潜水艦。
ああ、こうして一人潜水艦の底に僕はずっと沈んでいる。
今から二週間前のこと。
僕ら海底調査団を乗せた潜水艦ルース・アルファ号は、今から一週間前。突如事故によりスクリューを破損した。
その結果、僕らは海の底で誰に知られることもなく、また、救助など望むべくもなく、置き去りにされた。
クルーの一人は閉所によるストレスなのか、または救いようのない未来への絶望からなのか、どうやら発狂したらしく、ピストルで隣に座っていた操舵手のジョンソンを射殺して——。
自殺した。
後は、地獄だった。次々にその狂気が伝播して、クルーは——三十人いたクルーは、たったの三人に。
結果的には良かったんじゃないかと僕は思う。
なんせ使う空気が十分の一だ。食料も十分の一。
つまり僕らはこれから十人分は生きられる。
「なんてラッキーなんだ!」
と僕ら三人はそうやってどうにか納得した。
「これからどうする?」
生き残った三人のうちの一人。お調子者のアレックスはそう言った。
けれど僕も、もう一人の生き残りであるリリアナも。何も答えることはなく、何をするともなく、一日が経った頃。
ふと、リリアナは言った。
「今からゲームをしない?」
アレックスは首を傾げながら、
「ゲーム?」
と、言った。
思えば、リリアナは今までずっと『この世の終わりのような顔』をしていたけれど、このときは、まさに狂気そのもの。世界中に大輪の花が咲き誇るように、もう悩みなんて何もないというような風で、アレックスが引くくらいに笑っていた。
「ええ。そう、ゲーム。この中のひとりだけが生き残る素敵なゲームをしましょう♪」
僕らは言葉を失った。
けれど一分ほど。アレックスと見つめ合っているうちに僕らも——
「おぅ! いーじゃん!」
そんな空気になった。
正気。
そんなものは、とうになくなっている。
クルーが十分の一になったときに?
スクリューが壊れたときに?
あるいは、海底調査に乗り出した最初からそんなものは、なかったのかもしれない。
そして、ゲームが、始まり、ゲームが、終わり、楽しい、時間が、終わり。
こうして、一人、潜水艦の、底に、僕は、ずっと、沈んで、いる。
空気と、食料と、僕の、心が、尽きない、限り。
いつまでも、いつまでも。
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