描かなくなった。
そういえば、描かなくなってどれくらいの時間が経ったのだろう?
昨日、描かなかったなぁ。
もう3日は描いてない。
なんて思って、うっかりたばこを切らしてしまったときのように落ち着かなかったのは、ずっと前のことだ。
今は落ち着いているのだろうか。
どこかを煙のように漂って……あぁ、思えば、たばこも、酒も、やめて久しい。
久しい。なんて言葉を使える程度には、筆にもキャンバスにも、テレピンの匂いにすら触れていない。
だから、もしかしたら初めてなのかもしれない。
久しぶり、とさえ思うことは、これまで無かったのだ。
ずっと描いてきた。
けれど、どうしてだったか、一度やめて、それっきり。
どうして、なんて分かりきっている。
けれど、分からないふりをしているのだろうか。
道具が今、どこにあるのか分からないのと同じように。
どこかにしまって、なくしたことにしている。
探せば見つかる。
筆をとれば……。
なんて。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。
もう、これから先、なんてものがあるのなら。あるとして?
二度と描かなかったとしても、俺は描けなくなったのではない。
酒をやめても死にたくならなかったし、古くさい居酒屋から漂う郷愁も、ただの風景になった。
それと同じことだ。
あいつの居ないこの部屋の数年間も、煙やアルコールのようにこの体から抜けきっている。
俺は、俺なのだ。
やめても、なくしても、かくしても、かかなくても、俺が俺でなくなったりはしなかった。
それしかない。
なんてのは、勘違いだ。
だから、それは、初めから……。
あぁ。
そういえば、描かなくなってどれくらいの時間が経ったのだろう。
今となっては、遠い、昔のようだ。
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