大好きな海と大嫌いな海

あーる

大好きな海と大嫌いな海

指に痛みが走った

またやってしまった

この景色を刺繍しはじめてからずっとこの状態


針に集中しないといけないのに景色に意識がとられる

砂浜に座ってこの海を糸で描く

それが今の私の償い


この景色を刺繍にすると決めて走り出したからには戻れない

この刺繍が完成する頃にはこの手はどうなっているのか


まだ半分もできていない

針を少し進めては景色に見惚れて止まってしまう

時間がない

この刺繍は大切な贈り物になる


もうすぐ大切な友達の誕生日

この景色を選んだのもそれが理由

友達の名前は”海”


でももういない

海の中にいってしまった

海が大好きだったな


私と一緒に海で遊んでて

私が冲に流されてしまった

それを助けてくれたんだ


この手をしっかり握ってくれた

なのに私は最後に大切な手を離してしまった


だから海は大嫌いだ

でもあなたが好きだったから選んだんだ


この手で作る贈り物はいらないだろうか

大好きな場所をこんな手で描いたら怒るだろか

やめろと言いながらこの針で刺しているのだろうか


今の海は静かだ

あの時はうるさかったのに


私が嫌いなこの景色に見惚れるのはあなたがいるからだね

本当なら見たくもないのに


この手がどんなに痛くても汚れても

あなたが大好きだったこの海を完成させるから


受け取ってくれるだろうか

もしいらないと言われたらどうしよう

でもその方が気が楽かもしれない


どんなに嫌われても恨まれても

私は”海”が大好きだよ


『いった…』

またやってしまった

この痛みも悪くない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きな海と大嫌いな海 あーる @RRR_666

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ