グラジオラスのお花
あれからちょうど1年、
3人はお父さんのお墓参りに向かうため準備をしていた。
ちょうど1年前もお墓参りに行く準備まではしたが、
出発前にレオの体調が急に悪くなり
お墓参りに行くことを断念し、その1週間後にお墓参りに行った。
今日はレオの体調も万全で天気も良好だ。
レオは、お父さんが好きだったという
紫のグラジオラスの花を摘み、
それをティアレが綺麗にラッピングをして花束にした。
「今年も綺麗にできたわね。」
シェリーは2人の頭を撫でながら嬉しそうに笑った。
この2人はお父さんがなぜ死んでしまったのかということを昔は
ちょくちょく聞いていたが、
この話をするとシェリーが困る事をもう理解しているようで、
子供達なりの気遣いなのか理由を聞かないでいた。
15分後準備を終えた3人は歩いてバス停に向かった。
バス停に向かう途中には、
「おはよう、今日も3人揃ってお出かけなんて良いわね。気を付けて行くのよ。」
と、目的を知らない近所のおばあちゃんが陽気に声をかけてくれた。
相変わらず、森林おじさんだけはこちらから
挨拶をしてもぼそっと返されるだけだった。
シェリーはまたもや50代の女性に話しかけられ、
料理の話で盛り上がっていた。
子供達は暇であったためその場でしゃがみこみ、
レオが持参した水筒のお茶を2人でちまちま飲んだ。
そして、ティアレがバスの時間を気にする様子をみせると
シェリーはそれに気がつき、無理やり会話を切り上げバス停に向かった。
この高齢化が進んでいるこのアラスカ町では若い人がくると、
あそこの奥さんは挨拶がなってない、家事をきちんとしていないらしいとか、
たちまち噂を広められた。
だが、シェリー家はティアレが学校に行っていないという大きな噂の種が
あるにも関わらず、悪い噂を広められなかった。
ティアレは、学校と一緒でシェリーが上手に近所付き合いを
してくれているお陰なんだと確信していた。
それだけでなく、若い人が町の輪に入れていないとシェリーが
仲良くなっていつの間にか若い人がこの町に馴染んでいることも度々あった。
そんなシェリーはティアレにとって自慢の母親であり、
人間としても尊敬できる人であった。
そして、バスに乗り田舎道を20分ほど進むと、
ようやくアラスカ町の中心街が見えてきた。
また、アラスカ町の中心街にはアラスカ町唯一の小学校もあり、
アラスカ町の小学生は皆ここの小学校に通っていた。
そして、シェリーにとってアラスカ町の中心街はここに引っ越す前に
少し住んでいた場所でもあり、
大きい買い物をする時はいつもここでするので、
どこに何があるかなど大抵の事は把握していた。
赤い屋根が並ぶこのアラスカ町の特産物は布らしく、
いたる所で自慢の布やその布でつくった服が売られていた。
美味しそうな食べ物も溢れていて、
屋台のおばさんは大きな声で、
「安くて美味しいよ〜!」
という決まり文句で果物を売っていた。
シェリーは吸い込まれるように屋台に行き、
数分後には大量のイチゴやバナナを嬉しそうに買っていた。
次は若い女の子に
「アクセサリーいかがですか。」と言われ
「あら、あれ可愛いわね。」と
とことことお店の中に入っていった。
ちなみにお父さんのお墓はここから歩いて5分のところにある。
いつもならお墓参りをしてからお買い物をするが
今日は9割近いお店がタイムセールを開催していて、
良い物はすぐに売り切れると言うのと、
午後にかけてものすごく混雑になるというシェリーの経験から、
お墓参りに行くのは買い物をしてからになった。
シェリーは、
「ちょっとお墓参りに遅れたからといってお父さんは
怒るような人じゃないわ。」
と言いながらお買い物を楽しんでいた。
そしてシェリーが定員と何やら話している間、
ティアレはその横にある無数に吊してあるドライフラワーのお店に目がいき、
気づいたら店内に入っていた。
花が好きなティアレは、
寿命が短い花の美しさを綺麗に長く楽しむ事が出来るというドライフラワーの
良さまだ分からず、
このお花たち枯れていてかわいそうだなと思っていた。
ティアレにとっては枯れている花が飾っている店内を
じっくり見ていると、
そのお店は自分でドライフラワーを作る体験もできるお店でも
あったため、
「綺麗なグラジオラスですね、このお花ドライフラワーにしますか?」
と定員に笑顔で言われ、手を差し出された。
定員は悪気がないものの、
ティアレは嫌悪感をあらわにして首を横にぶるぶると何度も振り、
グラジオラスをぎゅっと握りしめ、軽くお辞儀をした後小走りで外に出た。
「あっっっ!!」。
2人の声がハモった。
ティアレはティアレと比べ背が少し高く、体格が少し良い少年と
ぶつかり地面に手をついたため、グラジオラスの花束が宙を浮いた。
その瞬間、
「おっっと、」
と言い11歳の少年は素早い反射神経で見事にグラジオラスの花を掴んだ。
その少年は肌が焼けているおかげでより
際立つ白い歯を見せ、笑みを浮かべた。
また、口の右下にほくろがあり、笑みと同時に、ほくろもつりあがった。
「大丈夫か?」
「あっ、はい。あっすみませんでした。」
「大丈夫なら良かった、後この花束、落とさすに済んで良かった!」
男性は笑顔で会話を進め、グラジオラスの花をティアレにわたそうとした。
少年は花束に視線を向けながら、ティアレに花束を差し出した後、
1回花束を自分の方に引っ込めて、グラジオラスの花を横からも下からも見た後、
隣にいる10歳の少女に
「これグラジオラスだよね?」
と言った。男性は疑問系にしながらもグラジオラスだという確信があるのか、
堂々と隣の女性に確認したが、
「う〜ん??」
と首を傾げた。
その女性は決して太っている訳ではないが平均より顔が
ふっくらしているせいなのか、人柄なのか、
そのほんわかとした雰囲気と表情と声色で
「そんな事より早く返してあげて。」
と言った。
少年はティアレに花を返さず、再び横からも上からも
グラジオラスの花を見た。
しかし、少女はティアレが不審者のような顔付きで
青年を見ているのに気が付き、女性は咳払いをしてから、
男性が持っている花を取り上げた。
そして、
「あの、、すみません。」
と言いながら軽くお辞儀をして、丁寧に花をわたした。
ティアレも軽くお辞儀をして花を受け取ると、
ティアレと少女はお互い愛想笑いをした。
すると、青年は花束を指さしながら
「この花ってグラジオ」
「はい、グラジオラスです。」
とティアレはつい食い気味で言った。
「ほらっ当たった!グラジオラスの花、ディタールでよく見てたから。」
満足げに言い終えた後、ティアレに笑いかけた。
ティアレは聞きなれない単語を耳にして「ん?」
って顔をしたと同時に男性は
一瞬「しまった!」と顔をしたが、
隠すようにすぐにまた笑みを見せた。
だが、顔にでやすい性格なのか
顔から「しまった。」という感情が溢れ出ていた。
それは少女も一緒だった。
一瞬、少年の顔を見ては口を大きくあけたが、
すぐに少年と一緒に不自然な笑みをティアレにみせた。
そして、少女は再び軽くティアレにお辞儀をし、
「すっすいません。失礼します。」
となぜか謝り、少年の腕をひっぱりながらすばやく去って行った。
「ディタール?」
ティアレは聞き覚えのあるような、ないような言葉を
独り言の割には大きめの声で呟き首を傾げた。
その時、レオが近くにいたみたいで心配そうにティアレにかけよった。
ティアレはどういう意味なのか聞こうと思ったが2人の姿はもうなく、
レオに服を引っ張られ、
「お母さんあそこだよ。」
と言われ、いつの間にかそっちに気がいっていた。
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