第4話

 中高生の頃というのは、異様に校則が厳しいものだ。

 思春期真っ只中の子供たちを野放しにしておくのは、生徒よりも教師や親のほうが心配でならないのだろう。私はいちいち髪の長さを指摘されるのも面倒だったので、中学の頃には、髪の毛をふたつにわけて結っていることが多かった。綺麗なうなじだと担任がからかって触ってきたことがあると言ったら、セダカ君がこれまた異様なまでにうろたえた。その先生というのは、実は女の人なのだけれど。それから、私がいつも学校の窓から外を眺めてばかりいたとあるときに伝えたら、僕はその後ろから君のうなじを眺めていたかったものだと真顔で返された。さすがに、これには私も赤面した。

 そうこうしているうちに、セダカ君は、何故かセーラー服を用意していた。

 二十歳そこそこの年齢には、痛い出費だろうに本物の制服であった。しかも、新品ときた。親知らずの痛みも知るのに、今更、セーラー服ということもないだろうが、まあ、私は十代の頃から年齢不詳で通っているので良しとした。もちろん、セダカ君には詰襟を着ていただくことも忘れてはならない。

 嬉し恥ずかしの制服デートの再現である。初めてのキスで唇を噛み切られるのもなかなかセンセーショナルではあった。しかし、二十歳を超えてからの制服姿はその比ではない。ああ、恥ずかしい。恥ずかしい。

 セダカ君は、早速とばかりに、穴が開くほど私のうなじを凝視している。火照った頬を両手で覆うと、頭を下げる形になるので、余計にうなじが目立ってしまう。セダカ君が後ろから手を回してくる。キスをしてもいいかと訊かれたので、まだ、傷が塞いでいないから痛いと言ったら、当然のよううなじにだけど? と返された。あなどれない男である。この男、一体、私をどうするつもりかしら?

 以前、確かに私たちはカップルではあったが、それは子供の頃の話だ。しかも、家が正反対の方向にあったので、実はデートらしいこともしてはいない。それなのに、いきなりうなじにくちづけというのは、ハードルが高すぎる。頬の熱さを持て余し、顔から手を離すと、いつもの癖でスカートの裾を弄ぶ。ばかもの、スカート丈が短すぎだ。田舎の中学高校のスカートがこんなに短いわけないだろう。願わくばセダカ君がうなじに夢中でありますように。横目にそっと確認すると、目敏いセダカ君は露になったふとももの感触を味わっていた。本当になんて男! さすがに堪忍袋の緒が切れた私は、セダカ君をえいと突き放す。結果、押し倒されたのは私のほうであった。さすがに大人の男に馬乗りになられたら、どうしようもない。うなじに飽きたらず、耳を甘噛みしてくる。もう、心臓が限界かと思われた私は熱気を逃そうと息を吐いた。動かなくなった、正確には動けないのを確認したセダカ君は、「こないだの続き」と称して、いつかの一眼レフを持ち出した。

 やつの狙いは、初めからこれだったのだ。なんて計画的犯行。悔しさに歯軋りしたら、傷口が開き、再び、血の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る