造花。
ある日、しばらく使っていなかった玄関の鉢植えの土を入れ替え、真っ赤な薔薇の造花を植えた。
綺麗で繊細で、良くできてはいるけれど、それは誰がどう見ても作り物と分かるような偽物の花。
なのだと私は思っていたのだけれど、おかしなことに、うちに来るお客さんはみんな「あら、なんて立派な薔薇かしらん」とか「まぁ、とっても素敵な香りの薔薇ですわ」と言って愛でていく。
枯れなくて、色褪せない、いつも誇らしげに咲く鮮やかな薔薇の造花を、まるで本物であるかのように。
意地の悪い皮肉なのか、鉢植えの上の冗談を共有してくれているだけなのか、私には判断がつかない。
よもや判断がつかないお客さんばかりだということもあるまいが、これまで薔薇は薔薇であることを否定されたことがなく、未だに誰一人としてこれが偽物の作り物であると、指摘したことはなかった。
恰もそれが薔薇であることを信じて疑わないかのように。
そして、その薔薇の美しさをお客さんの悉くが褒め称えるので、私はついに疑問を抱いた。
本当に、この薔薇は造花なのだろうか?
或いは、これは本物なのでは。
そう思い、私は鉢植えを玄関にひっくり返して土をぶちまけ、それを引き抜いた。
果たしてそこには、力強く張り巡らされた根っこ、などはなく。
それはやはり、薔薇の造花だった。
「なぁんだ。やっぱり偽物じゃないか」
思わず笑ってそう呟くと、薔薇は言った。
「ごめんね」
私は悟った。
確かにその花は造花で偽物だったが、そこには命があったのだと。
すっかり真っ白になった薔薇を私は土に埋めた。
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