特別回『次元融合の前後で変わった世界』

 この世界にはさまざまな生き物――モンスターが存在しています。山と見紛うほどに巨大なドラゴンをはじめとして、陸海空を問わず人間よりもはるかに広大な範囲に生息するモンスター達。

 しかし、ほんの200年前までは私たちがくらすこの世界……地球にはモンスターは存在していませんでした。

 ではなぜ今、私たちの身近にモンスターがいる世界になったのでしょうか。


 今回の世界モンスター紀行は趣向を変え、モンスターの生態ではなく私たちが暮らす世界に目を向けてみましょう。

 もはや日常の一部になっているモンスターたちや、普段から使っている魔法、これらはほんの200年前には存在していないものでした。

 しかし、200年前に起きた事件――次元融合と呼ばれる現象が、それまでの世界を全て変えてしまったのです。


 次元融合が何故起こったのか、そして次元融合が起きる前と後では何が違っているのか。

 それは私たちの生活だけでなく使用されている技術や、生活様式などさまざまなジャンルで大きな違いがあります。今よりも発展していた部分、劣っていた部分、その両方を見ていきましょう。


 私たち人間の体についても、次元融合の前後では決定的な違いが出ている部分も多くあります。

 そういった意外と知られていない世界についての知識を、今回は皆さんと一緒に学んでいければと思います。

 それでは世界モンスター紀行特別回、はじまりです。




●世界モンスター紀行

 特別回『次元融合の前後で変わった世界』




 私たちが今生きる世界が形作られたのは、正確には216年前とされています。

 それ以前を旧魔時代、次元融合後を新魔時代と呼ぶのは、多くの人が学校などで習ったことがあるのではないでしょうか。時代ごとの名前から次元融合以前には、まったく魔力が存在していなかったと考えている人は多くいます。

 しかし、実際には旧魔時代の終盤ではありますが、魔力は存在し、しっかりと運用されていました。


 むしろ魔力が使われていたからこそ、次元融合が起きる切っ掛けとなったのですが……その解説は後にしましょう。

 まずはマナと魔力について、改めて説明をしていきます。



 マナとは簡単に説明すると、世界中どこにでも存在する魔力の燃料となる存在です。

 そして魔力は生物や植物などが何かしらの行動……それこそ呼吸をする際にさえ消費され、再びマナとして空気中などへと放出される、という性質を持っています。

 感覚的には人間が呼吸をする際に、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すことに似ています。


 消費された魔力は、それを生成する際に使われるのと同量のマナとなるため、普通に使われているだけならば、それこそスライムの大量発生などの異常事態でもない限り、枯渇することはありません。


 さて、このマナと魔力の関係は今の私たちならば、小学生でも知っている知識です。

 それではこの知識を前提として、旧魔時代にあったできごとを見ていきましょう。



 旧魔時代の終盤、当時の言い方をするなら西暦2494年。

 この年、地球で初めてマナと魔力が発見されました。発見したのは当時、今まで使っていた物に代わる代替エネルギーの研究をしていたシコルスキー博士。

 博士はマナと魔力の関係性についても発見し、永久機関として使えるエネルギーとして大々的に発表。

 地球上のあらゆる国で、魔力を使った発電機関――魔力炉が作られたのです。


 この魔力炉の発明は、当時エネルギー問題が問題となっていた世界中を救う発明として話題になりました。

 世界各地の主要都市には大型の魔力炉が設置され、さまざまな移動手段にも使われるようになっていきます。

 最初に説明した通り、マナは魔力として使われれば、その後再びマナへと還元されるため、永久にエネルギーとして使い続けることができます。

 ですからどれだけ使っても減ることのないエネルギーは、当時とても魅力的なエネルギーでした。



 新しく発見された無限に使えるエネルギー。

 まだ魔力に対してそこまで深くわかっていなかった当時の人々は、このエネルギーを連日使い続けていました。

 しかし、当然ながらそれまで使っていたエネルギーと同様、魔力もまた使うことにデメリットが無いわけではありません。最初の問題が起きたのは翌年の2495年。


 この年、恐らく世界で初めての魔力欠乏症による死亡者が発生しました。

 資料によれば亡くなったのは当時まだ小学生だった男の子。しかし当時はまだ魔力欠乏症という概念はなく、別の病気による死亡であるとされていました。

 ですがこの男の子が死亡したの皮切りに、世界各地で似たような症状……つまり魔力欠乏症を訴える患者は急増していくことになります。


 では何故、世界中で同時多発的に魔力欠乏症患者が爆発的に増加したのか。

 原因は、当時それこそ世界中のありとあらゆる場所で使われていた魔力炉です。


 当時の魔力炉は現在使われている物に比べると、非常に効率の悪いものでした。

 大量のマナを吸収して大量の魔力を発生させ、それによって発電する。それこそありとあらゆる都市で使っていたのです。そうすると何が起きるのか……。



 当時を研究していた博士たちによれば、大型の魔力炉が大量に設置されていたこの時代、世界各地で極端なマナの偏りができてしまっていたと言われています。

 先ほど言った通り、当時の魔力炉は非常に効率が悪く、魔力を発生させるためにはかなり大量のマナを取り込む必要がありました。当時の魔力炉がマナを集める範囲は、それこそ周囲数十㎞。

 それだけの範囲からマナを集め、魔力として使ってからまたマナを集める。これを繰り返していたわけですから、当然魔力炉周辺以外の地域では、深刻なマナ不足が発生します。


 マナは還元されて再び周囲へ戻っていくものであり、自然発生するわけではありません。

 つまりマナがあった場所へと還元されるよりも先に再び吸収されてしまえば、マナが極端に濃い場所と薄い場所ができてしまうわけです。

 このマナが極端に薄い場所に住んでいた人々こそ、魔力欠乏症を起こした患者たちでした。


 魔力への知識が乏しかった当時では、気づくことが難しかった魔力欠乏症の患者たち。

 しかし、当時彼らの容態を診ていた一人の医師が、自分の患者たちの共通点に気づいたのです。



 その医師こそ、現代魔力学の祖と言われるユカ博士です。

 彼女は患者たちの症状がどれも似通ったものであり、住んでいる地域が首都から遠いほど症状が重くなっていることに気づきました。

 そしてユカ博士は突然世界各地で急増している謎の病に苦しむ患者たちと、魔力炉の関係を疑い始めます。

 彼女は患者たちが住んでいた地域と症状の重さ、そして小型の魔力炉を用意して症状の改善ができるかどうかなど、さまざまな研究を行いました。


 その研究は実に3年にも及び、結果として彼女は世界で初めて魔力欠乏症を発見したのです。

 当然、彼女はすぐに魔力欠乏症と魔力炉の関係を世間へ向けて発表しました。ですが当時の世論は、彼女のこの発表に対して否定的でした。

 自分たちが求めていた永久に使えるエネルギー、それに致命的なデメリットがあると認めたくなかったのでしょう。

 当然ですが、博士が魔力欠乏症の研究をしている間にも、世界各地で魔力欠乏症患者は増加の一途を辿っていました。


 博士はその後も粘り強く発表を続け、治療のために魔力炉の廃止や改善などを提案し続けました。

 しかし博士の努力は実を結ぶことなく、ある意味では最悪の形で解決することとなるのです。




 ◇◇◇◇◇




 魔力炉が完成してから10年が経った2504年。

 世界中のマナバランスは、致命的なまでに偏ったものとなっていました。魔力は私たちが生きるためには欠かせないもの、それこそ呼吸をするだけでも魔力を消費しますから、その原動力となるマナの偏りはとても恐ろしい問題です。


 大型の魔力が設置されている都市の周辺数十㎞。

 これ以外の地域に住む人たちは、いつ自分が魔力欠乏症を発症するのかに怯えながら暮らし、安全圏である首都周辺の居住権を争うようになっていました。

 世界各国の政府も魔力欠乏症については問題視していましたが、魔力炉の廃止を考えることはできませんでした。

 それくらいに魔力というエネルギー、そして魔力炉という永久機関に、当時の世界は依存しきっていたのです。


 そして旧魔時代最後の日。

 資料によればそれは2504年10月24日のこと。



 ついに旧魔時代の終わり――次元融合が起きました。



 この次元融合が起きた原因は、当然ですが魔力炉によるマナの大きな偏りです。

 マナが欠乏した地域には、当然ながら人間だけでなくさまざまな生物、植物がいます。それらすべてがマナを求めているため、マナが無いのにマナを吸収しようという力が働いていました。

 10年という歳月により、マナの薄い地域が増え続けていた結果、マナを吸収しようと吸引する力もまた、同様に増え続けていました。


 しかし魔力炉という強力なマナ吸収を行う機関があるため、マナは薄い地域へと戻らず首都周辺に留まり続けます。

 つまりマナが薄い地域の吸引力は弱まることなく、どんどん強くなっていったのです。

 ですが当然ですが吸引しようとするマナが近くに存在しないため、マナを求める力はどんどん強く、そして遠くからマナを吸引しようとしはじめます。


 本来なら、この時点で首都周辺に溜まっていたマナは各地へと吸引されなおし、正しい濃度に戻っていくはずでした。

 しかし魔力炉はこの10年で更に効率化が図られており、より広範囲からより強くマナを吸引するように改良されていたせいで、自然の力よりも強くマナを集めてしまっていたのです。



 言ってしまえばマナの需要と供給が成り立たなくなってしまった状態。

 それが続いた結果起こされたのが、次元融合という現象です。



 これは名前の通り2つの異なった次元に存在する世界が融合してしまう現象で、普通はまず起きない現象です。

 なぜなら異なる世界の間には大きな隔たりがあり、世界が動くこともないため本来ならあり得ないはずの現象でした。しかしマナが無い地域が増え、より遠くからマナを求めようとした吸引力は、異なる2つの世界を動かしました。


 本来あり得ない世界の移動、それによりついに我々が暮らす世界ともう一つ……いわばよりマナが豊富な世界とが近づき、限界点を超えて重なりました。

 そして本来ならあり得ないはずの次元融合が起きてしまいます。




 ◇◇◇◇◇




 次元融合が起きた際、当然ですが当時の世界は大混乱に陥りました。

 2つの異なる世界が融合したことによる影響は、地形から気候、さらには生物まで無差別に起きます。今まで道だった場所が突然山になり、逆に今まで山だった場所に海や湖ができ、さらに存在していなかった生物が出現する。

 さらには噴火や津波、地震などの自然災害もまた、ほぼ同時に多発したのです。


 この次元融合によってもたらされた災害により、少なくとも当時の総人口の半数が失われたと言われています。

 中には突然現れた山や海に取り込まれた人もいるというのですから、被害と混乱の大きさは推測することすらできません。


 ちなみにこの時に起きた噴火や津波などの自然災害は、世界が融合した反動だけでなく、マナが急激に濃くなったことも原因ではないかと言われています。

 簡単に言うならば『地球』という大きな生物が、突然増えたマナを持て余してしまった結果、増えた分のマナをなんとか魔力として消費しようとして、自然災害を起こしたのではないかということですね。



 この自然災害はなんと1ヵ月にもわたって続き、災害が終わった頃には人口はさらに失われていました。

 もちろん、この大規模な自然災害によって人類の文明は大きく破壊され、生きていくことすら困難な時代が始まります。



 新魔時代のはじまりは、このように最悪の形で訪れました。

 天変地異によって失われた文明、そして多くの人命。さらに周囲は今まで見たことのない生物――我々の知るモンスターも含まれています――が闊歩し、食糧調達すら命がけの世界。

 この時期、人類はまさに絶滅の危機に瀕していたと言えるでしょう。



 これまで紹介してきた中でも、ディグラビットやスライムといったモンスターは、銃火器でも対処することが可能ではありますが、当時は天変地異により人類側の武器はほぼ失われています。

 世界各国の軍隊もまた、天変地異によってほぼ壊滅状態。とても各地にはびこるモンスターを討伐することはできません。

 それにシルバーベアなどの大きなモンスターに至っては、それこそ戦車を持ち出してようやく互角。とてもではありませんが、補給がままならない状況で積極的に生存圏を広げることは難しい状態だったのです。


 次元融合による人類にとって初めて直面する絶滅の危機。

 それを救ったのは、世界で初めて魔力欠乏症を発見したユカ博士、そして現在まで伝わる魔法を初めて作り出したとされているトレバー博士の2人です。

 この2人の博士によって、魔力による人体強化と魔法が開発されたことにより、人類はモンスターに奪われていた生活圏を再び取り戻していくことになります。


 ユカ博士は魔力欠乏症を発見してからの経験により、魔力とは人体に欠かせないものであることと同時に、その魔力を効率的に使うことで、人体の限界を超える力を発揮できるということを発見しました。

 さらにユカ博士は当時の人々の中に、とても少ない割合ではありますが常人とは違い、体内に貯蔵しておける魔力の量が増えていく人間がいることにも発見します。


 通常、人間が貯蔵できる魔力の限界量は赤ん坊の時に決まり、その限界量に合わせて体を成長させていきます。

 ですから、限界量を超えた魔力を体内に蓄えてしまった時には、普通の人間なら最悪器の崩壊――死につながるのです。


 しかし、今でいう探索者に多く見られるこの限界量が増えていく人種は違います。

 モンスターなどを討伐した際に、そのモンスターが持っていた魔力の一部はもっとも近くの生物……つまり探索者へと吸収されていきます。

 探索者の体内では、その吸収した魔力に合わせて蓄えられる限界量が少し増えるのです。

 もちろん、死んだモンスターの魔力ですから量は微々たるもの、100が101になるかどうかという程度。


 しかし彼らは短時間で複数のモンスターを討伐するため、増えていく量も意外とバカにできません。

 そうして、探索者たちはモンスターを討伐することで、モンスターよりも多くの魔力を体内に貯めこめるように進化、簡単に言うならレベルアップをしていけるのです。


 そして魔力の貯蔵量が多いということは、魔法や魔力強化で使える魔力も大幅に増えることになります。

 そうなると、彼らは銃火器を使わず剣や槍といった原始的な武器を使って、大型のモンスターとも生身で戦うことができるようになっていきます。

 生身でモンスターたちと戦える存在、それが当時の人類にとってどれだけ明るいニュースだったのかは想像に難くありません。




 そしてトレバー博士による魔法の開発は、失われた文明を復活させる大きな手助けになりました。

 彼が最初に開発した魔法は、今では当たり前のように使われている生活魔法の数々。どんな汚れでも一瞬で落とすことができる『浄化』や、電気を使わずに辺りを照らすことができる『灯』など、生活魔法は当時の状況を考えれば非常に重宝されたでしょう。

 しかし意外なことに、博士は攻撃魔法を開発することはついにありませんでした。

 それは、当時はそれだけ普通に生活することが難しかったのかを物語っています。



 さて、新魔時代がはじまってから20年が経過した頃。

 モンスターに対抗できる人類による討伐、そして生活魔法を中心としたさまざまな魔法の開発によって、少しずつですが確実に人類は生存圏を拡大していきました。

 当然、対抗できる人類が出現したといっても、モンスターの生態もよくわかっていない状態の戦いです。

 初代探索者の死亡率は、実に9割と非常に高いものでした。それでも、探索者となった人たちは人類の生存圏を少しでも広げるために、毎日のようにモンスター討伐を行いました。



 この初代探索者たちの活躍によって、次元融合から20年越しに人類はようやく自分たちの生活圏を確立したのです。

 私たちが住む日本では、トーキョー、オーサカ、アオモリの3つの都市が最初に設立され、他の都市はそれよりも後に作られた都市とされています。

 取り戻された3つの都市。ここを拠点として、人類は更なる躍進をはじめます。


 ひとつは魔力炉を中心とした一定の範囲内に、モンスターが入ることができなくなるようにする『結界』の開発。

 結界は今も各都市で使われていますが、我々が安心して生活するためには欠かせないものです。この結界の開発を主導したのは、魔力の第一人者であるユカ博士。


 彼女はこの時もう65歳と老齢ではありましたが、精力的な活動でモンスターと人間の発する魔力に微弱な波長の違いがあることを発見します。

 この発見を利用し、特定の魔力だけを弾く魔力の壁が開発されたのです。

 結界は魔力炉をエネルギー源としており、魔力炉が稼働する限り半永久的に維持することができ、さらに広い範囲をカバーするために必要な魔力も少ないと非常に優れた防御手段でした。


 結界の開発により、いわゆる人間とモンスターとの縄張り争いに終止符が打たれました。

 結界は小型の魔力炉であっても、直径10kmほど広げることができます。これによって大型魔力炉の無い場所であっても結界を張ることができ、首都だけでなく村など小規模な集落も続々と増えていくことになります。


 今まではいつ敵に襲われるか分からず、場合によっては複数の場所を転々としてきた人類にとって、結界は非常に重大な発明でした。

 モンスターに襲われる心配をせずに眠る場所が確保できる、それは当時の人々からすればまさに神の所業だったでしょう。


 一ヶ所にとどまって生活ができるようになり、食糧の生産や科学研究などさまざまな文明的活動が可能となりました。

 人類は20年という、次元融合以前の文明が完全に風化する前に、なんとか文明を取り戻すことに成功したのです。

 これにより、この20年で大きく減少した人口もまた、少しずつ増加の兆しを見せ始めます。



 そしてもう一つ、大きな躍進の手助けとなったのがトレバー博士による魔力砲の発明です。

 結界は中型――シルバーベアくらいまでの大きさのモンスターならば、どんな攻撃をされても平気な強度を持っています。しかしそれ以上の大きさとなると話は別です。

 特にドラゴンの突進ともなれば、それこそ一撃で破壊されてしまいます。


 ですが、大型モンスターの討伐はこの当時ではほぼ不可能とされていました。

 戦闘機はほぼ壊れているため使えず、制空権を失っていたからです。そのため、大型モンスターが出現した際には戦車などを総動員して撃退していましたが、次元融合から20年という月日により、その方法もだんだんと難しくなっていました。


 そこに登場したのがトレバー博士の発明した、魔力があればいつでも使える魔力砲なのです。

 魔力砲は魔力を込めることで威力が増していくため、強大な魔力を込めればドラゴンですら一撃で葬ることができる兵器。さらに魔力を込めなければ暴発の心配もなく、安全に運用することができるのも利点のひとつでした。


 これによって今まで撃退できれば御の字、襲われれば甚大な被害を受け入れるしかなかった大型モンスターの襲撃に対しても、明確な対抗手段を手に入れることができたのです。

 人類はこの魔力砲を活用し、さらに生存圏を広げられるようになりました。



 と、次元融合から20年が経過し、そこからようやく巻き返しの兆しが見え始めた人類。

 しかしここで、一つの問題に突き当たります。


 それはモンスターの生存域は、一定以上に狭まらないという事実です。

 どれだけモンスターを駆逐して結界を置いたとしても、次の日にはそこにモンスターが発生している。これはどれだけ繰り返しても変わることのない法則でした。

 この現象は、現在では『モンスター生息保存の法則』と呼ばれているものです。


 モンスター生息保存の法則は、簡単に説明すれば「モンスターの生息域は、そのモンスターが必要としている範囲よりは狭くならない」という法則です。

 全てのモンスターには自分たちの生命維持に必要な活動をする範囲が決まっています。

 その範囲は多少狭くなることはあっても、生命維持が困難になるほど狭くなるということはありません。


 つまりどれだけ人類が生存範囲を広げようとしても、必ず限界が訪れるということになります。

 モンスターを完全に絶滅させることはできません。これは現在、さまざまな実験によって証明されている事実です。

 ですから、人類とモンスターはお互いの生存圏をうまく折半しなくてはいけなくなりました。



 この調整には非常に時間がかかり、今我々が暮らしているような街ができたのは次元融合から50年が経過した頃でした。

 モンスターの生存圏と、人類の生活圏が重ならないギリギリまで結界を広げ、それを広げていく。この作業を30年ほどで完成させたのは、人類の賢さと必死さによるものでしょう。


 こうして、次元融合より50年で人類は今の私たちが暮らす場所の基盤を作り上げました。

 安定して暮らせる場所を手に入れた人類は、魔力炉の改良や新しい魔法の開発など、更なる発展を見せていきます。その中には、周囲のマナを使うのではなくモンスターの素材を使った魔力炉の運用法なども含まれます。

 もちろん、旧魔歴に使われていたコンクリートや自動車など、さまざまな旧文明のテクノロジーもまた、この現在に至るまでに再び使用可能となっており、使われ方は違っていますが現在でも多くの人が使っています。


 次元融合という人類絶滅の危機から200年余り。

 人々はモンスターという新しい生物、そして魔力というエネルギーとうまく向き合う術を発展させてきました。それは現在にも受け継がれ、この世界モンスター紀行などでも活かされています。


 人類の無知から起きた大事件――次元融合。

 その前後で大きく変わってしまった世界には、このような歴史があったのでした。





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