達も非常に簡単なので多くの家庭でペットにされているモンスターです。
ペットとして愛されている岩ヒトデとエアフィッシュは、いったいどこで見つけることができ、どのような生態をしているのでしょうか。
それでは世界モンスター紀行、はじまりです。
●異世界モンスター紀行
第9回『愛されるペットモンスター・岩ヒトデとエアフィッシュ』
岩ヒトデの生態を観察するにあたって、我々取材班はレナード博士の研究室を訪れました。
ペットとして街中へ持ち込まれることを許されている岩ヒトデは、わざわざ生息地まで行かなくとも街中で十分に観察をすることができるからです。
レナード博士の研究室に入ると、博士は我々をベランダに置かれた大きな水槽のところへと案内してくれました。
この水槽の中に入っているのが、今回の主役である岩ヒトデです。
岩ヒトデの大きさは10㎝前後と小さく、通常の生き物用のケージや水槽などでも飼うことができます。この体が小さく、場所を取らずに飼うことができるというのも、彼らがペットとして愛される要因の一つでしょう。
「この岩ヒトデは、この研究室で3年前から飼っているんですよ。見てください」
博士に促されて水槽の中を見ると、そこには掌よりも少し大きめなサイズの石と、その石にへばりついている星の形をした体のモンスター……岩ヒトデがいました。
私たちに見せている皮膚は、へばりついている石と同じような小石が無数に集まっているように見えます。
ですが実際には岩ヒトデの皮膚は石が集まっているのではなく、皮膚の成分が変質して石のような見た目になっているだけなのです。証拠に、触ってみるとやや硬くはあるものの石とは全く違う生物特有の手触りが伝わってきます。
「岩ヒトデの肌は、擬態のためにこういった見た目になっていると言われています。
野生の彼らがいる場所は岩の上ですから、その場所と同じような見た目と質感がある皮膚は、とても良いカモフラージュになるんですよ」
岩ヒトデは、その名前にあるように岩にびっしりと張り付いているところを見かけるモンスターです。そのため身の安全を確保するために皮膚を変質させ、岩と同じような色と見た目にしています。
また、彼らが普段生息しているのは山岳地帯なため、地面を移動している場合などの擬態にも役立っています。
しかし実際には、彼らが捕食対象として見られることは少ないようです。体が小さく、保有している魔力も少ないため、捕食するなら何十匹も食べなくてはいけないからです。
「ちなみに彼らは岩に張り付いたら動かないというイメージを持たれがちです。
ですが実際には、餌場を探して移動することもあるんですよ」
星型に見える彼らの体、その理由である5つの触腕は非常に力が強く、それを使って岩ヒトデは素早く移動することが可能となっています。その速度はおおよそ100mを15秒と、彼らの大きさを考えれば信じられない速さです。
ですがあまりそういった姿を見かけないのは、やはり彼らが長時間岩に張り付いていることが多いからでしょう。
では、いったい岩ヒトデは長時間岩に張り付いてなにをしているのでしょうか。
「彼らが岩に張り付いているのは、食事をしているんです」
岩ヒトデという名前は岩に長時間張り付いている姿や、皮膚が石のようになっているというだけでなく、岩を食べていることもその理由となっています。
どうして岩を食べるのか、その理由としては岩や木といった自然物にはマナが多く宿っており、岩ヒトデくらいの体の大きさならば齧る程度の量を食べるだけでも、しっかりとマナを吸収することができるからと言われています。
「見てください。これが岩ヒトデの口です」
博士が水槽の中で石に張り付いていた岩ヒトデを剥がし、その裏側を我々に見せてくれました。
すると星型になっている体の中心に、ちょうど円形の穴が空いているのが見えます。この丸い穴こそ岩ヒトデが岩を食べるための口なのです。
それを示すように、丸い口の円周沿いには小さなギザギザの歯が円の外周にビッシリと生えています。
このギザギザになっている歯を使って、岩ヒトデは張り付いた岩を少しずつ削り取りながら食べているんですね。
削り取れる量はわずかですが、体長10㎝しかない彼らにとってはそのわずかな量でも、十分すぎるほどにマナを体内へと補充することができます。しかしある程度の量は食べる必要がありますから、長時間岩に張り付いて少しずつ削り取って食べるというわけです。
「彼らの歯は二重になって、しかも上下で少しズレるように生えています。それらを同時に動かすことで、岩を上手に削り取ることができています。さらにとても頑丈で、ちょっとしたナイフなら刃こぼれさせることもできるんですよ」
金属よりも固い岩ヒトデの歯、しかしそんな歯が生えているなら岩ではなく生物を捕食することもあるのではないでしょうか。疑問に思った我々取材班は、その疑問を博士へとぶつけてみました。
「その答えは簡単で、彼らは口を小さく開閉させることで削り取って食事をするため、食べる速度が遅いんですよ。
ですから他の生物に襲い掛かったとして、皮膚を齧っている間に剥がされて殺されてしまいます。ちなみにあの石は、この岩ヒトデの餌として5時間ほど前に入れたばかりのものです」
博士が持つ岩ヒトデが先ほどまで張り付いていた石を見てみれば、確かに一部分……ちょうど口があっただろうあたりの石が円形に削れているのが見えました。削れているといっても、2㎜ほど削れているかどうか。
5時間で2㎜しか削り取れていないのであれば、なるほど確かに食べる速度は非常に遅いのでしょう。
岩に張り付いて、ゆっくり少しずつ削り取るという彼らの食事方法を考えれば、他の生物を襲う利点はまったくないように思えます。博士が言うように、齧っている間に自分が餌にされてしまうのが関の山でしょう。
実際、博士が手に持っている岩ヒトデも、手から逃れようともぞもぞ動いてはいますが、一向に掌に噛みつくような兆候は見せていません。彼ら自身も、自分の口で相手に怪我をさせることは難しいと理解しているのでしょうか。
「実は、彼らは思考をしていません。何故かといえば、岩ヒトデには脳が存在していないからなんです」
岩ヒトデは体の構造上脳が入る余裕が無く、体の中にあるのは口から送られてきた岩を消化する胃と消化器官、そして消化した岩の成分を皮膚へと送り出す器官だけです。
脳が無いのにどうやって体の各器官を動かしているのかはわかりません。
今、博士の手の中でもぞもぞと動いているのも、ついさっきまで張り付いて食べていた岩がないので、5本の触腕を動かしてどこにあるのかを確認しているだけなのです。
そして、脳が無いからこそ彼らは基本的に思考的な行動はとらず、本能に従って動いています。その代表的な現象として、彼らの自衛手段が挙げられるでしょう。
「岩ヒトデは何かしらの痛みを感じた時、体の皮膚を破裂させて、石のようになっている部分を飛ばして自衛します。ですが多少硬くてもしょせんは皮膚ですから、相手に当たっても少ししかダメージを与えられません。
むしろ皮膚を吹き飛ばしているわけですので、岩ヒトデの方が致命傷を負ってしまうんですよ」
彼らは何かが起きた時、反射的に行動をしてしまいます。特に自衛行動は痛みを感じた瞬間、本能的に命の危機だと思ってしまうようで、その瞬間に自衛行動をとってしまうようです。
そのため、例えば間違って岩から剥がれ落ちてしまい、地面にぶつかった瞬間にも彼らは自衛行動をとります。
そうすると当たり前ですが、そのまま表面の皮膚全てがはじけ飛んだ岩ヒトデは、内臓などが零れ落ちてしまいそのまま死亡してしまうのです。
岩場の近くで岩ヒトデが仰向けに死んでいる場合、たいていはこのように自動で自衛手段が発動してしまった結果というわけですね。
「これもまた、彼らが基本的に捕食されないからということでしょうね。危機に対する防衛を考える必要がなかったので、自己防衛能力が培われていないんです」
当然ですが襲われる回数が多ければ多いほど、モンスターも生き物も自己防衛の方法はより高度なものになっていきます。
そういった意味で、ほとんど捕食対象として見られていない岩ヒトデは、自己防衛についてそこまで深く考える必要がなかったのでしょう。自然界においては、安全すぎるというのも善し悪しなのかもしれません。
「彼らの触腕は、移動や自分の体を支える腕であるのと同時に、内臓を守るものでもあります」
星型に見える岩ヒトデの5つの触腕。実はこの1本1本に、内臓が詰まっています。
当然といえば当然ですが、石は削ったとしても消化しやすいものではありません。岩ヒトデの胃はとても強力な胃酸を発生させますが、それでもしっかりと消化するにはそれなりの時間がかかります。
そして体の小ささに比例して胃も小さいですから、普通に考えてみればすぐに満腹になってしまいます。
そこで岩ヒトデは、ひとつの胃が満腹になるまで食事をしたら次の胃を使うようにして、3つの胃を順番に使うことで常に食べ続けることができるようにしています。
そこまでしなくても、十分に魔力は補充できるのですがそこはやはり脳が無く、本能に従って生きている故なのでしょう。岩ヒトデは食べること、排泄すること、移動することという3種類の行動だけを繰り返しています。
胃が3つあるのは食べ過ぎて胃の容量を超えてしまわないように、という意味もあるのです。
「彼らは食べた岩を消化すると、それに含まれていた石の成分を逆流させ、皮膚へと染み出して皮膚の擬態を行います」
石のように見える彼らの皮膚、それは食べた石の成分が皮膚へと染み出して乾燥することで完成します。
そのため岩ヒトデの体をレントゲンで撮影すると、口から触腕へと続く管のような機関からは、皮膚に向けて細かく延びる管を見ることができるのです。
逆流させる際には一度口を経由しますが、その際に彼らはしっかりと口を閉じ、成分が出ていかないようにしています。
「石の成分と聞くと、固まったらしっかり石のように硬くなるのではと思うでしょう?
しかし、正確に言うなら石の成分が混ざった唾液というのが正しくて、だからこそ彼らの皮膚は石のような見た目ではあるものの、少しだけ硬い皮膚にとどまっているのです」
何とも不思議な食事をする岩ヒトデ。では彼らが持つ残り2つの触腕には、何の内臓が入っているのでしょう。
……その答えは心臓です。彼らは胃が内包されていない残り2つの触腕に、それぞれひとつずつ心臓を持っており、仮に片方の心臓が潰されたとしても生き残ることが可能となっています。
「まあ、とはいっても心臓が潰されるほどのダメージを受けたとしたら、反射的に自衛行動をとってしまうので結局死ぬ場合がほとんどなんですけどね」
たしかに心臓が潰されるほどのダメージなら、かなりの危険を感じる痛みを感じる筈。ならば彼らは本能的に皮膚を吹き飛ばしてしまうため、心臓が残っていても死んでしまうでしょう。
なんともちぐはぐな生態をしている岩ヒトデ。これもまた襲われにくい環境で生きてきた弊害と言えます。
当然ですが、そんな彼らは討伐依頼が出ることは皆無となっています。
異常発生をしたとしても、そこまで大きな被害が出ることはありませんから放置されがちで、そのうち勝手に数を減らしていきます。そして自ら他の生物を襲うこともないので危険性もなく、モンスターとして分類されてはいますが、犬猫など普通の動物の方が危険なくらいです。
さらに言うと彼らは素材の供給源としてもまったく価値がありません。
一応、彼らの皮膚は素材として採取することはできますが使い道はなく、採取したところで1円すら手に入れることはできないのです。
そういう理由もあって、彼らは討伐対象はもちろん素材目当ての依頼も出ておらず、探索者もわざわざ狩猟しません。
ですがその危険性の無さが、彼らにペットとしての価値を与えたのですから、何があるかわかりませんね。
◇◇◇◇◇
「では、次はエアフィッシュについての説明をしていきましょうか」
博士は手に持った岩ヒトデを水槽の中に戻し、その隣に置かれた水槽をデスクの上に持ち上げます。
その中には、赤や青などそれぞれ違う色の鱗を持った、5~7cmくらいの6匹の小魚が何もない空間を泳いでいました。この魚型のモンスターこそエアフィッシュです。
野生のエアフィッシュは魚の形をしていますが、本来は高度200mほどの空に生息しています。
そう、その名前の通り彼らは空中を泳ぐ魚のモンスターなのです。
「彼らは小規模な重力魔法を使い、体を空中に浮かせています。
見ての通り、彼らは非常に体が小さいですからね。ほとんど魔力を使わない魔法でも、高度500m以上まで自分を浮かすことができるんですよ」
重力魔法は、対象の重さによって消費する魔力が変わります。僅か5~7㎝ほどの大きさしかない彼らの体重は、それこそ1gもありません。そのぐらいだと、それこそ人間で言えば呼吸するほどの魔力消費による重量魔法で、かなりの高い効果を得ることができるんですね。
「空中を泳ぎながら、彼らは常に空気中のマナを口から吸収しています」
空中を泳ぐために重力魔法を常に使っていても、泳ぎながらマナを補給して魔力に変換していますから、決して魔力切れが起きる心配はありません。なにせ消費する魔法も少ないですから、泳いでいるだけで十分すぎるほどに魔力を補給することが可能です。
この際、吸収したマナの属性によって鱗の色が変わります。
彼らはこの世界の各地に生息しているため、生息している地域によって色とりどりのエアフィッシュを見ることができるわけですね。
「彼らがペットとして人気が高い理由として、手間のかからなさが挙げられます。
空気中のマナを勝手に吸収するので餌もいりませんし、糞もしないので水槽を綺麗にする必要もありません」
やはりペットを飼うとなると、気になってしまうのは世話の手間。
それがまったくかからず、勝手に部屋の中を泳がせているだけでいいというのは、飼い主にはうれしい生態でしょう。そのため子供から大人まで、それこそ忙しい会社員などでも飼うことができるペットとして注目されています。
「さて、彼らの姿から水中の魚のように、彼らも素早く泳ぐのではと思うでしょう?」
博士がそう言いながら水槽の蓋を開けると、非常にのんびりとした速度でエアフィッシュたちが研究室の天井付近へと向かっていきます。
その速度はとても遅く、その気になれば素手で捕まえることができるほどです。
これは研究室の中だからというわけではなく、野生で見かけるエアフィッシュたちも同じくらいの速度で移動しています。
「彼らは移動する際に、普通の魚と同じように尾びれなどを動かします。
しかし空中は水中とは違い、周囲にあるのは空気ですから水中のように上手く動くことができません」
水中で魚が素早く動けるのは、周囲に水があるのでヒレを動かすことで反発力が発生するからです。空気ではそこまで大きな反発力を得ることができず、結果としてエアフィッシュはゆっくりとしか動くことができません。
また、これは彼らが空中を泳いでいるだけでも魔力を確保することができるということも、理由のひとつです。
獲物を追いかける必要がなく、ただ移動しているだけで魔力が得られますから、早く動く必要がないわけですね。
「見た目が魚に酷似しているからフィッシュと名付けられていますが、体のつくりは全く違います。
どちらかと言えば、トカゲなどの爬虫類に近いかもしれませんね」
エアフィッシュは尾びれや胸びれはありますが、エラは存在しておらず肺呼吸をしています。また餌を食べないので消化器官は存在せず、口は呼吸のためだけの機能しかありません。
さらに目の構造も違っており、高空でもしっかりと周りを見渡すことができるよう、目は薄い膜で覆われています。
その他にも、こまごまとした部分が魚とは構造が違っていて、見た目以外は全く別の生物と言えるでしょう。
また、彼らは一度空に浮かぶと死ぬまで落ちてくることはありません。死ぬまで空に浮かび続け、死期が近くなると地上付近まで下りてきてそのまま地面に落ちて死ぬ。
浮かんでいるだけで生きているからこその、何とものんびりした一生です。
「ちなみに高度500mというと、彼らを食べる鳥型のモンスターもほとんど飛んでいません。
それもあって、無理に動く必要がないんでしょうね」
そんなエアフィッシュですが、ペットとして捕まえる際にはどのようにしているのでしょう。
もちろん、人間でも重力魔法を使えるマジックユーザーなら、高度500mまで上昇することはできます。ですが、それだけの実力を持ったマジックユーザーは上級探索者くらいのもので、いくらペットとして需要があるとはいえとても報酬との釣合いがとれているとは思えません。
さらに探索者ギルドの依頼にも、エアフィッシュの捕獲依頼は多く出ていますが、依頼を請けるのは駆け出しや下級の探索者ばかり。高度な重力魔法は使えないだろう彼らは、どのように捕獲するのでしょうか。
「答えは簡単で、ドローンを使って捕獲するんですよ」
次元融合が起きてからも、当然ながらそれ以前まで使われていた科学技術は多く使われています。それは乗り物などはもちろんですが、ドローンなど便利な機械も同様です。
しかも今では魔法技術と合わさって発展しているため、さらに便利なものとなっているのです。
例えば現在使われているドローンは、飛行する際に重力魔法を込めた魔石が使われています。そのため科学技術だけのドローンよりもさらに繊細かつ、高度もかなりの高さまで浮かぶことが可能となります。
そんなドローンを使えば、確かに動きの遅いエアフィッシュを捕まえるのは簡単です。
一般的にはドローンの後方に捕獲用の網を付けて、そのままエアフィッシュが生息している高度500mをしばらく動き回るだけ。それだけで数十匹のエアフィッシュが捕獲できてしまいます。
先ほど言ったようにエアフィッシュの移動速度は遅いため、捕獲用ドローンを見て逃げようとしても逃げ切れません。
ですから彼らは、面白いように捕獲することができるのです。
「その捕獲しやすさもあって市場価格自体はそこまで高くありません。
しかし、実はごく限られた条件を満たすエアフィッシュは、なんと100万円単位で取引されています」
捕まえやすいエアフィッシュの店頭価格の平均は、おおよそ千円前後。
それを考えると、100万円というのは非常に高額です。そんな高値で取引されるエアフィッシュとは、どのような条件を満たしたものなのでしょうか。
「エアフィッシュの鱗は、吸収したマナの属性によって変化するというのは先ほど言いましたよね。
この鱗の色が変わっていない――無色のエアフィッシュが、高値で取引されているんです」
エアフィッシュたちの鱗の色が変わるのは、そこまで時間はかかりません。モンスターとして発生した瞬間からマナを吸収して、だんだんと変わっていきます。おおよそ2時間くらいは変化が起きませんが、それ以降は加速度的に色がついていって24時間後には体全体の色がしっかりと変化します。
ですから鱗が無職のエアフィッシュというのは、発生してからおおよそ2時間以内の個体です。
いつ発生しているのか分からないモンスターだからこそ、無色のエアフィッシュはとても貴重とされています。
「無色のエアフィッシュが何故高価なのか、それは貴重だからというだけではありません」
近年、エアフィッシュをペットとしている人たちの間でどれだけ美しい色をしたエアフィッシュを育てられるかというのを競うのがブームになっています。
実はエアフィッシュの鱗は一色だけになるわけではなく、例えば複数の属性のマナをバランスよく吸収すると、それぞれの色が合わさった色になったり、まだら模様になることもあります。
無色のエアフィッシュを購入する人たちは、そういった彼らの特性を活かして世界に一匹しかいない、自分だけの特別なエアフィッシュを生み出すことを目標としているのです。
さらにそうして自分だけの色を生み出したエアフィッシュの鱗の美しさを競う大会もあるため、無色のエアフィッシュというのはエアフィッシュ愛好家の間では競うように求められています。
そういった背景もあって、無色のエアフィッシュはこんなに高値で取引されているのです。
「それと、彼らはペット目的以外にも需要があるんです」
ペット以外でのエアフィッシュの需要。それは主に土地の調査をする企業からの需要です。
それぞれの土地がどの属性のマナが多いのか、それを知ることで水害などを未然に防ぐことが可能となったり、農作業に適した土地を見つけたりということができます。
そういった場面で、エアフィッシュの吸収するマナの属性によって色が変わる鱗というのは、まさにうってつけのリトマス紙になってくれるわけですね。
特に山岳部では、赤いエアフィッシュを見かけたら近くに活動している火山がある証拠なので、山を通過する人たちからは危険察知に役立つと重宝されているのだとか。
そのため、そういった企業からの捕獲依頼もちらほらとギルドに出されています。
ペット需要と比べると多くの数はいらないので、本当にちらほらというぐらいの頻度ではありますが。
こうして見てみると、エアフィッシュはペットとして、そして土地の問題を未然に防ぐための道具としてなど、モンスターでありながら私たちにとってメリットしかないように感じます。
「ただ、野生のエアフィッシュはまったくの無害というわけではありません」
エアフィッシュは死ぬ間際、地上付近まで下りてくると説明しましたが、その際に車のフロントガラスにぶつかってしまうという事故が発生する場合があります。
もちろん彼らは小さいですからガラスが割れるということはありません。
しかし、いきなりぶつかってきたエアフィッシュに驚いて、ハンドル操作を間違ってしまう運転手もいるので、年間数件ではありますが自動車事故の原因となっているのです。
彼らからすれば、死にそうだから降りてきているだけなのですが、それが私たちにとって思わぬ事故の原因となる。
それはやはり彼らが空を飛んでいる以上、避けられないものなのかもしれません。
「それから何らかの要因で空中でエアフィッシュが死んだ場合、その死体が上空500mから落ちてきて、運悪く下を通っていた人間に当たってしまうという事故も時々起こります。
意図的ではないにしろ、エアフィッシュは一応我々にとって脅威になる部分も持っているんですよ」
偶然の事故ではありますが、岩ヒトデとは違い野生のエアフィッシュは我々にとって害になる部分もあるようです。
とはいえ、交通事故に遭うよりも低い確率ですから、あまり気にするほどでもありませんが。
◇◇◇◇◇
岩ヒトデとエアフィッシュ。
どちらもモンスターでありながら、殺傷能力を持たず特に危険な生態も持たず、ただただ周りに迷惑をかけずに生きています。そのおかげで我々人間にペットとして目を付けられ、より安全な環境で生きていくことができたわけですから、ある意味では誰よりも上手に生きているモンスターと言えるかもしれません。
モンスターでありながら我々と最も近しい関係になりつつある、この2種類のモンスターたち。
人間から可愛がられる彼らを見ていると、まるで狙ってそうなるように自分たちを作ったのではないかとさえ思えてくるのです。相手に脅威を与えず、むしろ飼われることを目的としているような、そんな生態を持つ岩ヒトデとエアフィッシュ。
野生で生きていくにも適しており、ペットとしても丁度良い。
そんな彼らは、私たち人間の街で今日も誰かの家族として迎えられています。
視聴者の皆様も、この機会に彼らをペットとして迎えてみてはどうでしょう?
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